逃避
トゥラヴス伯爵邸、我が家の正門前に騎士団が来たのが見える
「やっぱり来たね、ごめんなさいシンディ、私のせいで・・・」
「雪は悪くは無いよ、アレは不可抗力、ううん、覗いた子が悪い」
「うん・・・」
「それに雪が居なかったここまで上手くいかなかったし」
「シンデレラ、準備は?」
「ん、大丈夫、行ってきますお母様」
しっかり髪は染めたまま、割れた眼鏡を掛けて
質素な服装に身を包む
革製のポンチョを纏って、顔も隠す
これから私は下町に身を隠す
一応想定の範囲内、予想されたケースの1つだ
私に疑惑の目が向いて、直接王子と顔を合わせてはバレてしまうし
偽物のガラスの靴が履けなくても
「似ているこの娘で良い」という危険性があるからだ
似ている娘=シンデレラなのである意味正解なのではあるのだけど、私はイヤなので逃げさせていただきます。
ここまで来ると最終手段の国外逃亡も選択肢に入る
最初から国外に行けば問題も少なかったけど
お母様とリゼ姉様、シア姉様、雪との生活はとても素晴らしい日々で心地よく
この屋敷を離れ難かったのに・・・
事前に準備は終えていた
下町に数ヶ所、王都外の近くの町にも数ヶ所の住まいを
隣の部屋に護衛も1年前から住んでいて警護も万全
この数年で家事も覚えた
と言っても家事自体は前世で身に付いたものだから大した苦労はしていないけど。
ガチャ・・・
「奥様、騎士団がシンデレラお嬢様を・・・」
「分かりました対応します、シンデレラ気を付けて・・・
落ち着いたら手紙を」
「うん」
姉様達は基本的に嫁ぎ先の家に住み込みで花嫁修業なので今日は居ない
チュチュ!とチュー太が肩に乗ってきた
「僕が着いて行くでチュ」
「ありがとうチュー太」
「シンディをお願いねチュー太」
「チュチュー!」
小さい身体で敬礼するチュー太がとても頼もしい
裏口の使用人出入口からこっそりと出た
トコトコと歩いて、いつもの下町を通り人混みに紛れるだけだ
「おい、そこの」
「っ!」
後ろから声を掛けられる、振り向くと騎士の1人がこちらに向かって来た
その騎士の後方にも、そこかしこに騎士が見回りしているのが見えた
冷たい汗が伝う
「なんですか騎士様」
「今、ここいら一帯は見回りが強化されている、直ぐに家に戻って少しの間出てくるな」
「は、はい、何かあったんですか?」
「・・・はあ、王子のお気に入りに似た娘がここら辺の貴族の誰からしい
雇われ騎士の俺たちゃ王子様の嫁探しさ・・・」
本来の職務ではない仕事に辟易しているようだ
「大変ですね・・・」
「全くだ、ほれ行った行った!」
「はい、失礼します」
危ね・・・、私だなそれ。
堂々と屋敷から離れ、民家の多い方へと足を進めた
シンデレラが去ってから約数分後
シンデレラに声を掛けた騎士の所へ部隊長が見回りに来る
「おい、人は通ってないな?」
「は!子供が1人だけ」
「子供?」
こんな朝方に子供とは、部隊長は不審に思う
そこへ伯爵邸に行っていた他の騎士が駆けて来る
「隊長、トゥラヴス伯爵邸の娘は行方不明との事です!
昨日詰め所に伯爵邸から捜索願も出ております!」
「・・・おい、通った子供とは女か?」
「は!そうであります!」
「顔は?」
「フードに隠れて確認出来ませんでした」
「・・・くさいな」
トゥラヴス伯爵家では昨日の出来事でシンデレラの姿がバレてしまった前提で動いていた
母メイリアはシンデレラとシーラから話を聞いた時点で従者に騎士の詰め所へ行かせた
行方不明としておけば隠して匿える、騎士団が伯爵邸に来ても知らぬ存ぜぬを通せるし
邸内を改められた場合は別の拠点にシンデレラが移動する事も考えていたからだ。
騎士はそこまでは分からない
しかし、昨日特徴に合致する瞳を持つ学生が居ると情報提供があった
何故かその男子学生は顔面に青アザを作り、足を引きずっていたがそこは問題では無い
件の学生は4年生のシンデレラ・トゥラヴス伯爵令嬢
情報提供が有ったその日の内に行方不明の届け出
タイミングが重なり過ぎている
そして朝方にも関わらず、貴族街を歩く女性らしき人物
念の為に捜索しておいた方が良いかも知れないと部隊長は判断した。
「おい、子供の背格好は?」
「は!身長はこれくらい、革製のフード付き上着、茶とベージュの落ち着いたら色合いのワンピース、黒の革靴であります!」
「探そう、その子供当たりかも知れん」
「「は!」」
騎士の捜索対象に入ってしまったシンデレラは追い立てられる事となった・・・