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王子

ネズミな御者はチュー太と言うらしい

「では行きまチュー」

といって城の前まで送ってくれた。


「ありがとうチュー太、帰りもよろしくね、あとは計画通りに」


「了解でチュー」


ふむ、頼もしい。

行きの道中、計画を説明して

本人に再確認で言わせてみたけど完璧だったし

元はネズミといっても相当頭が良かった

これなら大丈夫そう・・・


「じゃあ、行ってきます」


「はいでチュ」


馬車を降りた、瞬間

馬車止めに居た人間全てが私を凝視して固まる

止めろ、目立つだろが・・・

いや、もう目立っているのかと内心ため息をついて大階段を進む。


靴はいつの間にかガラスになっていた

妖精さんがあの時に変えて行ったのだろう

コツコツと階段を登る


痛え・・・、ガラスの靴痛えよ!

そりゃそうだ!ガラスだもの、硬いもんね!?

昔テレビか何かで見た覚えがある、ガラスって相当硬いって

靴にして歩く代物じゃないわな!

これ逃げる時は脱いでダッシュだ、うん。


一応、他の経路も無いかと階段を登りながら確認するけど

無いな・・・

階段降りて馬車に乗って逃げるしかないらしい。



階段を登り終えると大回廊、そして舞踏会場の大広間となる

大回廊にも人は溢れていた

まあ、国内外の歳頃の娘が一堂に会しているんだもんね

初日は王族と公爵、侯爵のトップ勢

多分王家として本命の候補達だろう

2日目以降は本命以外の令嬢、娘の参加だ

伯爵以下、裕福な家庭の、といった具合で数日舞踏会は開催される。



コツン、大回廊に足音が意外と響き渡った

その音に一斉に視線が集まる


見 ん な よ


それまでガヤガヤと大回廊が賑わっていたのにシンと静まり返る

気にしても仕方ない、行こう

雪は既に舞踏会場で仕込みしてるはずだ


コツン、コツン、コツン・・・


見られてる見られてるぅー!

もうね、最低だ、視線。

線を引いたように分かるんだよ何処を見ているか


顔、胸、下半身、胸、胸、顔、といった割合だ。

令嬢からは嫉妬の、付き添い人の男性からは完全に性的な視線が・・・

あなた達貴族でしょ、いくらなんでも不躾過ぎませんかね?


姉様達と一緒に来て隠れたかったけど

シア姉様もリゼ姉様も嫁ぎ先で花嫁修行期間だ

どちらも素敵な旦那様で優しく、先方のご両親も素晴らしい人達だった。

既婚者や婚約者の居る人間が来ても仕方ないから無理だった・・・


あー、来ちゃったよ大広間、舞踏会会場

音楽が盛大に鳴り響いている


「ふうー、行きますか・・・」


会場へと踏み入ると早速雪がわかり易い所に居た

雪の周囲には令嬢が数人

目が合うとニコリとサムズアップ、準備は大丈夫、うん。


丁度、ダンスの曲が途切れて王子は令嬢に囲まれている

コツコツと近付く、10m程の距離で此方を認める


「っ!」

目を大きく見開き、眩い笑顔で令嬢をかき分けて来る


「レディ、どうか貴女の名前を・・・」

片膝を着いて、私に乞う王子


当然、王子が片膝を着いてまで礼儀を示したとあれば・・・


会場は音を無くす


玉座におわす国王陛下、王妃様、隣には大公様が驚き、興味深く此方を見ていた


私は答えるしかない


ていうか大公様超タイプなんですけど・・・

王子と同年齢で、前大公様から既に息子の現大公様は引き継いで居るんですよね

王と宰相が同時に入れ替わると混乱を来すからと

現国王様が在任中に宰相の大公様は入れ替わり、仕事を学び

形になってから王様が代わる、と


王子は私と同じ金髪碧眼で派手にカッコイイ

対して宰相様はとても地味、灰銀色の髪にブラウンの瞳

落ち着いた印象で、同い年28歳の王子と宰相様だけど

王子は子供のような印象が強い20位のやんちゃ盛りな印象

宰相様は年齢相応かそれ以上に落ち着いている印象


風の噂で王子様はカッコイイカッコイイと聞いていたが

揃って居る筈の大公様の話はあまり聞かない

地味、とは聞いていたが


いや、改めて近い距離で見ると


好みど真ん中だ・・・、うーん、いいなあ

ああいう落ち着いた大人の魅力のある人居ないかなぁ

私にも婚約者が居たらこんな所に顔出す必要なかったのに・・・


「あの、レディ?」


は、しまった、大公様を凝視しすぎて王子を無視してしまった、名前名前。


「シン・・・、、シルティアナ」


あっぶねえぇぇ!!本名言うところだった!

バカか私は、偽名考えるの忘れてたわ・・・


「嗚呼、シルティアナ、美しい名だ、貴女の容姿に相応しい太陽の女神よ」


くさっ!!


「どうか、私とダンスを・・・」


「ええ・・・、喜んで」


私が答えた瞬間、王子は手を挙げ音楽を促す

楽団が演奏を始めた


背中に手を回されホールド、ダンスを踊り始める


即時判断

うん!ダメだ、この王子、私には無理!


最初は恍惚な表情を浮かべていたから

やっぱり一目惚れしたんかね?とも思ったんだけど違う


先ずダンスのホールド、近い。

こんな密着して踊る曲じゃないよね?

ピッタリとくっ付いてさ、私の胸の感触楽しんでない?

男性リードだし、力でホールドされては女性側ではどうにもならない


背中。

さわさわすんな!いや、マジで止めて・・・

ゾクゾクと鳥肌が止まらない



視線。

顔を見ているように見せて違う

胸、胸、口、首、鎖骨、胸、胸

止めろ、視線のセクハラ行為は!


分かるんだよ男の人の視線は本当にさ・・・

これは一目惚れの視線じゃない、欲が透けて見える

肉欲、色欲の類だ

キモすぎる・・・


いや、本当にさ、シンデレラがいい女ってのは分かるよ?

下世話な話だけどヤリたいとか思うのも分かる

男と女だ、それは否定しない

でも会って即行でコレはないでしょうよ


アンタ王子だろ?

ポーカーフェイスって知ってる?

オフショルダーのドレスなんて止めておけば良かった。


これ、シンデレラも王子に一目惚れで逆上せていて

視線の意味に気付いて無かったんじゃね?


はあ・・・

私、実は少しだけ期待してた

「王子様」という特別な存在に

夢、とも言っていい。

憧れだよ、自分に都合のいい憧れだ

紳士で、優しくて、自分をお姫様扱いしてくれるような

そんな存在に・・・


現実は()()


まあ、そんなものだよね

王子も王様も人、同じ人、欲もあるし、物も食べるし

排泄もする、うん・・・



「シルティアナ、私と共に来てくれないか?」


ダンスしながら王子がそんな事を言ってきた、嫌ですが?


「そんな、私には勿体のう御座います・・・」


「そんな事は言わずに、私と共に在れば何でも望むものを・・・、永遠の美でさえも」


ん?


「永遠の?」


「ああ、君は私の子を産み、そして美しいまま()()にしてあげよう」


「————————」


この人は何、言ってるんですかね?


「ふふ、興味あるだろう?」


聴きたくねえーー!

え?なに?アレですか?

「お前を蝋人形にしてやろうか」的なアレ?


・・・


・・・・・・


サイコパスじゃねえかコイツ!!

ウッソだろお前、無理無理無理無理!

そりゃあ28になっても婚約者の話なんてまとまらないわな





曲が終わる、タイミング命!


良し、今だヒィッ、

腰を抱いて、さわさわすんな!変態(サイコパス)野郎。


「こ「殿下、漏れそうなのでおトイレに」・・・あ、ああ」


よっしゃ完璧なタイミングだ、あとは逃げるばかり。


サッと身体を引いて、逃げる!

「待ってく「キャー!殿下、次は私と!」いや、今は・・・」

「いいえ、次は私と!」

「ダメ、私よっ!!」


ギャーギャーと王子を取り囲み牽制しあう令嬢

雪、完璧だよ、最高のタイミング。


サーっと音もなく早足で離れ死角に入った

死角にはウチの使用人が待機している

ガラスの靴を脱ぎ、使()()()()()()()()()()()()()()()()()

ドレスは横で縛り、たくしあげる・・・


「ありがとう」


「いえ、お嬢様お気を付けて」


「うん、サリーも」


「はい、ではお屋敷で・・・」

コクリと頷き合い侍女サリーと別れる


手にはガラスの靴、裸足のままダッシュ!!!


「無理無理無理!!絶対あんなん無理だって、ひぃぁぁぁっ!!」


途中で忘れずにガラスの靴を落として行く

これは魔法のガラスの靴ではなく、特注のガラスの靴

()()()()()()()()()()()()()()()()


靴を落として行くかどうかも、雪と話し合った

話し合った結果、落として行った方が断然良いとの結論になる

何故なら、仮に何も落とさず逃げ切るとなれば金髪碧眼の美女を探せとなる

金髪は髪染めで誤魔化せても

その場で「眼鏡を取って見せろ」なんて言われると私の特徴的な瞳を見られると面倒


そこで偽物のガラスの靴だ

髪色は違う、目はダンスをした女の子そのもの、だが靴は合わない、となる保険。

サイズは小さめにした

大きめにすると無理して履いていたとも受け取られかねない


勿論、製造や入手ルートは辿れないように細心の注意をしてある、完璧!




そして、シンデレラ(わたし)は裸足で王子から逃げ出した。




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