2 そして俺は途方に暮れる
俺は自宅から追放された。
非情とも思える親父の言葉により、抵抗する間もなく、身一つで放り出された。
すっかり暗くなった街頭に佇む。路頭に迷うとはまさにこのこと。
日の暮れた街。明かりを求めたどり着いた駅前の雑踏に混ざってみたり、腰を下ろしてみたり。そんなことをしてる間にも外気は冷たく、容赦なく体力を奪っていく。
「とりあえず、どこか行かなきゃな……」
こんな場合、何の後ろ盾もない人間は、アウトローにでもなるくらいしか選択肢がない。それは全世界共通だろう。
しかし本邦におけるアウトローは、基本的にニートを攻撃する側だろう。「自分はニートなんですが、仲間に入れてください」といったら、ヤクザにすらボコられてしまいそうな雰囲気がある。
反社会勢力にすら受け入れられない、本邦におけるガチの人倫の敵。それがニート。アウトローになるにも身分を隠さなきゃいけない。いきなり水戸黄門もびっくりのハンディキャップを背負っている。詰みである。
「3700円か……」
おそるおそる財布の中の所持金を確認する。ずっと財布に入りっぱなしの金だ。
唐突に家を追い出されたので、はした金しか持ってこれなかった。
* * * * *
「えっと、ハンバーガー2つ……」
空腹を抱えた俺はファストフード店にいた。俺の顔を覗き込んでくる店員に注文を通す。頼んだのはハンバーガー2つ。カネがない学生時代からの定番メニューだ。
このように一食200円で抑えれば、今の所持金でも十数回の食事ができる。数日間命をつなげる計算だ。
「それと……水、お願いします」
「はい!ご注文確認します!ハンバーガー2つと!水!ですね!」
目をかっ開いた店員の「他のメニューは?」と言わんばかりの視線に耐えかねた俺は、苦し紛れに無料の水を頼んだ。
一食を200円で抑えたいという思考が、ドリンクのたぐいを頼むのにストップをかけた。その結果、晒し者のように注文内容を確認され、いたたまれない気持ちになる。
「オーダー入りま~す!バーガー、ツーと~……ウォータァ~~↑!!」
「ウェ~イ↑!!」
レジのお姉さんがキッチンにオーダーを出す。その声が店中に響き渡る。
その行為は、間接的に「見てください!ドリンクを頼む金も無い貧乏人がいます!」と言いふらされているようなもの。お姉さんも、キッチン担当も、嘲笑するかのように上がり調子の語尾だ。
俺はもう200円だけ置いて、この場から逃げ出したい気持ちに駆られていた。
………………
「「「あざましたーーー↑!!!」」」
いたたまれなくなった俺は、ハンバーガーを腹に詰め込んで、いそいそと店を飛び出した。店員に嘲笑され、久しぶりの俺の外食は散々なものとなってしまった。
味なんてわからない。ケチャップとピクルスの酸っぱさが舌に残ってる。ただそれだけ。
「なんで、なんでこんな目に……」
店員も客も、別に嘲笑していなかったかもしれない。こんなの、ただの自意識過剰かもしれない。たくさんの客の中のひとりなんて、なんとも思ってないだろう。
「人、いっぱいだな……」
けれど俺は、ネオンの街を眺めながら、どうしようもなく涙ぐんでしまっていた。
ヴォンヴォンヴォン!!
そんな時、突然けたたましい音が響き、身がすくむ。
腹の底がブルブル震えるエンジン音。改造した車のものだ。キンキンに光ったライトに照らされ目がくらむ。
ライトの向こうには高価そうなエンブレムの高級外車があった。
そう俺は、歩道に乗り上げんばかりに寄せてきた高級車に、あやうく轢かれそうになっていたのだ。
「テメー!邪魔だよ!!」
驚いて腰を抜かしそうになった俺に、車の窓から身を乗り出した男が、唾が飛んできそうな剣幕で怒鳴りつける。
あまりにもサイズがぴったりすぎるジャケットを着た、ツーブロックの前髪を横に流しているエリートサラリーマン風の男。助手席には、白塗りで頬がピンクすぎる茶髪女。
「なに?どしたの?」
「非モテ陰キャが車の前に飛び出して来たんだよ。ほら、低所得者丸出しだよ」
「あ~、ホントだ。ウケる。あいつ、ニートじゃね?」
連中はへっぴり腰になっている俺を指して笑う。
「ああいうのがいるから、日本人の平均が下がんだよね~」
「ほんとだよ。東京から追い出して徴兵して前線で殺すか、税金にたかる前に殺処分して欲しい」
「わかる~東京はイケてる人だけの街にして欲しいよね!ギャハハ!」
ゲラゲラゲラ……
この笑い声……またこの笑い声だ。
俺がずっと聞かされてきた笑い声。
俺は眼の前の二人を睨みつけた。




