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東京無職種 -トウキョウニイト-  作者: 疎達川るい
1.5幕 羽化 ― Eclosion ―
14/14

13 7時だョ!一億総懺悔!



『7時だよ!!一億総懺悔!』

 

 チャッチャラチャチャ♪

 

 新たに誕生したニート国・日本で大人気となっている番組が始まる。

 これは日本崩壊の真相を明らかにする番組だ。

 俺たちニートは黒服に命令して、こんなTV番組を作らせゴールデンタイムに全局ジャックさせ放送させていた。

 おかげさまで視聴率は70%オーバー。国民全員がみんな知っている番組。夕食時ともなればこの番組見たさに、お茶の間にみんな集まってくる。


『日本人が働かなければ……国民が政財界の言いなりにならなければ……資本家がしびいれを切らし、賃上げが起こり、結果的に景気は上向くはずだった』


 かつて戦後日本では、戦争の真実を明らかにし、大日本帝国の目論見を明らかにするラジオ番組が組まれた。

 この番組は真実を明らかにするという点で、それと趣きを同じくするものだ。これまでのメディアとは違う。忖度なし、自主規制なしでメディアがジャーナリズムを100%発揮する。

 ここでテレビ局は社会正義の側に立ち、オブラートに包まず全ての問題点を明らかにする。崩壊前、権力におもねってクソみたいな番組をつくってたメディアとは思えない。


『労働者の数%がサボタージュするだけでも賃上げが起こり、日本は良くなったはずなのに……精神薄弱な我々は、強者の言いなりになって働いてしまった!その結果が、日本崩壊である!!』


 この番組は一大社会現象となっていて、誰もが真実を知るようになっていた。

 国民を食い物にする政治。悪巧みをする資本家たち。権力の味方をするメディア。そして都合のいいように洗脳された国民。

 それら全てを包み隠さず明らかにする。啓蒙する。メディアが本来の役割を果たしている。


『反省!反省!』

『あばばばばば!!』

『一億総懺悔!!』


 それに乗せられた国民たちの反応は、一様に同じ。

 『国の権力者たちが国民を食い物にしてた』

 その真実……日本を包んでた暗雲の正体が明らかになる。憎むべき国難非国民ニートがいいヤツで、大正義と信じて疑わなかった日本国が終わってた。それは日本人たちにとってマッカーサーとGHQ到来以来の衝撃だった。


 そんな真実を受け止めようとすれば、当の日本人としては反省の態度でのぞむしかない。だから反省がトレンドになっている。テレビ、新聞、本、ネット上の記事は自省するものばかり。


『我々に国民主権は無理でした!』

『以前の日本にマインドコントロールされていた!』

『我々は民主主義を制御できずに、国を崩壊させました!』


 テレビでは連日、国民バッシング。徹底して国民の過ちを自覚させるようにプログラムが組まれる。カートゥーン調にしたり、着ぐるみに喋らせたりしてバカにもわかるように作成させた。それも効果が出てるみたいだ。

 だから国民たちは自分がアホだったと気付いて、みんな反省の弁を述べている。それこそTVプログラムで放送してた言葉を反芻するように。


『その点で働かないニートはファシズムに抵抗した日本の誇り』

『彼らニートは民主主義を守る存在』

『日本の代表はニート!この道しかない!』

『今年の漢字は“無職”!!』


 同時に巻き起こるニート賛辞。

 そりゃそうだ。クズがアホを洗脳して集団自殺するような社会じゃ、社会から逃げ出したニートのほうがまだマトモだ。


『『『日本を背負って頑張れ!ニート議会!!』』』


 そんなことだから、ニート議会を取り扱ったものに対する反応は、ほぼみんなポジティブなもの。

 日本人は新たな時代、新たな指導者の登場に、諸手を挙げて喜んでいる。


「無責任に言いやがって……」


 俺はそんな画面を眺めながら悪態をついた。


 またこうやってテレビやネットに感化されて同調する……

 皆が反省していれば流される……

 単に何も考えてなくて、何も考えずその場のノリだけで熱狂してる。


 確かにこのムーブメントの仕掛け人は、俺たちニートかもしれない。だが、国民連中の態度が問題だ。

 この国民どものように、すべてを他人任せにしていれば、自分の責任なんて無い。そうすれば最終的に責任逃れできる。罪の意識や良心の呵責から逃れられる。だから楽な方に逃げる。

 そして今のように反省したフリをする。まるでクソガキと同じだ。そりゃ無責任に持ち上げるよ。 


 このバカ、バカども、バカどもが!

 またテレビに流されてるじゃないか!それにすら気付かないか?

 そうやって何も考えないバカばかりだから、お前たちの国が滅んだんだぞ?

 そして不満になればブー垂れて手のひら返し。


「……わかった、わかったよ」


 こんなアホどもには選挙権なんてやれない。

 これならまだニートが国政したほうがマシだ。


「生中継中の番組が議会員のニート様にコメントを求めてきています」

「え?なに?今?どういうこと?抜き打ち?」


 俺がむかっ腹立てているところに、携帯端末を持ったかなたが割り込む。

 今、こいつは生中継って言ったけど、何?今映ってるこの番組?


「神戸正道様。声明を頼みます」

「えっ?!俺が?」

「お願いします」


 なんかコメントするの?そんなの聞いてないし、打ち合わせなんてもちろんしてないけど…… 


「ま、正道、頼んだんだな!」

「リーダーっしょ?まさみっち?」

「……お願い……します……」

「ガツンとやったれぇ?!!!!?」

「うむ。キメてやれ!」

「頼むでヤンス!」


 ここにも無責任体質のやつがいる。全員だ。

 ちくしょう、もうどうにでもなれ!


「俺たちは無職者議会!労働中心主義的ファシズムに対して抵抗する者だ!!」


 ああ、本格的に後には引けなくなったなぁ……

 俺は声明を出しながら、妙に冷めた頭の中でそう思っていた。

 

 こうして、手違いで権力を手にした俺たちは一億余人の頂点に立ち、日本の全権を握った。

 まぁ人類の歴史の中ではそういうこともあるだろう。

 そして期待してくれてる。ならばお望み通り、好きなようにしてやるよ。

 この国をメチャクチャにしてやる。



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