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東京無職種 -トウキョウニイト-  作者: 疎達川るい
1.5幕 羽化 ― Eclosion ―
13/14

12 アナーキー・イン・ザ・TOKYO



 無職者議会のメンバーは、議会堂(通称ズムシティ)の内部に住んでいる。


 基本的にここで過ごし、暇になったら本会議場という名のラウンジに顔を出す。

 豪華なインテリアに飾られたハイセンスな場所。例の創造性あふれるハイテク企業のオフィスみたいなあれだ。

 ここでたむろして、気が向いたときにプランを施行する。なにか思いついたら指をパチンと鳴らし、黒服たちが勝手にやってくれる。俺たちはそれを眺めてるだけでいい。責任もとらない。


 基本的に金は使い放題。人間も使い放題。

 俺たちが必要とあれば、外国からオペラ劇場をまるごと持ってこさせることだって出来る。適当な理由をでっち上げれば、群馬に巨大ピラミッドを建てることだって可能だ。

 

 そんなことだから、みんな好き勝手やっている。

 姫乃はセレブみたいな服で毎日違うルブタンを履いてるし、坂口さんは本棚を搬入して、自室を図書館みたいに作り変えてる。 高梨は一個一万円の高級メロンをエアガンの的にして遊んでた。典夫や相模守はいつもと変わらないけど。

 


――――――――



「ああああ!あ!!あああああああ!ああ!!」


 そんなある日、同じ議会員の清水相模守大輔しみずさがみのかみだいすけがレッド・ツェッペリンの歌のイントロのように暴れだした。

 

「相模守~~!しっかり致せ~~~!!!」

「こ、これは一体なんでヤンス?」

「これは……フラッシュバックだ。きっと根暗陰キャ、氷河期、ヒキニートとして迫害されたトラウマが蘇っているんだろう。」

 

 相模守は過去にひどい目にあったことを思い出したようだ。

 そんなことだから、ベトナム帰還兵のように虚ろな目をしている。


「ああああ!!!ああああ!!!」

「………………」


 そうして時々、スイッチが入ったかのように狂乱する相模守を前に、みんな沈黙する。

 みんながうつむく……それは思い当たる節が自分にもあるから。ニートたちは世間から白眼視され、多かれ少なかれみんな相模守のような思いをしているから。


「悩みは元から断つしかないっしょ?やられたら復讐するしかないっしょ?」

「復讐……だと?」

「あーしは、ムカつくやつみんなヤった☆」


 こいつ……ギャルの姫乃ときたら、いつもいつも誰か彼かを粛清している。その行為に正当性があるかどうかなんて考えてない。このくらい頭からっぽなら人生楽しいだろうな。


「日下部氏の言う通り!やられたらやり返すのが一番だぞ!」

「僕も許せないことには、それなりの手段をとるべきだと思うよ」


  キャプテン・フクオカやズオン隆史もそれに同意してる。

 う~ん、この際だ。いっそやっちゃったほうがいいのかぁ?国の首脳はポリコレを考えなきゃいけない立場だけど、そんなこと気にしてる場合でもない。

 そもそも日本においては国益になるか、迷惑じゃないかが判断基準だから、『何が正しいか』なんて一瞬も考えられたことがないだろう。もし正当性ポリコレを考える人間がいるなら、それは日本人失格までありえる。


「じゃあ今からそいつらを呼び出して、相模守の仇を取る!!」

「そうだ!目にもの見せてやろう!!」

「死んでないでヤンスけどね」


 そうと決まれば、さっそく断罪。

 俺たちは黒服に探らせ、相模守をいじめた連中をすみやかに確保した。

 連中は中学高校時代の同級生。彼らにとっては30年前……もう過去のことなんだろうが、相模守にとっては現在進行系の苦しみだ。

 

 俺たちニートは、その確保した奴らを、O・Aオンエア中のテレビ局に闖入させた。

 そして放映中のスタジオに全裸で這いつくばらせ、四つん這いに円陣を組ませ、お互いの肛門のシワの数を数えさせあわせた。

 当の元いじめっこたちは大騒ぎ。あるものは怒り、あるものは泣き叫び……大の大人たちが声を荒げて騒ぎ回ってた。しかし、銃を突きつけられたら黙って一枚、二枚……と、ともすれば番町皿屋敷の怪談かと思うようなトーンでケツのシワを数えた。

 まぁ多少の抵抗はある。苦痛に思うのもわかる。ただ、相模守はもっとつらい思いをしたんだぞ?被害者の感情を考えろよ。


 そのスタジオにはもちろん、元いじめっ子のご家族一同も招待している。黒服が銃を突きつけたら、任意同行してくれた。日本の警察の任意というのは強制ということだ。みんな悲壮な顔をして見守っている。

 これはちょっと酷いことにも思えるが?まぁ自分の家族がどんな人物か知るいい機会になるから?ついでにケツのシワの数も知れて家族の絆が深まるだろうし?オッケーでしょ。完全に。


 そうして『カウントアヌスTV』の惨劇が過ぎ去り、黒服が去ったスタジオには、哀れな元いじめっこたちが残された。



※ ※ ※ ※ ※



 その一連の番組を見ていた


「……まるで……ムカデ人間……ですね……」


 あの髪の長い、いかにも文学少女といった坂口さんもテンションぶち上げ。ニタニタ笑っている。

 うん、いつも暗い彼女が楽しそうにしてるだけでも良いことをした。


「みんな聞いてくれ。俺たちニートは蔑まれ、屈辱にまみれた日々を送ってきた」


 あと必要なのは、大義名分の創出。


「しかし、同調圧力に屈せず、正義を行うために我々がこうして存在しているんだ」


 誰も罪悪感を抱かないような大義を作り出す。リーダーたる俺に求められているのは、そういうことだ。


「我々ニートたちは、新生日本を作るため、日本文明を根本から作り変える……国を形成する法律の基本原則、近代国家の法律の基礎を無くすんだ。それがどういう意味かわかるか?」

「?」

 

 議会室で大仰に話し始めた俺。その発言にみんな、当然ながら顔に疑問符を浮かべてる。


「法律の大前提を無くすってのは、一度日本人が望む世界に……紀元前に戻してやるってことだ。わかりやすく言うと、ハムラビ法典だよ」

「ハ、ハンブラビ? ぜ、Zガンダムは見たけど、よ、よくわかんなかったんだな」

「ちげーよ!バカかよ!小卒かよ!」

「うう……ご、ごめんなんだな……」

「“目には目を”ってことだよ。お前にもわかるように言うと、これからの新生日本では、報復を認めるってことになる。これ大事ね」


 これの肝心なところは報復だけじゃない。過去にさかのぼった法適応の禁止、法規定以外の類推解釈の禁止する。それが近代法の原理の撤廃。

 それらを実施することで、ニート議会がニート法を作れば、過去にさかのぼって犯罪認定することができる。これで腐敗の根源を断つことができる。

 さらに、俺が「大便の粒子をまきちらすのは傷害罪」と言えば、国民全員を容疑者にすることもできる。これで誰でも倒せる。まぁ、これもかなたたちSP衆の入れ知恵なんだけど。


「ニートをバカにした事がある、いじめたことがあるやつは畜生以下のゲスだ。それ以上に搾取してた連中はゴミクズだ。一緒に蹴散らそう」


 ってなことで演説を打つ俺。こういう時、けっこうノリノリでいけるんだなぁ、と自分でも驚くもう一人の自分。


「ここにいる誰もが、心無い人間たちによって少なからず傷つけられている。だから報復する。日本人の好きな『やられたらやり返す』だ!わかる?」

「うむ。仇討ちの精神性がある、というのはみんな承知のことだよな!」


 以前、テレビで知識人が“仇討ち文化”を根拠に死刑に賛成してた。世論の9割以上の日本人が被害者の気持ちを尊重することに賛成してた。

 だからあいつらも、被害者であるニートたちに攻撃されることに文句はないだろう。自分で言ってるんだから。俺たちは日本人の望む姿に、日本を作り変えるだけ。


「そう、痛みをもって改革するんだ」


 それが俺たちのやること。日本に対し、やってやれること。

 『痛みを伴う改革』みたいなお為ごかしじゃない。『痛み』そのものをもって改革する。

 そう……改革するって名目で遊んでやる。この世はでっかい宝島だよ。



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