11 アベンジャーズ
「ま、正道……アンタ」
「なんで呼び出されたか……わかるな?」
俺は小川さかえ……幼馴染を呼び出していた。
こいつとは家が隣というだけで、こいつとさんざん比較されてきた。幼少からずっと進学、就職、結婚……とサクセスストーリーを見せつけられ、不必要な劣等感を抱いた。
だがそれも今日で終わり。こいつを滅する。
この手の連中が一番タチが悪い。一見してまともな国民に見えて、実際は何の疑問も抱かず、バラエティ番組を見て過ごして社会を腐敗させる。だからこいつを粛清する大義名分は十二分にある。
なによりこいつはムカつく奴だ。俺に「夢がないよね」などと言い放った。
「……ニュース見たわ。だいぶ出世したようね……日本中、すごい騒ぎよ?」
「ああ、シビレただろ?俺の生き方が評価されたんだよ」
俺が最高権力者になったことを知っていたようだ。
それもそのはず。日本崩壊から国民投票、そして今日までずーーーっと、俺たちのニュースでもちきりのはずだから。
「でも、それはアンタの実力じゃないのよ?運が良かっただけ!勘違いしてない?」
その事実に真っ向から異論を唱える幼馴染のさかえ。
「言いたいことはそれだけか?」
それを意に介さず切り捨てる俺。おもっくそ悪役のセリフだこれ。
でも、そんなことも言えちゃうのが権力者の証ね。
「良い親、恵まれた家庭、容姿に性別……お前も運がよかっただけなんだよ」
「私は努力したわよ!?」
「お前は間違った方向に努力した。俺は抵抗という正しい行いをした。その結果、俺が日本の最高権力者になったんだぞ?」
「そんな、おかしいじゃない!日本のみんなは頑張ってたのよ!?」
「このあいだ玉音放送があっただろ。お前ら一般人は、気づいてないだけでみんなイカレてるんだよ?わかる?そのイカレポンチが?この期に及んで俺を批判するとか?お前どこまで根性ねじ曲がってるんだよ?」
こいつはもともとロクな奴じゃない。昔から駄菓子の当たりを奪ったり、ゲームのセーブデータを上書きしたり、俺が妹の少女漫画を読んでることをクラス中にバラしたり……とことん思いやりがない。
「そんなつけあがったお前にも、悔い改める機会をやる。まずは……俺の靴を舐めろ」
「正道!アンタねぇ……」
そしてさかえは、俺の方にツカツカ歩み寄ってくる。
眉を吊り上げてなんだ?頬にビンタでも張るつもりか?
「お下がり願います」
その進路上にかなたが割り込んで、懐から銃を抜いた。あの時と同じ拳銃だ。
「いくら神原様の幼馴染とはいえ、それ以上近づくと排除しなければなりません」
「まぁ、そういうわけだからさ?よろしく頼むよ」
「じゃあ撃てば?主権者だかなんだか知らないけど、アンタにかしずくくらいなら、撃たれて死んだほうがマシよ!」
さかえは迫真の表情で、そうタンカを切ってみせた。
一方の俺は、その芝居がかったセリフに、心の底からうんざりしていた。
薄っぺらな言葉。こいつは全てが薄っぺらい。まるで映画かドラマで聞くようなセリフだ。そんな人間のやることは全てが嘘くさい。
こいつの人生もそうだ。親も家庭も学校も、仕事も恋愛も……全てがレールに乗ったモデルケース。まるで作り事の世界の住人。たまたま恵まれた環境で育ったせいで、リアルの苦しみなんて1ミリもわかってない。
「ハァ……このわからんちん、どうしてやろうか?」
「小川さかえさん。あなたがここで拒否するのは簡単です。しかしその場合、逆賊としてあなたのご家族も粛清対象になりますよ」
「か、家族は関係ないでしょ!!」
「そうか?俺はずっと『ニートは家族に迷惑をかけるな』って、散々叩かれてきたぞ?」
「何よ、じゃあ同じことをするっていうの?」
「そうだよ。これはお前たちにも痛みをわからせるためだからな」
「正道……あんた最低だよ?」
「はいブッブー。最低なのは、他人を苦しめてることに無自覚なお前ら。俺はお前らが売ってきたケンカに反撃してるだけ」
「小川さん。これはあなた一人が死んでどうなる問題じゃありません。……ご理解いただけたなら、ご協力をお願いします」
広間。黒服。拳銃。
見栄やハッタリじゃない。俺には権力がある。こいつもそれを理解する。
「家族には……家族には手を出さないんでしょうね?」
「ああ。それは保証する」
そう言ってさかえは、絨毯が敷かれた床へがっくりとうなだれるように跪いた。
「それでは準備のほう、させていただきますね」
「ああ、頼む……って、何やってんだよ!?」
かなたは俺のズボンのベルトに手をかける。
「何って、ニート様のお尻を舐めるのがお望みでしたよね?」
「ち、違っ!そこまで要求してねぇよ!……あっ、マジでダメ!」
そうして俺は臀部をまさぐられた。
…
……
………
「ハハッ、ハハハハハ!!」
本当に靴を舐めてる。
あの高慢で乱暴な幼馴染が、俺の前に屈している。冗談のような光景が現実になっている。
「どうだ!?見下してたやつに奉仕する気持ちは!?」
ちょっとした興味から、悪人みたいなセリフを言ってみる。すると思いっきり睨まれる。今にもキレだしそうな気配。
そこへ無言でプレッシャーをかけるかなた。
「妙な気を起こさないようにお願いします。万一、なにか合った場合、それなりの処分をしなきゃいけないので」
「そうそう。殺されないだけ感謝してくれよ?」
「…………クッ!」
涙目になる幼馴染を見て、俺は充足して充足して震える
こいつは完全に俺にひれ伏した。
「………………」
その間も、こいつの一挙一動を監視しているかなた。
「ほらほら、誠意を見せないとひどい目を見るぞ?」
かなたに任せたら、どんな目に合わせられるかわからない。逆らえるはずなんて無いよな?
でも、こいつのヤバさを一番知ってるのは俺。こいつは以前、蒲田のガード下でチンピラを問答無用で射殺し、俺をしばらくいちごジャムが食えない体にしたような奴だから。
「フハハハハハ!!」
傍らに兵士。ひざまずく奴隷。
俺は完全に王だった。