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Page.1 - 悠久の時を経て。

新連載です。ゆっくりと更新します。他作品は一旦お休み。

「かれこれ10年だね。」


 分厚いファイルが沢山入っている棚を見て言った。


「ネラフ、何がです?」

「最後の弟子がここを経ってからだよ、レーリア。」


 棚には端から端まで全ての段にファイルが入っている。その一つ一つがそれぞれの弟子の情報である。弟子から貰った手紙なども中にはある。


「最後の弟子は数年前に魔王を討伐した、と言ってましたね。」

「うん、僕も驚いたよ。あの、やんちゃ小僧が……成長したね。」


 僕は棚から目を離し、レーリアを見る。最初の弟子にして、この世界でも希少な存在、竜人(ドラゴニュート)の始祖。元は人間だったが、魔法という特異な才能を用いた進化によってそうなったのだ。


「それもネラフのお陰です。」

「僕は何もしていないよ。あの子が頑張っただけさ。」


 僕は首を振って否定する。


「直接指導せずともネラフを見て、成長したのです。」

「……そうだと良いね。レーリアがそう言ってくれると、僕も嬉しいよ。」


 目を細めて、レーリアを見る。寿命という概念を克服したレーリアは容姿も若い。お世辞抜きで美しいその姿は、まだ幼かった頃の面影を残している。二番目、三番目の弟子がここに来た時もレーリアは姉弟子として、いつも温かく接していた。


「……じゃあ、行きましょう。」

「どこに?」

「……弟子の所にです!」


 そして、幼いレーリアの面影はここにも残っていた。


「まさか……全ての?」

「もちろん!」


 僕は再び棚を見る。そこには数千冊ものファイルが入っている。棚は幾つもあり、目の前の棚以外にも他の幾つかの部屋をファイルが入った棚が占領しているのだ。その弟子の全てを回るとなれば……。


「……嘘だよね?」


 引き攣った笑いを浮かべて、レーリアを見る。嘘なら嘘と言ってくれ!!


「本当です。」


 ここ一番の笑顔を見せたレーリアは、それはそれは鬼であった。


「はぁ……分かった。じゃあ、ちょっと待ってて。」


 宙に浮かぶ椅子(・・・・・・・)から立ち上がり、リビングの扉を開く。そこには普通の家のように廊下がある。


「ネラフ、どうしたのですか?」

「まだ秘密。」


 その廊下を一番奥まで進む。そこは壁で扉は無い。レーリアが頭上にはてなマークを浮かべるのを横目で見つつ、僕はその壁に触れた。


「これは……!!」


 僕が触れた箇所から光の線が壁を伝う。幾重にも分かれた線が端まで到達する頃には、その壁はひとりでに開いていた。


「もう何百年(・・・)ぶりかな……。」


 その部屋の中央にある台座を見て呟く。そこには一冊の本が置かれている。一言で表すのであれば、辞書。まあまあ分厚いと言った程度の辞書だ。レーリアには思い当たる節があったようだ。


「まさか……それは〈原書〉、ですか?」

「その通り。僕が使っていた魔導書だよ。」

「現存する全ての魔法が納められているとか……」

「それこそがこの〈原書〉の強みだからね。」


 僕が持つ〈原書〉を元にして、今の〈魔導書〉は作られている。


「〈神器〉の一種ですよね。」

「『真の英雄が神より授けられしその秘宝は、神にも匹敵する力を持つであろう』、古の言い伝えだね。だけど、それは事実だ。真の英雄とされる条件は分からないけど、真の英雄となる事で神から〈神器〉を授けられる。僕もそうだったようにね。」

「……魔導王ネラフ。その魔導王に与えられたのは〈原書〉。まさに魔導王に相応しい〈神器〉ですね。」


 レーリアが頬を赤めるほどに勢いよく言葉を繋ぐ。伊達に弟子一号ではないようだ。


「僕の弟子にも何人か〈神器〉を持っている人はいたよね?」

「はい、確か……剣聖、大賢者、拳闘王などがいます。」

「あと、大英雄、獣王、竜王、守護者とかもいたね。」

「かなりいますね……。」


 今挙げた真の英雄達もそれぞれが〈神器〉を所有している。例えば、剣聖であれば〈神剣〉。万物を切り倒せる剣だ。竜王であれば〈神焔(しんえん)〉。全てを燃やし尽くす焔を放つ。守護者は〈不壊盾(ふかいじゅん)〉。壊れる事の無い盾を持つ。


 ここまで聞けば〈神剣〉と〈不壊盾〉ではどちらが勝つのか。〈神器〉は一つの鉄則があるのだ。『〈神器〉と〈神器〉は争うべからず』。未だに実践した者がいないため、何が起こるかは分からないが、古の言い伝えでは災いが起こるとされている。


「久しぶりだね。」


 僕は優しく〈原書〉を撫でる。この手触りを懐かしく感じるのだ。何百年と触れていなかった〈原書〉は不思議とまだ手に馴染む。これが〈神器〉たる所以なのかもしれない。


「僕が旅すると言ったら、レーリアも来るだろう?」


 背後にいるレーリアに声を掛ける。恐らく、レーリアは僕と共に来るだろう。


「もちろん。私も竜人(ドラゴニュート)の村に行きたいですから。前に行ったのはもう20年前なので。」


 僕がこの家に引きこもる前。まだ各地を転々としていた時にレーリアは竜人(ドラゴニュート)の為の村を作っていた。レーリアは種族の始祖であり、始祖特有の異能力を所持している。始祖は別種族の者を自分の種族にする事が出来る。


 レーリアが竜人(ドラゴニュート)になって数十年。孤児だった子供達を集めて希望する子だけ竜人(ドラゴニュート)へと変化させた。今は数百人以上いると思う。


「ここから近いのはどこかな。」


 地図を広げる。この家は普通の世界とは別次元に存在している。〈次元魔法〉によるものだ。とある出来事をキッカケに世界各地にあった入口を閉ざしてしまった。残るは一つだけ。そこは〈ルーウェア帝国〉の郊外であった。


「ルーウェアにも一人いましたね。」

「ああ、いたね。彼は何歳になっただろうか。結婚したとは聞いたが……。」

「行ってみれば分かりますよ。」

「そうだね……じゃあ、行こうか。」

「はい!」


 家を出る。外は草が広がる丘陵の地。吹き抜ける風が草を撫でる。心地よい風だ。誰もいない土地。人の手によって侵された世界とは異なる。こことも暫くはお別れのようだ。


「ここの暮らしも好きだったけどな。」

「また帰ってこられますよ。」

「そうだと良いね。」


 長い人生を送ってきて、僕は何か一つの答えを出す事を避けるようになっていた。今もそう。僕も変わらないといけないのかもしれない。これはそれを探す旅なのだろうか────

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