またしてもか―――っ!?
このままじゃあ、ミシェイラが危ない!
怖い……怖いけど、ここはオーフェの言葉を信じて行くしかない!
「なぁ、オーフェッ! 俺って死なない身体なんだよなっ!?」
知らず俺の言葉は上擦っていた。
早く決断しないと、ミシェイラが死んでしまうかもしれなかったからだ。
「ええ、あなたは死にませんよ。私が死なせません」
そして俺の問いかけに、オーフェは即答でそう答えて来た。
そこだけは間違いなく信じられると俺は確信した。
「それで、攻撃にもお前の力を貸してくれるんだよなっ!?」
矢継ぎ早に俺はオーフェにそう問いかけた。
防御が完璧でも、攻撃が弱ければ意味がないからだ。
「ええ、無制限に……とは行きませんが、状況を鑑みてその都度、適切な力をあなたに授けます」
そしてこちらの方も確認を取る事が出来た。
これで準備は整ったと言って良かった。
後は……俺の決心一つだ。
いくら不死身の身体って言っても、「戦う」って事自体初めての事だ。
元の世界でも戦いはおろか、殴り合った事さえ無かったんだ。
しかも相手は怪物っ!
更に幻獣最強のドラゴンッ!
ビビるなって方が無理な話だった。
「キャアァ―――ッ!」
しかしそうも言っていられなくなったっ!
神龍の攻撃を捌き切れなくなったミシェイラが、その攻撃を受けて大きく後方に吹き飛ばされたんだっ!
「ミシェイラッ!?」
「ミシェイラッ!」
俺が叫ぶのと、トモエが叫んで彼女の元へ駆けだすのは殆ど同時だった。
今のミシェイラも駆け寄るトモエだって、殆ど無防備に近い。
今攻撃を受ければ、二人とも共倒れなのは明らかだった。
そして神龍の攻撃に、彼女達を思って躊躇する様な慈悲は感じられなかった。
「オーフェッ、手を貸してくれっ! 俺が戦うっ!」
俺は彼女にそう叫んで、ミシェイラ達の元へと駈け出していた。
こうなったら物語の主人公宜しく、神龍と直接剣を交えるしか方法はないっ!
「わかりました……では」
俺の背後でオーフェはそう答えた。
そしてその直後、彼女の居た所から眩い光が発せられた。
それは前を向いている俺にも分かる程強い光だった。
「……神武合一」
光の中から聞こえたオーフェの声。
それと同時に俺の身体も光出し、俺の右手には美しい剣が、そして左手には美しい盾が出現して装備された。
それを手にした俺は、今にも攻撃を繰り出しそうだった神龍アミナの前に躍り出た。
神龍はオーフェが発した光で、一瞬動きが止まっていた。
「ユート殿……」
「大統領さん……」
前に出た俺の背後から、倒れたミシェイラとその彼女に駆け寄ったトモエから声が掛けられた。
その声を聴いてしまったら、もう俺にはやるしか道は無かった。
流石の俺も、女性二人の期待に背くなんて選択肢は持てなかった。
「ほ……本当に死なないんだなっ! 信じるからなっ!」
俺はそう叫びながら神龍へと駈け出していた。
目に浮かぶ水滴は消して涙じゃなく、俺は泣きながら走っていた訳では断じて無い。
(ええ、間違いなく)
それに対するオーフェの答えは、冷静そのもので何の感情もなかった。
そんな俺に対して、神龍アミナは火球を一つ吐きだして来た。
大きさもそれ程じゃなく、ミシェイラが受けていた物とは大違いだった。
俺は咄嗟に盾でその火球を防いだ。
恐らくオーフェが変化したのだろう盾は、その攻撃を受けても傷一つ付かなかった。
「アッチャ―――ッ!」
盾には確かに傷一つ付かなかった。
でも俺の肌や衣服に付いた炎は熱く、容赦なく俺の身体を焼いていたんだっ!
「ちょっ! オーフェッ!?」
それは俺の想像外の出来事だった!
だって俺はむて……無敵の筈だろっ!?
なんで熱さなんてダメージを受けるんだ!?
即座に神龍はその長い尻尾で薙ぎ払い攻撃を見舞って来たっ!
自分の身体で燃える炎に四苦八苦していた俺は、完全にその攻撃を躱すタイミングを逸して、やっぱり手にした盾でその攻撃を受け止めるしか防ぐ術はなかったんだ!
その攻撃でオーフェの変化した盾を砕く事はおろか、髪の毛一本の傷をつける事すら出来なかった!
「おうぇ―――っ!」
でも俺の身体に貫通した衝撃はモロに影響し、俺は吹き飛ばされながら思わず吐きそうになっていた。
そして着地なんて出来なかった俺は地面を転がり、体のあちこちをしこたま打ち付けて地面で擦ったんだっ!
「いって―――っ! いてててっ!」
そして俺は、またしても想像外の感覚をその身に受けていた!
―――そう、神龍の攻撃は俺にダメージを与えていたんだっ!
炎による熱さ、そして直接攻撃による打撃、地面に打ち付けられた時の衝撃。
そのどれもが俺に対して中和される事無く影響したんだ。
「ちょ……っ! オーフェッ!」
(なんですか?)
俺は思わず抗議の声を上げた。
それに対してオーフェの声はさっきと変わらず、全く冷静で感情が感じられないものだった。
「熱いじゃないかっ! それに痛いじゃないかっ!」
(ええ、そうでしょうね)
俺の言葉に、それでもオーフェの声音は変わらない。
むしろ「何を言っているのか?」と言った風にも感じられる。
「お……俺って不死身で無敵なんじゃなかったのかよっ!?」
戦いは確かに怖いけど、俺は自分が無敵で不死身だと言われたから参戦したんだ。
そうじゃなければ、戦闘ど素人の俺が参加したって無駄死に確定だからだ。
(無敵……の定義は分かりませんが、あなたが不死身だと言う事は先程の攻撃を耐えきった事で証明されたはずですが?)
確かにさっきの攻撃……。
神龍から食らった一連の攻撃は、一般人ならば重傷。下手をすれば死んでいたかもしれない。
それでも俺はこうして生きているんだから、強ちオーフェの言葉に嘘は無いと思われた。
「いやいやいや、ちょっと待てよっ! でもすっげー熱かったぞっ!? それに死ぬほど痛かったしっ!?」
俺はそう言いながら、またも俺の解釈不足だったんではと思い出していた。
そう言えばこの世界に来た直後も、「大統領」と言う肩書の認識不足から、事実を知った後は随分とショックを受けたっけ……。
(あなたは死にません。少なくとも外的要因で死ぬ事はありませんよ? ですがそれ以外は普通の人間と大差ありません。炎をその身に受ければ熱いでしょうし、打撃をその身に受ければ痛みを感じます。ついでに言えば、致命傷となる程の攻撃を受ければ、死ぬほどの激痛に苛まれます。ですが安心してください、決して死にませんから)
冷静沈着且つ親切丁寧なオーフェの説明で、俺はまたしても愕然とする事となった。
な……なんてこった……。
またしても俺は……オーフェの言葉を都合よく解釈し過ぎてたのか……。




