アミナ神龍教団へ
話しを聞いた俺は、早速神龍の元へ……教団へと向かう事に決めた。
オーフェは間違いなく同行するから、俺は三人で神龍を崇める教団の元へと尋ねる事にした。
「それでは、いつ出立いたしますか? あまり時間に猶予があるとも言えませんが」
「ここからその教団まで、どれくらい掛かるんだ?」
「この王城より出て、西へ大よそ2日半。馬を使っても大体それ位は掛かります」
ミシェイラの質問に俺は時間的な距離を聞き返し、彼女はそう答えた。
―――烏兎怱怱、光陰矢の如し、春宵一刻値千金……。
俺の住んでいた世界でも、時間はお金と同等の、それ以上に貴重なものだと言う格言や諺があった。
これには俺も納得する処がある。
特に今回の事は、時間をかけてしまっては被害が拡大する一方だ。
そうなっては折角俺が駆けつけたところで、感謝の度合いが低くなってしまうのは簡単に想像出来る。
今はもう日も暮れてるだろうから、今から馬でここを出れば、2日後の早朝に目的地へ着く事となる。
出来るかどうかは分からないけど、理想として今回は被害をゼロで収めたい処だった。
「オーフェ、早速お前の力を借りたいんだけど」
だから俺は、早速オーフェの言う「チート能力」ってやつを使う為に、彼女へと確認をとる事にした。
「どのような力を考えているのですか?」
「瞬間移動だ。俺は一刻も早く『アミナ神龍教』の元へ飛んで状況を確認したい」
彼女の反問に、俺は即座にそう答えた。
「それならば了承しました。早速移動しますか?」
彼女は俺の答えを聞いて、僅かに逡巡する事も無くそう答え返して来た。
それには、俺の方が逆に驚いた……と言うか、拍子抜けしてしまった。
てっきり俺は、オーフェから事細かな質問攻めを受けると思っていたからだった。
「何をハトが豆鉄砲を食らった様なおバカな顔をしているのですか? あなた方の思考速度と私達のそれを同列に考えている方が不敬と言うものですよ?」
俺の表情を見て取ったオーフェが、少し心外と言った風にそう抗議した。
ついつい忘れてしまいそうになるけど、彼女もまた「神」なんだよなー……。
「ああ、ゴメンゴメン。ミシェイラさん、俺達はすぐに立てるけど、あなたの準備はどうですか?」
俺には今、着替えも装備も何もない。
それはオーフェの方も同じだった。
出立準備と言っても、用意するものなんて何もなかった。
それに対して彼女、ミシェイラは曲がりなりにも女性だ。
きっと旅立つに際して、色々と用意しなければならない物ってのがある筈だった。
「そうですか。それではお言葉に甘えて、少し準備してまいります。半刻程お待ちください」
彼女はそう言って一礼すると、長老と共にこの部屋出て行った。
―――グウゥゥ……。
そう言えばこの世界へ来て、まだ何も口にしていない事に腹の虫で気付かされた。
食欲がない訳じゃなくて、自分の状況を把握するだけで精一杯だったから、食事にまで頭が回らなかったんだよなー……。
そう考えると、ますます腹が減って来た。
俺が食事の事でオーフェに相談しようと思った矢先、広間で待つ俺達の元へとミシェイラがやって来た。
ミシェイラは半刻……約1時間と言っていたが、実際は30分程で支度を終えて戻って来た。
でもその姿は、旅をすると言うよりも戦支度のそれに近い。
防具としては随分と肌の露出が多い、緋く彩られた鎧を身に纏っている。
鎧と言えば体を護るゴツイ物を想像するけれど、彼女のそれはむしろ彼女の身体を見事に強調した造りとなっていた。
鎧の緋色と彼女の金髪が見事にマッチして、美しいとさえ感じてしまう。
その余りにも扇情的と見える格好に、俺は思わず目のやり場に困ってしまう程だった。
仕方ないじゃん……免疫なんてないんだから……。
その鎧の上からは、彼女は白いマントを羽織った。
左手には大きな盾、左の腰には片手で持つには大きいと思われる剣を帯同していた。
リュックの様にした麻袋を背負っていて、恐らく中には食料や水なんかが入っていると想像出来た。
でも、女性らしい着替えやらアクセサリーの類はほとんど見られなかった。
「馬を3頭用意しました。どれも足の速い馬で、上手くゆけば1日半で到着出来るかもしれません」
ミシェイラの方でも事態を深刻と捉えている様で、彼女なりに気を利かせて用意してくれたんだろうな。
さっき聞いた予定時刻より1日も早く到着するなんて、凄い事だと素直に思えた。
でも今回は、その気遣いも無駄になってしまうだろう。
何と言っても俺の……オーフェの力を使えば、1日半の距離も一瞬なんだからな。
「オーフェ、早速頼むよ」
俺はミシェイラの言葉には答えないで、オーフェに声を掛けた。
「ミシェイラさん、今より移動を試みますので、近くに来ていただけますか?」
オーフェはミシェイラにそう声を掛けた。
俺が近くに来るようミシェイラに言っても、彼女は警戒してすぐには来てくれないかも知れない。
ここはオーフェが説明した方が、色々と短縮する事が出来ると思ったんだろう。
「はぁ……」
頭に疑問符を浮かべながらも、ミシェイラは此方へと近づいて来た。
彼女も天使であるオーフェに言われれば、拒否すると言う選択肢はないみたいだった。
「それでは早速開始します」
彼女がそう言った直後、足元には俺達三人を取り囲む金色に輝く魔法陣が出現した。
「こ……これは……」
突如展開された光り輝く魔法陣に、ミシェイラは驚きの声を上げた。
もしかすると、彼女も魔法を体験するは初めてなのかもしれないな。
俺も驚いてはいたけれど、異世界なんて非現実的な世界に転生して、剣と魔法の世界だなんて教えられていたから、まだ心構えが出来ていた。
それに、散々元の世界でも魔法の発動シーンは目にしている。
……アニメとかマンガでだけどな。
だから今から何が起こるのか、俺には不思議なくらい自然に受け入れる事が出来たんだ。
「ユート……それで教団のどの辺りへ移動したいのですか?」
足元から金色の光に照らされて、更に神々しさを増したオーフェがそう問いかけて来た。
正面玄関に飛ぶ……と言うのが一般的だけど、それだとイチイチ手続きがめんどくさい。
ミシェイラが居るから、ひょっとすれば大抵の問題をクリア出来るかもしれないけど、こういう時ってやたらと手順だとかが多かったりするんだよなー……。
「なるべく人の多い所に頼むよ」
この時間は、一般的に考えて食事時だ。
多分、食堂なんかに殆どの人が集まってる筈だ。
ならそこで、事情を説明した方が早いと思った。
「分かりました」
オーフェの了承を伝える言葉と共に、魔法陣はより一層光を増した。
言われなくてもそれが、魔法発動直前だと俺にも分かった。
「ちょ……待てっ! 今の時間、確か……沐浴……っ!」
ミシェイラの言葉を最後に俺の、俺達の身体はその場から瞬時に消え失せた。
足元に着地した感触。
転送が終了した事を、視界の回復より先に実感する事が出来た。
―――モワ……。
次いで肌に感じる熱を持った湿気。
まるで火山に湧き出てる温泉の近くを通った時の感覚に似ている。
「きゃ……きゃ―――っ!」
次いで耳をつんざく女性の悲鳴。
その声は一つじゃなく、その悲鳴を切っ掛けに次々と周囲から湧き起こっていった。
「な……なんだっ!?」
俺は慌てて周囲に目を凝らしたっ!
そしてそこが……。
―――裸の女性達ばかりがいるハーレムだと認識したのだったっ!
こ……ここはっ!?
ハ……ハーレムってやつなのかっ!?




