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カエルの大合唱

オーフェに連れられてきたのは深い森の中……にある、おどろおどろしい沼の淵だった。

「……え……ここって……」


 こんな所でどうやって暮らせって言うんだ? 

 人が住む環境には到底思えなかった。


 沼の上空も、周囲から生い茂った木に覆われて光さえ差し込んでいない。

 暗い森の中にある、陰気な沼地……。

 周囲の湿気は無駄に高く不快さえある。

 もしここで暮らせと言われても、俺は絶対に拒否しているだろう。


「はい、ここは沼地です。あなた方が暮らすには非常に最適且つ快適だと思われる場所ですね」


 俺が考えていた事とは正反対の事を、オーフェはサラリと言った。

 神様と人間では、感性に大きな違いがあるんだろうか?


「オーフェ……こんな所で暮らしていける人間なんてそうそういないぞ?」


 俺は溜息交じりにそう言った。

 オーフェには色々と教えて貰っていたけど、人間については俺が教えてあげないといけないのかもしれないなー……。


「あら? ここで“人間”が暮らしていけるなんて、流石の私も思っておりませんよ?」


 俺の反論に、オーフェは表情を崩す事無くそう言った。


「……え……? それって……」


 ―――ゴボゴボゴボ……。


 オーフェに言葉の意味を聞き返そうとしたその時、目の前の沼地に大きな変化が現れた。

 沼の中央から、大きな泡が突然無数に湧きだしたんだ。

 何事かとそちらへ注視した俺の眼前に、沼の中から巨大な物体が姿を現した! 

 その姿とは……大きな……カエルッ!

 巨大なカエルを中心に、複数の大小様々なカエルが次々に出現した! 

 突然の事だったのと、そのカエル達の醜悪な姿に、俺は言葉を無くして見入ってしまっていた。


 ―――モ……モンスターッ!?


 この世界は剣と魔法の世界。

 当然怪物……モンスターも生息している可能性だって低くない! 

 ならば目の前に現れたカエル達も怪物の類で、俺に襲い掛かって来るかも知れないんだ!


「オ……ッ!」


 〈何だ……久しぶりに神の気配を感じたと思ったら、新顔みたいだな……〉


 俺がオーフェに状況を確認しようと口を開いた瞬間、周囲一帯に響く様な声が聞こえた。

 この声は……一体……?


「私はオリベラシオと言い、代理で今回この地に赴きました」


 謎の声に、オーフェは自己紹介をしていた。

 まるでオーフェには、この声の主が誰なのか分かっている風だった。


「オ……オーフェ……? この声は一体……? それにあの怪物達は……?」


 謎の声も不思議だったけど、襲ってこない怪物達も不可解だった。

 何が何だか分からない状況で、俺はオーフェに質問する以外の選択肢はなかった。


「あら、まだ分かりませんか? この声の主は、目の前のカエル達。そしてあのカエル達が、この世界の創始者と前任者達、その成れの果てです」


 今……オーフェは何か途轍もない事を言わなかったか……? 

 あのカエルが……この世界の創始者と俺の前任者達……? 

 と言う事は……。


「あなたもこの世界の攻略を諦めれば、あの人達の仲間入りをする事になりますね」


 さも当然と言う風にオーフェはそう説明した。

 でも俺には、彼女の言った言葉を確りと理解する事が出来なかった。


 あれが……人間だった……? 俺も……下手をすればあんな姿に……?


 目の前に現れたカエル達は、それはそれは気持ちの悪い姿をしていた。

 茶色い巨体に表面には無数のイボイボ。

 体表はねっとりとした粘液に覆われている様にも見える。

 ギョロリとした大きな目は、こちらを見ている様でどこを見ているのか分からない、無機質な感じのするものだった。

 そして大きく広がった口。

 誰がどう見ても、見紛う事のないカエルの姿だった。


 〈ほほう……そいつが新しい挑戦者って訳なんだな……?〉


 恐らくこの声は、中央で鎮座している巨大ガエルが発したものなんだろう。

 さっきよりも更に重く響く声が、明らかに俺に向かって発せられたんだ。


 〈そして、俺達の新しい仲間って訳だな〉


 圧倒されてフリーズしてしまっている俺に、巨大カエルの隣に控えていた中型ガエルが言葉を続けた。


 ―――仲間……!? 仲間だって……!? 俺も……あんなカエルに……!?


 俺は今まで、「カエルにされる」と言う事を少し軽く考えていたのかもしれない。

 考えてみれば、実際のカエルを見るのなんていつ以来だろう……? 

 多分幼い頃に見た記憶はある。

 田舎の田んぼで捕まえた記憶だってあった。


 でもここ最近でカエルを触る機会はおろか、実物を見た覚えさえなかった。

 だから心のどこかで、カエルがどんな生き物か……なんて考えが希薄になっていた。

 だけど実際にカエルその物を見て、その考えが如何に浅かったか俺はここに来て痛感していた。


 ―――こんな生き物に、俺は……なりたくないっ!


「まだ、あなた方の仲間となるとは決まっておりませんけどね。……もっとも、今の彼ならばそうなる確率は高いのですが」


 そんな事を考えていた俺を差し置いて、オーフェがそうカエルに返答していた。


 〈ゲゲゲ……。そいつは俺達の姿を見て、そうなりたくないって考えてるみたいだけどな〉


 また別のカエルがそう言葉らしきものを発した。

 それは俺の考えている事通りだったけれど、どこか馬鹿にしたような言い方でもあった。


 〈まぁ……最初は誰でもそう思うよなー……。でも安心しな、慣れれば快適だぜぇー〉


 その言葉で周囲のカエルも一斉に鳴き始めて、さながらカエルの大合唱の様になったんだ。

 カエルの鳴き声も幼かった頃に良く聞いた事を思い出した。

 でも今、目の前で聞くと、やっぱり気持ち悪い以外の何物でもなかった。

 その時、一匹の小型ガエルが何かを発見して鳴くのを止めた。

 その視線? の先には……割と大きいトンボの様な昆虫が水草に止まってる姿が見えた。


 ―――ま……まさか……?


 その次の瞬間!


 小型ガエルの口から飛び出た舌が伸びてそのトンボを捕まえて、一気に口元まで引き寄せてその昆虫を丸呑みにしたんだ!

 昆虫を丸呑みにする姿を目の当たりにして、俺の鼓動は急激に早くなっていった。

 確かにカエルの主食は昆虫等だけど……俺もカエルになったらあれを食べるって言うのか……?

 顔が蒼くなってくるのが分かる。

 手には変な汗もかきだした。

 いや、手だけではなく、全身からも異常に汗が滲み出て来ていた。


「カエルになる……と言う事を了承してこの世界に来たのは、誰でもないあなたなのですよ?」


 多分俺からは、焦燥感や嫌悪感がない交ぜになった雰囲気が発せられてるんだろう、俺を見たオーフェが言い含める様にそう声を掛けて来た。

 確かにそうだ。

 俺が選んで、俺が望んでこの世界に来た……節もある。

 でもそれは、それしか選択肢がなかったからだ。

 他に選ぶ道が無かったからなんだ。

 でなければ、誰が好きこのんでこんな世界に……。

 その時俺の体から、またあの緑色の光が発せられだした。

 不快しか感じられないその光を、今の俺には止める術がなかった。


 〈なんだなんだ? もうリタイヤかー?〉


 〈早速新たな仲間の誕生かー〉


 再びカエルの合唱が沸き起こった。

 それは俺を嘲笑うものなのか、それとも俺を歓迎してのものだったのか?


 〈心配するなって。住めば都、永遠にカエルってのも慣れれば悪くないって〉


 その言葉で俺はハッと気づかされた。

 えいえん……? 

 永遠にカエルだって……? 

 そう言えばオーフェもそんな事を言っていたっけ……。

 あの時は深く考えていなかったけど……こんな姿で永遠を過ごすなんて絶対に……嫌だっ!


「……嫌だ……っ!」


 俺の体から発していた光が急速に強さを無くして、終いには消え失せてしまった。

 それと同時に、沸き起こっていたカエルの大合唱も終息してゆく。


「嫌だ、嫌だ! 嫌だっ! 俺はカエルに何かなりたくないっ! 永遠にこんな所で暮らすなんて、絶対に嫌だっ!」


 俺は思いの丈をぶちまける様にそう叫んだ。

 その言葉を最後に、辺り一帯を静寂が支配したんだ。



見るからにカエル……いや、蛙を目の当たりにして、俺の嫌悪感はMAXになったんだ!

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