ぼく、絵本やぶいちゃった!
このお話は、交流のあるユーザ様のtさんにお話の種を頂きました。
なので、お仲間さんにいっぱい出演して頂きました。
11月の終わり頃の、小春日和の暖かな日、年長組の担任の田原先生が言いました。
「来月の『クリスマスお楽しみ会』で年長さんは、年中さんと年少さんに絵本を読んであげることになりました」
それを聞いて、ともろうくんは慌てました。
「せんせぇー、何でそんなことやんなきゃいけないの!?」
クリスマスお楽しみ会はいつもの年なら、お遊戯をするのです。それなのに、絵本を読むだなんて。
これには訳があります。市営の幼稚園は順番にリフォームの工事を行っていたのですが、この『なろう幼稚園』の工事が12月の頭からに決まってしまい、卒園式から逆算すると園舎より先に講堂を工事することになったのです。なので、講堂でのお遊戯は出来ません。
『クリスマスお楽しみ会』には、お父さんやお母さんも見に来ます。子供たちの成長を見てもらう、大切な行事の1つです。
それで今年はお遊戯を披露するかわりに、年少さんには歌、年中さんには合奏、年長さんには絵本の読み聞かせをそれぞれの日にちで、それぞれの学年の親御さんを呼んで、となったのでした。
年長さんは春になれば小学生、一人で本を読めなくてはいけません。先生たちは丁度良い機会だ、と思ったのでした。
この幼稚園は年長さんが1番人数が多くて、次が年中さん、その次が年少さんでした。なので年長さんが1人、年中さんか年少さんとペアになると、ちょっと年長さんが足りないくらいです。
けれど本を読んだり、下の子の相手をしたりするのが得意な子もいるので、その子たちには、二人ずつ担当して貰うことになりました。
田原先生がそのことを説明し、本を読む子と、聞く子の組み合わせを発表しました。
「あきのさんは年少のらのくんとさらちゃんの二人をお願いね。じゅんくんは年少のゆうげんくん。ひろくんは年少のしまくんね。こめたにさんは年中のあきちゃん、それから……」
順番に名前が発表されて行きます。ともろうくんは、自分が誰に読み聞かせをするのかと、どきどきしました。
「ともろうくん、ともろうくんは、年少のよつばちゃんね……」
よつばちゃんという子は、ともろうくんのお家の近くに住んでいる、可愛い女の子です。
「組み合わせのお友だちと話し合って、どの絵本がいいか決めましょうね」
この幼稚園には小さいながらも図書室があります。絵本の図書室です。
昔ながらの赤ずきんちゃんやシンデレラなどの絵本、動物や機関車などをモチーフにしたお話の絵本、飛行機や外国のくらし等の図鑑タイプの絵本等、可愛らしいもの、楽しいもの、かっこいいもの、ためになるものと、少ないながらも種類があります。なので、この幼稚園に通う子供達はお話が大好きなのでした。
お昼休みにともろうくんは、よつばちゃんと図書室に来ました。
「よつばちゃん、どの絵本が好き?」
「うーんとね、うーんと……」
よつばちゃんがはじめに行ったのはお姫さまの絵本のコーナーです。ともろうくんはここの本を選ばれたらどうしよう、と思いました。
「あっ、しらゆきひめっ。かわいいねーっ」
「そ、そうだね」
ともろうくんは焦りながら返事をしました。
「わたし、かわいいお人形さん持ってるの、ドレスきれいなのー」
よつばちゃんは、とっておきの秘密をうちあける、といった感じで、にこにこと自分のお人形の話を始めてしまいました。
「そ、そうなんだ。それはいいね。あっ、くまさんの本だ! これはどう?」
「くまさんー? くまさん茶色だねー」
本を選んだら読む練習をしなくてはなりません。あまり選ぶのに時間がかかると困ってしまうのもあって、ともろうくんはお姫さまの本のとなりの動物の絵本のコーナーに、よつばちゃんをさそいました。
「くまさん、きつねさん、うさぎさん。わんちゃん、ねこさん、かえるさん。……どの動物が好き?」
「ねこさんがいいー。ねこさん、だーいすき。ほら見てー」
よつばちゃんはいつも髪の毛をゆっているのですが、今日のゴムには可愛らしい、ふわふわの猫のモチーフの飾りが付いていました。
「本当だ、ねこさんだねー」
ともろうくんは、ほっとして言いました。そして、棚から『ねこの まろん』という題名の、茶色くてふわふわの毛並みの仔猫の絵本を取りました。
「じゃあ、この本にしようか? ぼく、練習してくるからね」
二人で先生のところへ行き、貸し出しの手続きをしてもらいます。
「あっ、その本……」
先生が何かを言いかけてやめました。
「他に良い本、無かったの?」
「うん、よつばちゃんがこれが良いんだって」
「そう……」
ともろうくんは『なんか先生、変なの』と思いながら貸し出してもらいました。
家に帰ってから早速読む練習をしようと、絵本を開きました。挿し絵の猫の絵がとても可愛らしくて、ちょっとはずかしく思いながら読みました。ところがーー。
そのお話は、最初は飼い主とのほのぼのとした仔猫の様子が描かれていましたが、途中でまろんが捨てられてしまうお話でした。まろんはノラにも成りきれず、事故に合い、天へ召されてしまうお話だったのでした。
読みながらともろうくんは涙を流していました。そして、気づいたら絵本の最後の方のページを破ってしまっていたのでした。
ともろうくんは自分のしてしまったことに気づき、それから慌てました。
「どうしよう! 幼稚園の本やぶいちゃったーー!!」
「ともろうくん、遊ぼーーっ!」
そこへ近所に住む、ひろくんとこめたにさんがやって来ました。
「あっ、だめっ! 入らないで!!」
ともろうくんは慌てましたが、ーー。
「もう、入っちゃったよ」
「どうしたの? 慌てて。……「あっ!」」
二人に破いた絵本を見られてしまいました。
「これ、幼稚園の本だよね?」
「……何でやぶいちゃったの?」
ともろうくんは経緯をはなしました。
「……こんな可哀想なお話、ぼく、よつばちゃんに話せないよ」
「分かった。じゃあ、僕たちでお話を作ろうよ!」
「えっ! 本気!? そんなの無理だよ」
「面白そう、やってみようよ」
ひろくんが言い出したことに、ともろうくんは尻込みしましたが、こめたにさんが誘います。
「大丈夫だよ! 一緒に考えてあげるから」
「そうだ! お話を考えるのがとくいなと子たちにも手伝ってもらおうよ」
こうして三人は近所のあきのさん、なおくんやつばさくん、まいさん達も誘って、お話を考えることにしました。
その話がみんなにも伝わり、さらにいろんなお友達が意見を言ってくれました。幼稚園のお友達はみんな、お話を考えるのも得意なのです。
明るくて面白いお話を考える子もいれば、登場人物が活発に動き回るお話を考える子もいます。どんな世界のお話にするかを調べながら考えるのが上手な子もいれば、素敵なアイテムを考え出すことが得意な子もいるのです。
例えば怪我をして泣いているお友達がいたら、先生を呼びに行ってあげるのも優しさですが、黙って側に付いていてあげるのも優しさです。そういったことを思いつくお友達もいます。
お話の終わりに、皆が驚く様なアイディアを込めるのが上手な子もいて、お話がどんどん膨らんでいきます。皆でわいわい言いながら、猫のまろんのお話を作りました。
絵を描くのが上手なさらちゃんとさやちゃん達が中心になって、可愛い絵を描いてもらうことも出来ました。
こんなにたくさんのお友達で作ったお話は、さて、どんなお話になったのでしょう。
「ともろうくん、お話良かったよ。私、いつか茶色の猫さんを飼って、まろんちゃんってお名前にするのー」
クリスマス会の後、よつばちゃんは笑顔でともろうくんに言ってくれました。
クリスマス会が終わってから、ともろうくんは田原先生に本を破いてしまったこと、とてもたくさんのお友達が手伝ってくれて新しいお話が生まれ、皆で頑張って、おえかきちょうに絵本を作ったことを話しました。
「本を破いちゃったのはいけないことだけど、よつばちゃんの為に頑張ったのは偉いと思います。本当は先生もあの本は、よつばちゃんが悲しい気持ちになっちゃうかな? と思っていたのです。素敵なお話が生まれたと思いますよ。……それから、たくさんのお友達にも手伝って貰えて良かったですね」
田原先生は笑顔で、優しく言ってくれました。
「一年生になったら、年中さんや年少さんのお友達とは、なかなか一緒に遊べる機会は減ることでしょう。同じ学年のお友達とも、学区によっては離れてしまうことでしょう。……絵本が出来上がったときの気持ちを忘れないで欲しい、と先生は思います」
ともろうくんは先生の言葉に、何だか自分が少し、お兄さんになった気分になりました。
寒い寒い冬が過ぎれば小学生。きっと皆は優しい、素敵な小学生になることでしょう。
えーっと、本当は交流のあるユーザ様の皆様に、もーーっと出演して頂きたかったのですが、私の方がちょっとエピソードを練り上げられなかったです。ごめんなさい。
何名か許可を頂かずにお名前を拝借してしまいました。ご迷惑でしたら、ご連絡下さい。m(_ _)m
tさん、こんな感じのお話になりましたが、大丈夫でしょうか?
快く出演して下さったユーザ様、本当にありがとうございました~♪\(^o^)/