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放課後のフーダニットクラブ  作者: 吟野慶隆
第一話 異世界の殺人者
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解答編 衣瑠の発表

   衣瑠の発表


「へっ?」重楠は、ぽかん、とした顔になった。「おいおいおいおい……俺のこの完璧な推理に、何か問題でも?」

「いいえ」衣瑠は首を振った。「推理そのものに、問題はないと思うわ。私も、『サイーダが金庫を開けるシーンでの、最後に入ってきたやつ』は、天一だと思うわよ。問題は」少し間を置いた。「そいつが、イコール犯人ではないことよ」

「どういうことだ?」

「天一が扉を開いた時、サイーダは『金庫の正面に立っていた』のよ。彼女が着ていたのは、『裾が床に掠りそうなほど長いドレス』。木箱は、『金庫の手前に』落下した。そして金庫そのものは、『出入り口の正面に位置していた』。ということは、よ、重楠君。天一には、張形が見えていなかったはずじゃない、ドレスに隠れて。

 それと、もう一つ、天一が犯人でない、という根拠があるわ。

 恵理のヒントよ。『サイーダは自殺じゃなく、殺人』。天一は、間違えて部屋を開けたのよ? いわば、事故よ。殺意はないじゃない」

「たしかにそうだが……じゃあ、誰なんだ? 犯人は」

「一人、いるじゃない。殺意を持っていて、なおかつ、張形のことを知った人物が」

「誰だ、それは?」

「それは──」衣瑠は重楠を指差した。「あなたよ。重楠君」

 重楠は絶句した。衣瑠はそれに構わず、話を続けた。

「書いてあるじゃない。『誰かに《モノ》の正体を知られるようなことがあれば、それが誰であれ、即座に自殺しよう、と固く決心していた』って。その後に、『木箱が落ちて蓋がとれ、中に入っている《モノ》が露わになった』とあるわ。それから、『《モノ》とは張形だった』と書いてある。つまり重楠君は、『《モノ》の正体を知られるとサイーダは死ぬ』とわかった状態で、『モノ』の正体を知ったのよ。明らかな故意、殺意じゃないの」

「……いや、ちょっと待て。どうしてサイーダは、俺、つまり読者に『《モノ》の正体を知られた』とわかったんだ。小説世界の人間なのに」

「彼女は、自分のいる世界が小説世界だと自覚していたのよ。だから、読者が自分の行動を読んでいると知っていたため、『《モノ》の正体を知られた』とわかったの」

「『自分のいる世界が小説世界だと自覚していた』だあ? そんな描写、どこに──」あるんだ、と言いかけて、重楠は、あっ、と叫んだ。「あのメタ発言かっ」

「そうよ。『以上で問題編は終了です』『読者は犯人を推理してください』。自分のいる世界が小説世界であると自覚していないと、出ない言葉よね?」

 ぐぐ、と重楠は唸った。黒目を左右に忙しなく動かした後、言う。「で、でも俺が小説を読むのを途中でやめなかったのは、そういう部活内容だったからで。いわば、やめたくてもやめられなかったわけで」

「恵理さんは、そこも抜かりなかったわ。言っていたじゃない、彼女。『読みたくなくなったら、やめてくれていいからさ』って。『木箱が落ちて蓋がとれ、中に入っている《モノ》が露わになった』のところで、読むの、やめればよかったのよ。ある意味、それが、恵理さんの考えたトリックを看破した、ということにもなるんだから。

 タイトルの『異世界の殺人者』も、いい題名だと思うわ。『異世界の殺人者』の『異世界』というのは、『地球世界に対する、ファンタジー世界』ではなくて、『小説世界に対する、現実世界』という意味なのよ」

 重楠は、がく、と項垂れた。ぱちぱちぱち、という拍手の音と、「いやあ、さすがだねえ、衣瑠君。タイトルや、ボクの言葉の真意まで、見抜いていたなんて」という恵理の声が聞こえた。

「ホント、すごいじゃないですか。あなたにわからないことなんて、この世にないのではないですか?」

「それは言い過ぎよ」衣瑠が照れているのが声からでもわかる。「実際、この小説でも、わからないことが一つだけ、あったし」

「わからないこと?」重楠は顔を上げた。「なんだ、それは?」

「皆は、知っているみたいだったけど」衣瑠は表情を変えずに行った。「『張形』って言葉、初めて知ったわ。いったいどんなものなのかしら?」

 他の三人の顔が、固まった。


   〈了〉

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