秋へ移ろいて
あの盆踊りの騒動の一件で警察も出張った。流石にちょっとマズいので、呆然自失とした先輩をなんとか引き摺って、会場を後にした。あのジジイは知らない。
当然、警察も不意に出現した邪神ゾンビシャークの処理には手を焼いたらしく、取り調べを受ける者は多かったが、誰も逮捕されなかった。なんであの爺さんは逮捕しなかったんだ。下手すれば倒れたやぐらで死傷者が出ていたかもしれないのに。
鮫島先輩は、本当にあの邪神なんとかシャークで世界を滅ぼせると思っていたのだろうか?
「地球なんて、大きな大きな口に飲み込まれてしまえばいい。飴玉みたいに」
彼女はよくそう言っていた。もしかしたら、彼女は本当に地球を丸呑みできるほど大きな鮫が居るのだと、思い込んでいたのかもしれない。伝承では、そこまで大きいとは書かれていなかった。
一先ず呼び出してしまえば、その場の流れでなんとかなると思っていたのだろうか。あまりに無鉄砲だと思う。でも、何かに追い込まれた時に、冷静な判断が出来る人間なんて本当に少ないし、そんなヤツ、そもそも追い込まれることも無いだろう。
今となっては、分かりようがない。本人に尋ねる気にもなれないし、もう済んだことだった。
あの夜から鮫島先輩と再会したのは、高校の二学期が始まり、研究会も再開してからだった。
前よりも先輩は柔らかくなっていた。まあ愚痴や文句を垂れるのは相変わらずだけど、でも誰だって愚痴や文句は言う。彼女の角はすっかり取れてしまっていた。付き合いやすく、親しみやすくはなった。
けど、確かに変わってしまった彼女に、僕は微かな喪失感を覚えている。移ろいゆく世界の中で、彼女は不動だと思っていた。でもそんなことは無かった。全ては変わっていく。得体の知れないヘンテコ鮫にすがるような弱い彼女も、したたかになっていく。
秋になり、西日と楓の暖かい色が窓から垣間見える部室で、資料を整理してた時、彼女からお誘いがあった。
「ねえ因幡、今度民族研究の取材も兼ねて、温泉旅行に行かない?」
「それ良いですね!」
思春期相応に下心でうかつに逸った僕は、案の定ホイホイと彼女の誘いに乗った。引率だって来るから、うかつなことは出来ないのにね。鮫島先輩も「暇なヤツだね」と言って、少し嬉しそうに笑った。
「どこに行くんです?」
「××県の、××××ってとこ」
「聞かない地域ですね」
「なんでも、四本足の鮫が奉ってある地方があるんだって」
お わ り
あとがき
もともと企画として「夏祭り」を共通のテーマにおなじなろう作家である竹草夷鳥氏、四季氏、タカヒロ氏達と短編を書こうということになったのだが、この小説書く前に「フロムダスクティルドーン(前半の内容と後半の内容が超展開的に変わるアレ)」と「シャークネード カテゴリー2(クソ映画じゃない、偉大なるアホ映画)」を観たのが運のツキだった。どうぞ呆れて下さい。




