表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/40

09.痕跡

 

 第一週:3日目

 この日もまた出店から朝食を買い、腹を満たす。そして昨日と同じ時間に馬小屋へ向かう。


 本格的な騎乗時の歩行や走行練習の始まり。

 確かに賢い馬なのだろう。決められた指示に決められた反応をしてくれる。

 その指示は簡素で分かり易いものだったし、無駄口を挟まない少女の教え方も上手く、俺はそれを全て覚えることが出来た。

 そして<無限の摩擦力>これもまた役立った。

 騎乗時、人は鞍を挟んで馬に乗るが振動や揺れは必ず発生する。俺の能力によって馬と鞍と俺自身を完全に接着することが出来る。

 これにより俺自身が受ける微細な揺れや股の擦れは無くなる。また馬からしても安定した乗り人であることを感知しただろう。

 


 俺達は走行練習のためホルンへと通じる道を一定距離進んでいた。

 そして俺が騎乗走行にも慣れた頃、道を引き返す。


 俺は思考する。

 馬に慣れることは出来た。それは喜ばしいこと。

 しかしこの行為は徒労に終わるかもしれない……


 その時少女は俺に教える乗馬訓練がもう何もないことを知らせるために、言葉を放ったのだろう。

「この町には沢山の人がいるけど、あんたみたいに2日で馬に慣れる人はめったにいないよ」


 その言葉。そのどこかに俺は引っかかった。

「いま何と?」

「あんたみたに2日で馬に慣れる人はめったにいないよ!!」

「違う、その前!!」

「えーと、この町には沢山の人がいるけど?」


 そこ。なぜ気づかなかったんだ!!

 俺は目を閉じ深く考える。

 この町には沢山の人がいる。それはこの町に来た時一目見て分かること。

 だが何人?詳しい人口は?俺は知らない。


「何人いるか知ってるか?」

「そんなの知らないよ、たくさんだよ」

 

「どこに行けば教えてくれる!?」

 その鬼気迫る俺の表情に少女は怯えながら答える。

「町の中央の役所に行けば教えてくれるかも」


「ありがとう」

 少女を怯えさせてしまったことに反省しながらも、深く礼の言葉を述べる。

 

 俺は行かなくてはならないそこに。

 

 

 ドラムの町の中央にそびえ立つ四階建ての建物。それがこの町の役所。

 俺が中に入ると一目で多くの職員がいることが分かる。彼らの机の上には羊皮紙の束が重ねて置かれている。

 

 その中で一人暇そうにしている老人の男性に声を掛ける。

「あの、この町の人口や周辺地域の民族学を教えていただきたいのですが、どなたに聞いたらよいでしょうか?」

 

「それなら私に聞いてもらって構わんよ」

 彼は机の下から一枚の羊皮紙を取り出す。それは俺が一度見たことのあるこの国の地図だった。


「まずこの町の人口ってどれくらいですか?」

 彼は悩んでから答える。

「んー、正確には把握できておらんのだが、約五千人じゃろうな」


「では次に、他の町の人口と彼らはどういう風に住んでいますか?」

 俺は彼の取り出した地図上でホルンの町を指差しながら尋ねる。


「ホルンの町については少し説明が難しい。彼らは移動式の皮で作られたゲルという建物に住んでおる。

 遊牧民という性質もある故、基本的には一か所に密集してゲルがある場所を町と呼んでおる。

 人口の把握は難しいが百から二百くらいじゃろうな」


 次にフルートの町を指差す。

「その町は近くの山脈から鉱石や石材を発掘しておってな、すぐ近くで採掘するための作業区と、住民の多くが生活している居住区の二つがあるんじゃよ。

 一括りで町と呼ばれておるが実際には少し離れておる。人口はそれぞれ五十人くらいじゃろう」


 最後にハープを指差す。

「彼らはこの町と同じ様に住んでおる。この町より規模が小さい町と思えば分かり易いじゃろ。

 周りが豊かな自然に囲まれておる故、人も多い。人口は三百人ってところじゃな」


「その他何か聞きたいことは残っとるか?」


 俺は考える。

 もし仮に俺が百人を殺すとするならば、人の分散している“フルートの町”しかないだろう。

 ホルンは馬に乗って逃げられる可能性が高いし、ハープは人が多すぎる。


 そう結論付けその場を去ろうとした時、ふと気づく。

 もし仮に百人を殺そうとしている転移者がいたとして、その情報をどこから仕入れる?

 それぞれの町に直接行くのは論外だ。時間が掛かりすぎる。

 では情報の集まる場所に行くのでは?それは何処?

 

 答えはこの町。そのして今俺がいるこの“役所”


「ここ二、三日で俺と同じような質問した人いませんでしたか?」

「ああ、おったよ」


 ビンゴ、俺は心の中で呟く。


「それはいつ?そして、どんな人でした?」

「昨日の昼間で、うーむ、顔はフードを被とってよく分からんかったのー」


 おそらくそいつは転移者だ。そして向かう先はフルートの町。


 俺は早まる気持ちを抑えてゆっくりと建物を出る。

 そして馬小屋へと向かう。明日の早朝に馬を借りる旨を伝えるために。


 ドラムとフルートの距離は歩いておおよそ朝から夕方に着く。

『昨日の昼までこの町にいた』この情報は大きい。

 野宿は避けるだろう。だとすると昨晩はこの町に泊まった筈。

 そして今朝出発し丁度今頃フルートの町に到着しただろう。丸一日歩きっぱなしの疲れた体で百人相手に殺し合いをするか? 

 

 答えは否。今晩はフルートの宿に泊まる筈。


 明日の早朝、馬に乗り急いで行けば昼間にフルートに到着する。

 まだ間に合う!!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ