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08.待機


 日は沈みあたりは暗闇が支配している。

 俺は待っている。『フルート』この町で。

 

 この世界に時計は存在しない。

 しかし俺はたった今、午前零時と知る。それは瞼の奥で日数が進んだから。


 もう少しで始まる筈だ。

 それまでの間俺が今までしてきたこと。それが確かなのかもう一度考えよう。



 第一週:2日目

 朝日が室内に差し込み、俺は目覚める。

 

 ぐっすり眠れた。

 俺は必ず夢を見るんだ。そして途中で何度も目が覚めていた。

 それはいつからだろうか?考えるまでもない3年前からだ。


 しかし今回は良く寝むれた。体が軽い。

 それは昨日いろんな経験をして精神的に疲労したから?おそらく違う、俺は体も精神も疲れていない。

 俺の脳裏をよぎるのは“パーフェクトヒール”その言葉。


 起き上がり、窓ガラスその奥の風景を見る。日が沈めば誰一人としていなかった通路は多くの人で溢れかえっている。

 

 ふとガラスに映るのは人の顔。

 俺の顔、当たり前。だけど俺の顔じゃない。

 正確に表現するならば若い。これもまた……



 前世で最後に見た俺の顔は酷かった。

 26歳という年齢には余りにも年不相応。顔は痩せこけ、目の下に隈、皺も増えていた。

 苦悶の表情、それが俺にとっていつしか真顔になっていた。



 一階に降り、カウンターに座っている女性に鍵を返してから別れの挨拶をする。

 さよならブリキ亭。


 朝食はいくつもある出店の中から櫛肉を。出費は銅貨2枚。

 これで俺の手持ちは銀貨10枚、銅貨16枚になった。


 俺は出店の店主に尋ねる。

「おじさん、俺馬に乗りたいんだけど乗馬を習えてくれる場所知らない?」


「だったら防壁沿いに南東の出入り口に行きな。

 そっちには馬小屋がたくさんあってレクチャーしてくれる所もあるよ」


 俺は転移者を探さなければならない。それは今も変わらない。

 しかし二日三日で彼らは痕跡を残すのか?俺は探せるのか?

 確率は低い。それが俺の結論。

 

 最悪の想定。もし誰一人としてこの町に転移者が立ち寄らなかったら。

 俺は移動しなければならない。他の町に。

 その際、悠長に歩いて移動出来るのか!?答えは否。

 この世界で最も速い乗り物。馬に俺は乗れなくてはならない。

 そして乗馬を習ったとしても、その日その後に転移者を探すことは不可能ではない。


 

 南東の出入り口。それはホルンの町へと通じる場所。

 到着し目に映るのは沢山の馬小屋と柵越しに見える馬。そしてムッとする動物特有の臭いが鼻をさす。

 

 俺は取り敢えず出入り口から一番近い馬小屋と隣接する建物に入る。

 中に入ると、誰もいなかった。


「ごめんくださーい!!」

 室内の奥に誰かいるかもしれない。俺は声を張り上げて人を呼ぶ。


「はいはーい」

 中から軽やかな女性の声が聞こえ、俺の前へと見た目二十代後半の女性が出て来る。

「いかがなされましたか?」


「乗馬を習いたいんだが、教えてもらえないか?」


「うん、それならうちの娘がやってるよ。

 相場は一日銀貨1枚、日数はあんたが馬に慣れるまでだけど大丈夫かい?」


「それでいい」

 俺がそう言うと。彼女は室内の奥に向かって娘を呼ぶ。

 それに答えるように返事が返って来て、小柄な少女が姿を現す。

 茶髪を肩まで三つ編みで伸ばし、そばかすのある素朴な少女。それが俺の受ける印象。

 

 

 そうして俺への乗馬レクチャーが始まった。

 最初は馬の世話の仕方。次に馬への乗り降り。


 必要最小限しか喋らない無口な少女だった。俺もまた少女に対し頷きや了承の言葉しか返さなかった。

 白けた場の雰囲気、それに俺は慣れていたし無駄話をするつもりもなかった。


 何度も乗馬と下馬を繰り返している時。

 俺に無い筈のものがあることに気づく。それは筋肉。

 痩せ細った体。それが本来あるべき俺の姿。

 しかし今の俺は肩ほどまでもある馬の背丈に軽々と飛び乗れるのだ。


 二の腕や太もも、腹筋を触って確かめる。そこに硬いものがある。

 なぜ昨日疲れていなかったのか。俺の体に起きている異変その答えを知る。

 これもまた与えられたもの。



 講習の終わり際、俺は少女に尋ねる。

「馬の貸し出しは一回いくらなんだ?」

「うちの馬達は賢くて安いよ。銀貨7枚」


「銀貨7枚……」

 あまりの値段の高さに俺は声に出して反芻する。

 だが妥当だろう。いや確かに安いくらいだ。

 この世界の最も早く貴重な乗りもの。それが俺の所持金の半分相当で借りることが出来るのだから。



 その後酒場に向かう。

 珍事や騒動それら噂話を酒のつまみとして楽しむ場所。

 俺は安酒を頼む。銅貨2枚。

 カウンターの隅でフードを深々と被り耳を澄ます。

 俺は閉店まで粘った。幾人が出入りし今日の出来事を話していく。

 そこに俺の求める情報はなかった。

 

 

 その日の夜は南東の出口付近の安宿を探し泊まる。そこも銅貨5枚の宿代。

 

 銀貨2枚。それが一日過ごすのに俺が必要な金。

 残金は銀貨8枚、銅貨9枚。これで金銭的なタイムリミットを知る。

 馬を借りることを前提とするなら。

 明日がラスト。転移者を探すことも、馬に慣れることも……

 

 心の中で焦りの色が見え隠れする。

 もし探せなかった場合、俺は馬を諦めこの町で転移者をただ待つだけとなる。

 それは牢屋の中で死を待つ死刑囚、それと同じじゃないのか?俺の心は耐えられるのか?

 百の運命を変える。それに向けて方針を変えなければならない、かもしれない。

 決断するのは明日……




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