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07.夢

 

 平成5年。

 日本の愛知県で“立花隼人”俺は生まれる。


 父と母。兄と俺。四人家族。

 

 とても幸せな家族だった。

 父は週末、兄と俺の三人で必ずキャッチボールをしてくれた。

 母はとても料理が上手で毎日、美味しいご飯を作ってくれた。


 俺ら家族は月に一回は全国各地の動物園や遊園地や観光に行った。

 父と母はとても仲が良く。初めて見るものやびっくりする時、同時に同じ言葉が出てハモることがよくあった。

 そんな二人は、見つめ合って、笑いあって、幸せそうだった。

 子供ながらにこの家族が大好きだった俺は、結婚したらこんな家族を築こうと思っていく。



 不幸が訪れたのは俺が中学生の時。父が交通事故で他界した。

 

 俺は毎晩泣いた。でも母は俺の前で涙を見せることは無かった。

 大人になった今では分かる。高校生と中学生、これから教育費が掛かる子供を抱えているんだ。

 俺達をより悲しませないために、そして現実を見ていたんだと思う。専業主婦だった母はこれから子供達の教育費をどう工面するか必死に考えたことだろう。


 母はいくつかの仕事を掛け持ちして働いた。土日も働いていた母は俺から見てほとんど休んでなかった様に思える。


 部活で腹を空かせた俺達兄弟。それより少し遅れて帰ってくる母は直ぐに料理を作ってくれた。

 毎日、仕事や家事で疲れていた筈なのに。出来上がりの料理を買ってくるのではなく必ず手料理だった。

 出来たてで暖かいものを食べさせる。それが母の拘りだったのだろう。



 兄は高校を卒業して直ぐ就職した。

「俺は勉強が嫌いだから、大学なんて行きたくない」

 俺にそう言っていたが、後から聞いた話では俺を大学に行かせる学費を稼ぐためだったのだ。


 母と兄が働いたそのお給料で俺は大学へ行くことが出来た。

「あんたはお金の心配なんてしなくていいとよ」

 その時、母から勉強に必要だからと一台のノートパソコンを買って貰ったんだ。そのお陰で俺は立派な会社に就職した。

 

 一生懸命働いていつか母と兄に楽をさせてあげるんだ。俺は心にそう誓った。



『2017年2月25日』

 俺はこの日にちを一生忘れることはないだろう。

 誕生日よりも聞いた数字。生まれたことを後悔させた数字。

 

 その日は休日。いつもなら大学時代から付き合っている彼女とデートしている筈だった。

 ただその日彼女は別の予定があって俺は一日、一人暮らしのマンションでテレビをつけながらインターネットを楽しんでいた。


 テレビにはニュース番組が流れていて。

「カリメアの○○大学のラテス=ヒポク医学博士がSTOP細胞の研究に成功しました」

 その歴史的な発明のニュースに釘付けになっていた。


 その時。

「緊急ニュースです!!日本の機密文書が流出したとの情報が入りました」

 その事件に大変なことになったと思いつつ、俺はどこか他人事だった。



 それから一週間程経過した頃。俺はマンションにいてピンポンという来客の呼出し音が鳴った。

 部屋の前には何人もの警察がいて、捜査令状を俺に突き出す様に見せると家宅捜索が始まった。俺はそのまま手錠を掛けられ車で連行された。


 その後の捜査で俺のノートパソコンの履歴から国への不法アクセスが発見される。

 そんなバカな、おかしい、絶対に間違っている。

 虚偽の疑いが掛けられたことが悲しくて、俺は泣いた。


 日本中に犯罪者として俺の存在は知れ渡る。

 仕事は解雇され、人は離れていき、彼女からも音信不通になった。

 大事なもの、大事な人を失っていく。それは孤独を感じさせ、また俺は泣いた。

 


 そうして俺は裁判での長い戦いが始まる。

 検事と弁護士の答弁の中で俺はあまりにも専門知識がないことに気付かされる。

 プログラミングとは、裁判とは……


 拘置所でそれを学ぶにはあまりにも情報と時間が不足していた。

 

 取返しの効かない段階まで追い詰められた時。

 俺のことを心から信じてくれていた家族。その兄が俺の元を訪れなくなった。


 母だけが唯一俺を信じてくれる存在となった。

 その母も次第に面会に来なくなる。


 そしてその間隔が一月以上経った頃、母は現れた。

 面会ガラス越しに扉が開き母の顔を見た時、俺は緊張した。

 いつもそこにあったものが無かった。俺の心を落ち着かせてくれる柔らかな雰囲気が。

 そして瞳の奥が鋭かった。それは刃の様に。


 母は語る。なぜ一月もの間、面会に来なかったのか。

「お兄ちゃんがね、仕事中事故にあったの」

 

 俺は絶句する。


「面会に来れなかったのは看病のためよ」


 そして付け加える。その言葉を。

「あんたのせいよ、全てあんたが悪いの。あんたなんか産まれて来なければよかったのに!!」

 母は叫んだ。


 俺は心の中で何かがポキリと折れる音がした。そして視界が灰色に染まった。

 

 

 それからはあまりよく覚えていない。

 俺は一日中、ただ一点を見つめてボーっとして過ごす日が続いた。そうすれば一日が早く過ぎていったし俺はそれを望んでいく様になった。



 そしてその日が訪れる。

 最高裁判所。そこで裁判長は言う。


「立花隼人は有罪『死刑』とする」




 俺は目を開ける。こんな時に夢を見てしまったのか……


 そして再び目を閉じる。その時瞼の奥の文字が変化する。

 第一週:4日目から5日目へと。




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