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05.町


 俺は素直に聞くことにした。

「俺、字が読めないんです。教えていただけませんか?

 この地図に書いてあること」


 彼は満更でもない顔で話し始める。

「この国の地形は北を頂点に扇状になっているど。

 地図の真ん中にある町、それが今向かっている物流の中継地点『ドラム』」

 

 その地図にはドラムの町から四本の道が伸びている。

 北、南、南東、南西この四つだ。


「北にある道を辿ると、そこはこの国の王都『ベル』

 南にあるのは鉱石や石材を発掘する町『フルート』

 南東にあるのは良質な馬を育てる遊牧民の住む町『ホルン』

 南西にあるのは薬草と香草の育つ自然豊かな町『ハープ』」


 最後に彼はこう付け加える。

「今いるのはハープとドラム結ぶ道だど。そして、この国は良い国だど」


「ありがとうございます」

 彼の教え方が分かり易く、俺は完全にその地図を理解した。



 日が傾き、夕焼け空になった頃。

「おぉい、見えてきたどー」


「おおー、大きい」

 俺の口から自然に出た言葉。


 眼前に映るのは赤茶けたレンガ造りの防壁で囲まれた町。

 ドラムの町がいかに広大であるかを知らせるかの様に、その防壁は視界いっぱいに収まり切らないほど広く長かった。


 近づくと。

 町の入り口は馬車が四台すれ違っても通れる程の広さを有している。そして門番は左右に一人ずつ立っているだけで、中に入ろうとする俺達を呼び止めることはなかった。


 そして中に入る。

 直線道路の様に町の中心まで幅の広い道が続いている。その左右には、三階建てもあろうかというレンガ造りの建物が均等に建設されている。

 通路を挟んだ左右の建物間には、ロープが繋がれており乾かすためだろう服やタオルが吊るされている。それらは風でなびいていて、この町の生活感を醸し出している。


 目線を下に向けると。

 建物の一階部分は屋台や出店になっていて。のぼり旗や看板が建っている。

 もう夕方だからだろう。たたもうとしている店もあれば、呼子が声を出して客引きをしている店もある。

 そしてあたりは夕時独特の夕飯を炊いた匂いが充満している。


 通路には沢山の人や馬車でごったがえしている。


 中世ヨーロッパ風のその光景はまるでファンタジー。

「俺にとって始まりの町」

 人々の雑音や喧噪、馬の足音や荷車を引く音、その中で俺はこの時。

 この町の奥底から太鼓の鼓動が聞こえた様な気がした……


 

 ここまで連れて来てくれた中年の彼との別れ際。安くて泊まれる宿屋はないか聞いてみたところ、指差しで教えてくれた。

「あそこに見える宿『ブリキ亭』そこがいいど」

 本当に親切にしてくれた彼に、俺は心の底から感謝しながら別れた。



 プリキ亭に入る。するとそこにはレンガ造りの外観に対し、木材家具多めのレトロな内装をしている。

「いらっしゃーい」

 受付に座っている中年女性は頬杖を付きながら声を掛けてくる。


 ここは金の無い旅人が泊まる程度の安宿。女性の態度や場の雰囲気から俺は素のままの自分で話し掛けることにした。

「一人で泊まりたいんだがいくら?」


「一泊、銅貨5枚。うちは夕飯付きだよ」

 女性はじっくりと俺の顔を見た後、一拍置いてそう言った。


 しっかりしているなと俺は思う。

 先ほど女性が俺の顔をじっくり見た理由。ここは安宿、ならず者や盗賊らの隠れ蓑に利用される可能性がある。

 顔を見て人となりを判断したのだ。俺はそう推察する。

 古物商の彼が進めるだけはあるな。


「では、一泊頼もうか」

 俺はわざと銀貨1枚差し出す。

「はい、お釣りの銅貨5枚ね」

 これで銀貨と銅貨の貨幣価値は分かった。


「それと、名前教えてちょうだい」

 そう言いながら、彼女は羊皮紙と羽ペンを差し出してくる。


 名前……

 名前を聞かれるのは自然なこと。ただ俺は本名か偽名どちらを使うか悩む。

 名前も国によって傾向が異なる。これもまた特異な目で見られる対象となる。

 だから古物商の彼と出会った時、名前を聞くのを避けたし自分も名乗らなかった。

 それ故の弊害か。偽名を名乗ろうにも俺はこの世界の誰一人として名前を知らない。

 

 おそらくこの問答に俺は正解を導き出す術を持たない。

 

 腹を括ろう。

「ハヤト、文字を知らないんだ。すまないが代筆を頼めるか」

 

 彼女は一瞬、目を見開き顎をひっこめた後、静かに俺の名前を羊皮紙に書き出す。


 彼女からしてみればおかしな点がもう一つある。

 名前が書けないということ。たとえ読み書きが出来ないとしても誰でも自分の名前くらいは書けるだろう。


 ただ彼女が俺の名前を復唱せずに書き出したことから。“ハヤト”この名前は特段違和感のないものかもしれない。

 彼女が羊皮紙に書き出した六文字を俺は目に焼き付ける。同じ過ちを繰り返さないために。


「あたしの名前はロゼ、あんたの部屋は2階の一番奥だよ」

 そう言って、俺に鍵を差し出す。


「いや、この後すぐ外で買い物する予定なんだ。戻って来た時に鍵は受け取るよ」

「そうかい、こっちも夕飯の支度がまだ出来てなくてね。その頃には丁度いいだろうさ」


「それと今日この町に来たばかりなんだ、鍛冶屋の場所を教えてくれないか?」

「鍛冶屋ならこの通りを奥に進んで、金槌マークの看板が建っている場所だよ」


「ありがとう」

 その言葉を残し俺はブリキ亭から出る。


 鍛冶屋への道すがら俺は通行人達を観察する。

 まず見た目。髪の色、肌色、目鼻立ち。

 前世で日本人という一つの民族の集団の中にしかいなかった俺の目には、彼らはあまりにも統一性が無く感じた。

 髪の色は、ピンク、赤、青、緑様々。

 黒髪白人や金髪黒人なんかもいる。目の間隔が極端に広い者もいれば、鼻筋が低い者も。


 次に服装だ。

 転移者の初期装備である革鎧やクロークの種類が世間的な物とかけ離れていれば、それだけで転移者と特定されてしまう。

 それも杞憂に終わる。形や色合いも含めて、同じ様な物を着用している者が何人かいる。


 俺は安心すると同時に焦る。

 これで転移者を探すのはより難しくなった……




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