表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/40

04.方針


 あり得なくはない。俺は摩擦力において神と同等の存在になった。

 なら神の様に時間を操る存在がいたとしても不思議じゃない。


 俺は<無限の摩擦力>と<時間停止>を天秤に掛ける。答えは結果を見るより明らか……


 俺はそいつがいる前提で行動しなければならない。

 取り返しの付かなくなってからでは遅い。ではそれはいつまでに!?

 もう始まっている、今からだ!!それでも間に合わないかもしれない……


 俺はそいつの存在を知っても近付くまで何も出来ない。

 だがそいつは、俺の情報でも、足跡でも、臭いでも、捕捉すれば殺しに来る。気付いた時俺は既に終わっている。


 想像しよう最終局面を。おそらく能力者同士の熾烈な戦いになるだろう。

「俺はその時弱すぎる……<無限の摩擦力>ではあまりにも弱すぎるんだ」


 生き残るためには隠さなければ、俺の存在を、行動の全てを……

 

「クソ……それが出来ない」

 転移者に課せられる偉業を成す義務。

 この義務を果たす。それは自ら行動しなければならないということ。

 それはつまりどこかに“痕跡を残す”ということ。

 

 時間を操る者から身を隠す。そして偉業を成す義務を果たす。

 俺はこの二つを平行して行わなければならない。取れる選択肢は少ない……


 大前提として“身を隠す”これは必須。その上で取れる選択肢。

 それは殺すこと。誰にも見られずに、百の命を殺す、若しくは転移者を殺すこのどちらか……


 俺の能力では百の命を殺す、これは不可能だ。

 必ず人に見られる。痕跡が発生する。


 なら転移者を殺すしかない。

 この世界の、どこに、何人いるかも分からない転移者を“一週間以内”に殺すしかない。


 探さなければターゲットを……



 考えがまとまった俺は空を見上げる。太陽は丁度真上、正午くらいだ。

 長々と考え込んでしまったなと思う。そしてまだ誰も人が通行しないことに焦る。

 

 俺は立ち上がり、もう一度道先の前後に目を凝らして見る。

 幸いなことに遥か後方から一台の馬車らしきものが、ゆっくりとこちらに向かって来ているのが確認出来る。


「不味い……」

 俺は一瞬フードを被るか迷う。待っている間、何者かに襲われてもすぐに察知出来る様にあえてフードを被っていなかった。

 この世界の人間と転移者で顔立ちや肌色に違いがあった場合、特異な目で見られる。それは通行人に俺の存在を印象付けてしまう。


 通行人もこちらが見えているだろう。急いでフードを被ると怪しまれる。

 俺はフードを被らないことを選択する。

 もし「見ない顔だな」その発言があれば必要な情報聞き出した後、処分する。



「おーい、おーい、止まってー」

 馬車が近づくと、俺は片手を大きく振って御者に停止する様アピールする。


 御者席に一人で座る麦わら帽子を被った中年の男はこちらを見て停止する。

「どげなしたんだぁ、こげな所で立ち止まって」

 

 男の風貌は日焼けした浅黒い肌に東洋人系の顔立ち、そして茶髪だ。

 その男は、体、顔、瞳の奥から微塵も微細な変化やぎこちなさを感じさせなかった。

 

 これにより俺は理解する。

 自身の風貌が特異なものではないと。それと同時に言葉が通じると知る。


「あなたと道先は同じなんですけど、何分この先には初めて行くもので足が疲れて動けないんですよ。謝礼はお支払いするので一緒に連れて行って貰えませんか?」

 俺は突然道端に出現したおかしな存在。だから道にいるのにその道先に何があるか前後共に知らない。

 普通ならば絶対にありえない状況。だから嘘を織り交ぜ自然を装う。


「んだなぁ、次の町までもう少し距離があるど。謝礼そげなものいらんど、一緒に乗ってっていいど」


「ありがとうございます。それと次の町って大きいですか?」

 俺は大きい町に行かなければならない。転移者を見つける確率を高めるには人と情報の多い場所へ。

 もし違った場合の想定として、小一時間一緒に行動し途中で小便と言って死角に隠れる。そのまま森の中に姿をくらませよう。


「おっきいど、初めて行くならビックラするど。この先は物流の中継地点『ドラムの町』だど」

 俺は拳をグッと握りしめる。

 幸先はいい。理想的な場所に行けそうだ。



 馬車に乗って分かったこと。

 この馬車には彼一人しか乗っておらず、荷台には荷物しかない。

 彼は古物商らしい。荷物は茶器や巻物など。


 彼との雑談の中で俺は能力の最終確認をする。

「この小剣、売ったらどれくらいになるか分かります?」

 俺は左腰から鞘に収まった小剣を取り出し、彼に手渡す。


「んん、錆びついているんかのぉ、なかなか抜けんどぉ」

 この小剣には能力を発動している。


 彼は鞘から剣を抜こうと力を込める。

「ぬぅけぇろぉー!!」

 彼が力を込めた、その終わり際<能力解除>


 スポンという音と共に剣が勢い良く引き抜かれる。


「ビックラこいた、危ないど。こげな物、使い物にならないど。

 ただ刃は綺麗なもんだぁ。鍛冶屋で1銀貨くれぇならなるかもな」


 俺一人では出来なかったこと。それは俺の能力が他人にも影響するかの確認。

 これは予想通り最良の結果だ。


 

 馬車で揺られるゆっくりとした時間の中で、俺は閃く。

「地図って扱っていませんか?」

 この人は古物商、荷物の中には巻物がたくさんある。なら持っているかもしれない。


「そりゃあるど。ま、この国だけのどもだぁ」


「見せてもらえませんか、見るだけでいいんです」

 この世界の地理を早めに知ること。それは俺の今後の選択肢を増やすことに繋がる。


「そんぐれぇなら、えぇど」

 そう言ってその男は荷台から束ねられた巻物のいくつかを選別し、一つを俺に差し出す。

 それは羊皮紙が丸められたもの。


「ありがとうございます」

 そう言って、俺は慎重にスルスルと羊皮紙を開く。


 俺は愕然とする。

 羊皮紙には地形や町が記されている。そして文字も。

 だがその文字が読めない。俺は錯覚していた、言葉が通じるなら文字も読めるだろうと。


 生きるのに最低限必要なものは与える。それはつまり文字は必要ないということ。

 確かにその通り、俺もそう思う。

 

 この世界の歴史や知識、それらを知るためには学習しなければならない。

 時間を掛けて……




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ