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35.再会


 ハヤトとツーフラワーは城内に入った瞬間二手に分かれる。

 ハヤトは牢獄へ、ツーフラワーは玉座の広間へと。


 二手に分かれた瞬間ハヤトは立ち止まる。ツーフラワーの能力を確認するために。

 彼女は跳躍と同時に人ならざる速度で壁面を貫通し目的地へ向かった。


 それを見たハヤトは戦慄する。



 一度の跳躍でツーフラワーは玉座の広間に到着する。彼女はその部屋に入った瞬間、今までの道すがら兵士が一人もいなかった理由を理解する。

 この広間が兵士で埋め尽くされている。それ程に密集している。

 それと同時にツーフラワーは玉座に座る女性に見覚えがあった。それは遠い昔の出来事。

 聡明な彼女にとって眼前の女性がチェスで最後に負けた相手、と気づくのに時間は掛からなかった。

 そしてそれは彼女のこれからの行いを躊躇させるのに十分なものだった。


 玉座に座るフレアは侵入者の顔を見る。

 お人形の様に整った容姿。それはフレアにとって一生忘れることのない顔。

 心の中で黒い殺意が奔流し溢れ出す。もう止められない。止まらない。

「ツーフラワー=マーリン、お前とこの世界で会うなんて。

 あの時殺せなかった。だからここでお前をぶち殺してやるよぉぉぉぉ!!」


 その声はツーフラワーの耳にも届く。

 それと同時にフレアの言動が自分の理解の範疇外であると感じる。そうして連想するのは贈呈式の発砲事件。

「お前だったのか!!あの時私を殺したのは」

 ツーフラワーは何度も死んだ、そして死の苦痛を味わった。その原因が眼前にいるのだ。

 この瞬間彼女の躊躇は殺意へと変化する。

「死で償え!!」


 ツーフラワーの眼前には何百もの兵士がいた。だがそんなもの彼女には関係ない。

 息を吸い込むと同時に跳躍する。それは兵士の壁をすり抜けフレアの目前へと。


 そして切り付ける!!


 だが玉座に座っていたフレアはその場からいなくなっている。


 ツーフラワーは急いでフレアを探す。

 彼女は遠く離れた場所に移動していた。その傍に一人の女性と共に。


 ツーフラワーは人類最速で動くことが出来る。だからこそ彼女は疑問を持つ。

 なぜ私より速く移動出来る!?それが彼女の能力!?


 ツーフラワーには思い当たる節があった。

『ハーモニー王国はレーテ川を渡る手段を有しています』


 ツーフラワーは理解すると同時に方針を変更する。

 彼女は傍にいる女性の魔法によって瞬間移動している。

 彼女と追いかけっこをする場合、兵士が邪魔だ。先に兵士を全員排除する。


 そうしてツーフラワーは兵士達の中に突入する。


「全ての兵士に命ず、ツーフラワーを圧殺せよ!!」

 フレアの宣言と同時に三百の兵士が動き出す。


 ツーフラワーにとっての想定外。

 兵士達はフレアの能力により死を恐れぬ心を持っていた。更に味方を剣で切り付ける心配すらしていなかった。

 兵士と兵士が折り重なり、山が出来る程に彼らは猛攻する。


 ツーフラワーは不死身の体を有している。よって兵士が何人相手でも死ぬことはない。

 そればかりかツーフラワーが触れた兵士は一瞬にして兜の登頂を残して霊体に変化させられる。


 それはとても異常な光景。

 異常な数の兵士が、異常な攻め方で、異常な速さで減っていく。



 呼吸時無敵ではなくなる。それがツーフラワーの弱点。

 その兵士の数は彼女に呼吸する暇すら与えなかった。

 彼女が今この状況で呼吸する手段は限られる。だから頭上に跳躍する、そして誰も届かない高さで息を吸い込む。


 それを冷静に見ていたのはフレアとスティングと……




 ハヤトはアフロディテを助けるために王城の牢獄へと入った。

 そして目的の女性を探す。


 その場所にアフロディテの姿は存在しなかった。

 フロディどこへ行ったんだ……




 彼女は跳躍し呼吸をすることで兵士との長期戦を可能にしていた。

 そうして達成する。全ての兵士を霊体へと変化することを。


 ツーフラワーは、残すはフレアとの追いかけっこだけだと思っていた。

 私の能力に回数制限は無いが、傍にいる魔法使いは何回瞬間移動出来るんだろうね?

 

 ツーフラワーが勝ちを確信した瞬間。

 それは訪れる。床面、壁面、天井、全てが漆黒へと変化した。

 

 この現状をツーフラワーが知る由もないこと。

 

 彼女は周囲の人間を確認する。

 フレアと魔法使いの女と今まで微塵も動かなかった一人の男。


 その男に目線が合った瞬間。男もまた漆黒へと変化し消えていく。



 同刻、ハヤトも玉座の広間に到着する。そして広間全体が漆黒へと変化している理由を理解する。

 彼は当然の様に疑問を持つ。なぜアフロディテが戦闘に加わっている!?


 その答えはハヤトが知る由もないこと。


 ハヤトに出来ることは一つしかなかった。彼はただ着ているクロークを裏返した。



 フレアは勝利を確信する。

 ツーフラワーの能力には弱点がある。それを私は察知した。

 跳躍したタイミングそれが彼女の無敵でない時間。タイミングからして呼吸のためだろう。

 私にはまだ二つの駒が残っている。

 お前が次に呼吸するまでの時間、それがお前の残された時間だ!!


 ああ、神さま私にもう一度この言葉を使う権利を与えてくれてありがとう。

「ツーフラワー=マーリン、“チェックメイト”!!」


 その言葉はツーフラワーに重く伸し掛かった。同時に彼女はもう呼吸を我慢する限界だった。

 今の状況が分からない。どうすれば勝てる?どうすれば逃げることが出来る?

 彼女は状況判断と選択肢の取捨選択の挟間で最適解を出せずにいる。

 敗北。その言葉が彼女の脳裏に浮かんだ時、彼女は一つの決断をする。

 あいつの油断を突く。だから最後の悪あがきで接近してみよう。



 それは何もない場所からひとりでにナイフが動く様に訪れた。

 フレアの傍にいた女性が倒れる。その女性の喉元は刃物で切り裂かれていた。

 

 それはクロークを裏返したハヤトの所業。


 その瞬間をツーフラワーは見逃さなかった。

 逃げる手段を持たないフレアにツーフラワーが剣を振るう。フレアの首は容易に吹き飛んだ。



 この瞬間生存者はそれぞれの行動を取る。


 アフロディテはフレアが死んだことにより、絶対服従の能力が解除され自らの状況を理解出来ずにいた。だから彼女は状況を理解するために<能力解除>する。


 これにより全ての漆黒が元に戻る。


 ハヤトはアフロディテを見つめていた。そして彼女の無事を確認すると共に安堵する。

 

 ツーフラワーは呼吸をする。

 

 スティングはハヤトを目視する。

「おまえは絶対に殺す!!」

 スティングはこの瞬間のためだけに生きていた。元剣聖としての脚力でハヤトに肉薄する。

 彼の怒りは視界の全てをハヤトへと注視させていた。それ故にその隣に怪物がいることを忘れさせた。


 ツーフラワーにとってハヤトは仲間であると同時に命の恩人。だから当然の様に助ける。

 そうして一つの頭が飛ぶ。彼女にとって近づいてくるスティングの首を刎ねるのは容易だった。


 ツーフラワーにとってもう一人敵がいた。それはアフロディテ。


 アフロディテはこの状況で瞬時に誰が、味方で、敵なのか判別出来なかった。そして彼女の能力はこの死の瀬戸際を打開するものでもなかった。

 故に彼女もまた例外なくツーフラワーによって首を刎ねられた。


 それは全て一瞬の出来事。

 ハヤトはその光景をただ見ることしか出来なかった。




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