30.世界地図
私は命令する。
「この世界の地図を持って来い。隣国について知りたい」
「ハッ」
そういって片腕の帝王補佐官が羊皮紙で丸められた地図を私に差し出す。
私は地図を開く。
「綺麗な円形だな」
地図に書き記されているのは一つの大陸。ふちはギザギザとしているが全体的には円形である。
補佐官は頷いて返答する。
「学者の研究によるとこの大陸の中心部は火山です。
本来海底にあったものが噴火と同時に隆起したことにより、円形で巨大な大陸が誕生しました。
故にこの大陸に平地はございません。場所によって傾斜の大小の違いはありますが、大陸中心に向かった斜面となっております」
「分かりやすい説明感謝する。
この大陸の真ん中にも歪な円形が記されているがこれはなんだ?」
「それは火山の噴火口であり、現在は湖となっております。
火山自体が巨大であるに従って噴火口も巨大です。現在は火山の活動が停止しており雨水が溜まり湖へと変化しています」
「大陸についてはおおよそ理解した。
次にこの国と隣国の位置について聞こうか」
「はい、現在この大陸で確認されている国家は二つしかありません。各々の国家の国境は大陸の河川と密接に関わっております。
故に先に河川の説明をします。大陸中心にある湖は山の山頂にあるため斜面を下って海へと流れております。
今確認されている地図に南、南東、南西の三本の河川が記されているのがお分かり頂けますでしょうか?」
「ああ、山頂の湖からヘビの様にウネウネと太い線で大陸の端まで伸びているのがそれだな?」
「左様でございます。
南と南東の河川に挟まれているのがここディスコード帝国。
南と南西の河川に挟まれているのがハーモニー王国です」
「理解した。それでは二つの国家の都の場所はどこだ?」
「二国家共にザックリと言えば三角形の形をしております。
その登頂にそれぞれ都があります。」
私は疑問に思う。なぜ二国家共に登頂に位置しているのだ?
普通は大陸の中心もしくは海に隣接したほうが資源豊でいいのではないか。ましてや二国家の都が直線距離にすると近すぎる。
「私は疑問だ。なぜ二国家共に登頂に都がある?」
「それは大陸の中心、つまり登頂に行けば行く程に大地の魔力が濃くなる故です。
この魔力が濃いとは様々な恩恵を人間が得ることが出来ることを意味します」
「その恩恵とは具体的に!?」
「まず魔法行使による疲労が軽減されます。
そして国家が保有している魔力付与品の使用による劣化、保管による経年劣化を軽減することが出来ます」
この世界には魔法や魔力が存在していることについては既に知っている。
だが魔法、そんなもの取るに足らない。私の持つ能力の方が遥かに有用であると断言出来る。
この話をこれ以上聞く価値はない。
「魔法の話はもういい。
例えばこの国の南東側の河川の向こう側には何がある?」
「先ほどお伝えしたディスコード帝国とハーモニー王国以外については、何があるのか誰も分かっておりません」
「何故だ!!
河川を渡ればそこに何があるかわかるだろう」
「この国は未だにその河川を渡る手段を有しておりません」
河川を渡る手段を持っていない!?
川くらい泳いで渡れるだろうし、船を造って渡ってもいい筈だ。
ましてやこの世界には魔法が存在するのだろ?それがなぜ出来ない?
「渡れない理由はなんだ?」
「山頂の湖から流れる河川、その全てをレーテ川と呼んでいます。
その河川の水は特殊な魔力を有しております。触れると“記憶が無くなる”のです。
それ故この国の人間はその川を渡ることが出来ておりません」
私はこの世界の超常現象に絶句した。すると同時に当然の様に疑問が残る。
「ではなぜハーモニー王国の存在を知っている?」
「それはその国が我が国に持たない魔法を持っているからでございます。
詳しくは分かりませんが。河川を飛び越えて人間が移動する魔法の様です。
彼らから接触して来たことが何度かありました。それ故我らはその国の存在を知っています」
「この地図を見る限り、帝都と王都はそう遠くない様に見えるが、この城の高台に行けば王都が見えたりしないか?」
「目視することは可能でございます。これから行かれますか?」
「ああ、案内せよ」
ここは展望台。この王城で、そしてこの国で、最も高い場所。
私はそこに映る景色を眺める。
先ず目に映るのは大陸の山頂である大きな湖。山頂である筈にも関わらず地平線一杯まで湖があることに驚く。
そこから目線を山の斜面に沿って下ろす。すると真っ白な王城が見える。
あれがハーモニー王国。
私がこの世界に転移者として呼ばれた理由。それはこの世界から格差を無くすという使命があるから
ディスコード帝国においてそれは遠くない将来に達成することが出来る地点まで来た。
眼前に映る王国も例外ではない。私は行かなければならないハーモニー王国に。
「この国には水の浸透しない長靴は存在するか?」
私はここまで案内をした補佐官に尋ねる。
「はい存在します」
「では、もしその長靴で水面上を歩ける人間がいたとする。
レーテ川の上を歩いたらどうなる?」
「レーテ川の水は人肌に直接触れなければ効力を発揮しません。
それ故、記憶喪失にはならないかと思われます」
「私は少し旅に出る」
行こうハーモニー王国へ。




