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29.実現


 人間を殺した。それは私にとって初めての経験。

 それにも関わらず何も感じない。恐怖も後悔も罪悪感も……

 

 ああ、君達の気持ちがやっと分かったよ。これが責任を自分で負わず全てを他になすり付けるということ。

 

 退路を塞ぐ様に取り囲んでいる衛士達に私は宣言する。

「人を殺すことに何の感情も抱かない。それが君達。

 ならば私も何の感情も抱かずに君達を殺してみせよう」



 衛士達は誰一人として五歩も動くことが出来なかった程の時間。たったそれだけで私は二十人全てを霊体化した。

 後に残るのは二十本の地面から咲く生首とそれから染み出す赤い血の異様な光景。


 私の野望を叶えるためには、こんなことを何千回と繰り返す必要があるだろう。

 私にそれが耐えられるのか……


「ハハハ」

 私は馬鹿だ。これは私の野望などと軽々と決め付けてよいものではない。

 神様の啓志なのだ。ここは変わるべき世界であり、正しいあり方を望まれているのだ。

 そのために私が必要とされている。それはとても光栄なこと。

 たとえ私の心が壊れたとしても。喜んで全うしなければ!!


 今の私に出来うる最大限の決意。


 方針が決まれば目的を探すのも容易である。

 私のこれからの目的。それはこの国の最高権力者の首を取る。

 先ずは知らなければ、私が今いる場所と、目的地の場所を。


 私は周囲に目を配る。私と衛士の戦闘風景を痩せ細った男が興味本位で覗いていた。

 彼は私と目が合うと急いで逃げ出す。


 私は跳躍する。

 彼は踵を返したその眼前に、先ほどまで見ていた女が突然現れたのだからさぞ驚いただろう。

「うわぁぁ」

 哀れにも尻もちをついた。


「あなたに危害を加える気はありません。

 私はこの世界について何も知らないの。だからこの国とこの町について教えて」

 彼を落ち着かせるために私がどんなに笑顔を作ったとしてもそれは逆効果だろう。だから無表情で淡々と質問した。


「ここはディスコード帝国、その防壁の中は帝都だ。

 頼む命だけは助けてくれ」


「そう、ありがとう」

 必要なものは全て聞いた。彼にもう要はない。

 私は無機質に感謝の言葉を述べて彼から離れる。


 運がいい。私は既に目的地のすぐ傍まで来ている。

 後は目の前の防壁の中に入り、ただ大きな街道を進むだけで城に到着するだろう。

 

 だたしその過程で一つだけやるべきことがある。

 もうすぐこの国に王はいなくなる。そして私がこの国を変える。

 革命を起こすのは誰なのか。それを多くの民に知って貰いたい。


 ここは防壁の外のスラム然とした場所。そこに住む人達だからこそ聞いて欲しい。

「私の名前はツーフラワー=マーリン。

 このディスコード帝国から格差を無くす人間だ!!」

 私は声を張り上げて名乗った。


 それに返答する者など誰もいない。

 これでいい。貧者の願いや信頼なんて必要ない。

 そんなものなくても私の決意だけで実現してみせる。



 私は防壁の入口に近付く。そこには防壁の外側で起きた異常事態に気づき、何十人もの兵士が集結していた。


 たとえどんなに障壁となる人間が増えようとも私の意志は変わらない。

「権力に従う者達よ。私の名前はツーフラワー=マーリン。

 この国を変え、そして今からお前らを殺す人間の名前だ。

 死にたい奴からおいで。楽に殺してあげるから」



 そうして、何人もの人間を殺し、何度も私の名前を名乗った。

 その街中は、床面が血でどす黒く染まり、住民は皆家に姿を隠し人気がなくなった。




 私は目を閉じる。そうして瞼の奥の文字を確認する。


・第二週:6日目


・称号:<虐殺者(帝都の兵士)>

・称号:<有名人(ツーフラワー=マーリン)>

・称号:<強奪者(ディスコード帝国最高権力)> 


 再び目を開ける。ここはディスコード帝国の城。

 私はその玉座に座っている。神の力の暴力によって実現したのだ。


 ああ、長く疲労する戦いだった。

 私が戦闘において無敵であることに変わりない。ただ休息する場所が限られていた。

 私の弱点は睡眠だ。能力を発動したまま寝ることは出来ない。

 だから場所を慎重に選ばなければならなかった。

 私の様な人間を宿に泊めてくれる場所などありはしない。あったとしてもそこに暗殺者を仕向けられない保証はない。

 壁をすり抜ける。この能力の使い方が唯一の私の味方だった。

 時に、姿をくらまし、民家に不法侵入し、宿屋に無銭宿泊する。ぐっすりと眠れたことなど一度もなかった。


 それでも私は成し遂げた。

 この城に出入り出来る身分の高い人間は皆、私の能力によって四肢の一部を霊体化させている。

 今私の隣で苦しそうな顔で立っているのは帝王。こいつは両腕を霊体化している。


 私は彼らに既に持つ権力と四肢の自由、この二つを天秤に掛けさせた。 

「権力者達よ、お前たちの四肢の一部に呪いを掛けた。

 体の自由を返して欲しければ私に従え!!」


 人間とは己の命が最も大切なのだろう。それは強大な権力を持つ者も例外ではない。

 彼らはあっさりと私の言うことに従うようになった。


 この国の貧しい人々に住む場所すら与えず、ましてや一貴族の身勝手な裁量で貧者の命を選別していたのだ。

 その現状に目を反らし、のうのうと裕福な生活をしている権力者達。お前らに生きる価値無し。


 その判決は今でも変わらない。しかし彼らにはやって貰わなければならないことがある。

 貴族達の現状の職務。彼らの代わりにその職務を全う出来る人材はいるのか?

 いたとしてもその一族の人間や同じ貴族だろう。それでは意味がない。


 私の目的は王権主義から民主主義へと改革すること。

 そのために国家備蓄財産と貴族の財産を没収する。それで貧者に住処と教育する場所を与える。

 十五年。その意味は、王族や貴族の残された命の時間、子供が知識を身に付け大人になるまでの期間。


 私の隣にいる帝王も両腕が返して欲しくてこの命令に従う意向を示している。

 後はこの国を見守る。もう私がこの国に手を加える必要はないだろう。




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