27.可能性
Transcendent ability:<完全なる透過制御>この能力を自身に発動した場合、私は無敵になる。
しかしこのまま実行した場合、最悪の私の即死もあり得る。
その可能性として、生き埋め、身体の切断、窒息が上げられる。この能力の性質を深く理解するまで自身へ能力の適用は避けたほうがいいだろう。
そのために実験が必要。
最も重要なのは霊体と相互干渉体を同時にではなく個別に発動出来るかどうか。
私は近くの木から枝を折る。
その枝に対して霊体のみをイメージして<完全なる透過制御>発動。
結果としてそれは失敗に終わった。
私は右手で枝を掴んでいたが、触れている部分は相互干渉体になっている。つまり私の能力は絶対に霊体と相互干渉体が同時に発生するという性質を持つ。
この結果から能力発動対象物質について分かることが二つある。
一つ目は重力の影響を大小の違いはあるが必ず受ける。
二つ目は地面の奥深くに沈んでいくことは絶対にない。
これは相互干渉体が必ず発生してしまう。このことから二つの答えは導き出せる。
次にこの能力で物質の切断が可能か確認してみよう。
今手元にある枝はおおよそ私の肩から指先までの長さがある。
枝を左から現体、霊体、相互干渉体に三等分になる様にイメージする。
もしこれに成功すれば、枝の左から三分の一地点が現体と霊体の境目となる。そしてその境目は切断という結果になるだろう。
私はこのイメージで枝に<完全なる透過制御>発動。
結果は失敗。
私のイメージ通り枝を左から現体、霊体、相互干渉体に変化させることは出来た。しかし枝は切断されず繋がったままだ。
これはつまり現体と霊体の境目にも相互干渉体が、私の意志と無関係に発生することを意味している。 これによりこの能力で物質の切断することが不可能であると分かった。
なるほど相互干渉体とはこの能力を便利にしているが、応用力を損なわせる反面もあるということか。
次に窒息についてだが。
人間は空気中の酸素を用いて呼吸している。その酸素濃度が急激に低い場所で呼吸をすると気絶する。
さて霊体空間には空気が存在するのか?この能力によって私の体を霊体化しそこで呼吸した場合、私はどうなる?
おそらくそこで呼吸をすると酸素欠乏で気絶し、そのまま窒息死する可能性が高い。
もちろんこの能力のなんらかの作用で呼吸できる可能性はある。しかし自らの体で実験するには危険が大きすぎる。
では他人で試す?いや実験なんかのために人の命を軽々と扱うものではない。
これを試すことなど出来ない。ただ単に霊体空間に空気は存在しないという前提で行動すればいいだけのこと。
自身へ能力を発動した場合、生き埋めや身体の切断の可能性は低く、窒息の可能性は高い。とするならば息を止めている間だけ透過能力を発動することで自身へのリスクを抑えることが出来るだろう。
私は自身の体に<完全なる透過制御>を発動する。そうして私の体は霊体になり靴と接触している足の裏の表面だけが相互干渉体になった。
上手くいった、このまま歩いて見よう。そう思った瞬間。
私は急いで<能力解除>する。
ハァハァ。私はなんと愚かなことをしようとしたんだ。
歩こうとした瞬間思いついたこと。もしこのまま転倒したらどうなる!?
霊体化した私の体は重力の影響を受けない。そして靴だけが重力の影響を受ける
私が転倒する。それは子供が靴とばしで表か裏かで明日の天気を占う遊びと同様になるだろう。
だが私にとってそれは生きるか死ぬかを占うことになる。
もし裏になったとしたら私の体は地面に埋まることになる。そしてそれは自力での脱出が不可能であることを意味する。
そうなった場合<能力解除>出来るのか?
出来たとして私の体が無事であるという保証はどこにもない。
出来ないとしたら私はいずれ息が苦しくなり呼吸してしまうだろう。それは死ぬ可能性の高い危険な行為という結論が既に出ている。
私は深呼吸して乱れた動悸を落ち着かせる。
落ち着いた私は先ほど気づいたことを確認するため再度実験をする。
先ほどの枝を手に取り<完全なる透過制御>発動。
そしてその枝を地面に突き刺す。透過しているため抵抗なく入った。
その状態で<能力解除>
結果失敗。能力が解除されることはなかった。
この結果は予想通りだ。仮に出来たとしたら物質の最小位である原子と原子を融合させることを意味する。
これは私の能力<完全なる透過制御>の本質から透過から逸脱した性能になる。
ああ、危うく死ぬところだった。
全身に能力を発動させる場合、足の裏と手の平の表皮を相互干渉体にすることでこの問題は解決するだろう。
私は再度自身に<完全なる透過制御>発動する。
このまま息を止めて歩いてみよう。私は一歩踏み出す。
なんだこれは……
私の体がふわりと浮き上がった。それはまるで月面に立った宇宙飛行士の様に。
これはつまり重力の影響をほとんど受けない私の体は自重を無視する。そして軽く踏み出しただけで飛び跳ねる勢いになる。
その後は風に舞った木の葉がひらひらと地面に落ちる様に私の体もゆっくりと落下する。
私は慣れなればならない。呼吸と能力切り替えの同調を。透過した身体での行動を。
息を吸い込む瞬間以外の時間は全身を透過しているのが最善。それはならず者が奇襲や暗殺を仕掛けて来たとしても対応するために。
私は行方の知らない道をただ進む。歩行や走行は練習に丁度いい。
空気抵抗の影響を受けない体、自重の影響を受けない脚力。
それはいつしか人間の限界を超えた速度へと……




