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25.権力


 私の名前はツーフラワー=マーリン。

 とある欧州諸国にある国の王族。私はその国の第一王女。


 王位継承権第一位である私は将来、女王となり自らの国を治めることが約束されていた。


 そのために小さい頃から女王に足る素養を教え込まれた。

 自由になりたい、ここから抜け出したい、外で友達を作りたい。そう毎日の様に思っていた。

 そうしてその時間は私にとって苦痛へと変化していく。


 その過程で疑問に思う。

 なぜ私が、王女なの、村娘じゃないの?

 その答えは親が、権力を持つか、持たないかの違いでしかない。

 

 生まれ持った“権力”

 どうして私は生まれて来たの?

 そうしてそれは自身この疑問に投げ掛けるのに十分なものだった。

 

 その答えに辿り着いたのは私が14歳の頃。

 私はボードゲームの一つであるチェスに夢中になっていた。子供ながらに上達していたと思う。

 そうして国内大会の決勝戦まで勝ち進めた。相手は私と同学年の女の子。

 私とこんなにも互角に争えるなんて。それが当時の私が素直思ったこと。


 接戦の結果。私は敗北した。


 大好きなチェスで負けた。

 それは私に悔しい思いをさせると同時に、私より強い目の前の女の子を褒め称えたいと思わせた。

 だから私は自らの手で彼女に優勝トロフィーを贈呈したいと自然に思う。

 そうして周りの反対を押し切って壇上に、私はトロフィーを持って立ち、女の子もまた上がって来る。


 その時私は目の前の女の子の表情を見て不思議に思った。その表情は、喜びでも、勝った相手からトロフィーを授けられる気恥ずかしさでもなかった。

 怯え。まるで悪いことをした子供が大人に叱られるのを怯えている様な……


 そうして私は真実に辿り着く。


 なぜ私が全国大会の決勝戦まで進むことが出来たのか?

 その答えは談合。私の知らない裏側で対戦相手が負けるように話し合われていたから。

 それにも関わらず私が準優勝である理由。それは目の前の女の子がまだ幼い子供だから。

 彼女は私との試合が楽しく夢中になった。

 そして負けたくないと思ったのだろう。大人との約束を忘れ自らの実力で勝利してしまった。


 試合が終わり冷静になった彼女は思い出す。大人との約束を。

 そしてそれを破ってしまったことを後悔している。だから怯えているんだ。


 私はただのマリオネット。裏側の談合に気づかず騙され喜んでいた。


 そうして気づかされる。トロフィーを持ち壇上にいる今の私はなんと滑稽なことか。

 ああ、もう帰りたい、こんなことやりたくない。心からそう思った。

 それでも私がどんなに辛くても笑顔を崩すことは出来ない。

 私の表情の変化。それはつまり後の彼女の叱責をより強いものへと変えてしまうのだから。


 私は自分を偽り笑顔でトロフィーを贈呈した。

 それは幼い私にとって最悪最低な思い出。好きなものが嫌いになった瞬間。


 優勝した女の子もその後の大会で名を連ねることはなかった。その子にとってもチェスが好きなものから嫌いになった瞬間だったのだろう。


 権力とは私にとって、与える者、授けられる者双方を不幸にする。

 だから“格差”を無くそう。そのために生まれて来たんだ!!


 幼い私の大きな決意。



 それから数年が経ち私が大人へなった頃。

 父の代わりに絵画コンクールで最優秀賞をとった少年へトロフィーを贈呈する仕事が入った。

 私は思い出す。あの嫌な記憶を。

 それでも父が存命である今、私は国王の代理を努めなければならない。



「とても美しい」

 私がその作品を見た感想。

 絵画の内容は中央の玉座に座る国王と左右に平和の象徴であるハトが羽ばたいている。



 壇上で、私はトロフィーを持ち、製作者の少年へと贈呈しようとした瞬間だった。


「王権主義反対!!」

 その掛け声と共に観客の一人がマシンガンを乱射した。


 最優秀作品は平和の象徴から死の象徴へと変化した。製作者と王女の血飛沫が書き加えられることで。

 

 銃弾を浴びた私が倒れていく刹那に思った。

 この人間はなんと馬鹿なんだ。自らの一生を犠牲にしてまで望んでいるその野望。

 それはあなたに殺される私が実現しようとしていたことなんだよ。

 そうして私は死んだ。


 その筈だった。

 

 私は病院のベッドで目を覚ます。


 話を聞くに特別な医療処置によって私は生き延びたそうだ。

 しかし私には絶対に聞かねばならないことがあった。

「あの少年は、私の隣にいた少年の命はどうなりましたか?」

 私は切迫して看護師に尋ねる。


 彼女は気まずそうな顔で答えた

「王女様の近くにいた少年は亡くなりました」


 私は絶句する。無意識に体は震え出す。

 私は特別な医療処置により、助かり、少年は助からなかった。この意味。


 人間の命が“選別”されたということ。


 私がなぜその特別な医療処置を受けることが出来たのか?

 その答えは“権力の行使”によって……


 私が生まれて来た理由。それはこの国を格差の無いものへと変えるためという答えを導き出した。

 それにも関わらず私は生き延びたのだ。権力を行使することによって。


 これから私が実行しようとしていた改革。その全てが実現不可能になった。

 私が生き続けるということは権力を行使した恩恵を得続けるということ。格差や権力の集中を無くそうとしている人間が権力の恩恵を得続けているのだ。

 そんな人間の改革に賛同する者がいるのか?答えは否。


 私は何の説得力も無い存在に成り代わってしまった。

 ああ、私は何のために生まれて来たの?そしてこれから何をすればいいの?

 ただ周囲の人間の言いなりの女王なんてやりたくない。


 生きる意味を失った私は一つの選択をした。


 高い場所から飛び降りた。




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