24.決意
そうして対峙する。乗馬したハヤトとスティングの一騎打ちが
ハヤトは馬車から自分を迎え撃つ存在が降りて来るのを目視した時、その人物について思い出す。
あいつは宿舎の時、俺に後ろから剣を突き付けた奴だ。おそらく実力者、ただならぬ気配を感じる。
だから迷いなく選択する。奥の手を使うことを。
ハヤトは馬の鞍袋から一つのロープを取り出す。
それの後ろ端を左手に持ち、右手でロープの束を投擲する様に持つ。
そしてそれをスティングの真上に向かって投げ放つ。
スティングはそのゆっくりと投げられた物を見ている。
それは一見ロープの様に見える。ただ投げられた先端が人間の頭程の大きさで、くちゃくちゃにまとめられた毛糸玉の様に丸まっている。
それはスティングの頭上を飛び越える程の高さに投げられた。彼はただそれを見つめることしか出来ない。
それがスティングの頭上に到達した瞬間、それは頭上から蜘蛛が糸を散布するように分散し降り注ぐ。
なんだこれは!?スティングはその現象の意味が分からなかった。
スティングの確固たる決意。
俺には守るものがある。そのために何としても目の前の男を止める。
俺は絶対に回避しない。それをしてしまうと男に道を譲り渡すことになるから。
意味が分からなくても全て切り裂く。そしてお前を馬から引き摺り下ろす!!
それは糸の雨。数にして百近い糸が頭上から降り注ぐ。
スティングはそれを剣で切り払う。元剣聖としての実力がそれを可能としていた。
しかし彼はすぐに違和感に気づく。
剣の切れ味が悪い。いや違う、剣に付着した糸が離れない。
それはまるで割り箸にわたがしを巻く様に。彼の剣の切れ味を失わせていった。。
そしてその糸がスティングに、一本、また一本と付着していく。少しずつ追い詰められる彼は思う。
なぜこの糸が俺の体にくっつく、そして剝がれない!?
それは蜘蛛の巣に絡まり逃れられない蝶の様に。スティングもまた身動きが出来なくなった。
「俺から逃げるなぁぁ!!」
スティング見るだけしか出来なかった。その男が一瞥することもなく追い抜いて行くのを。
ノゾミもまたその一部始終を見ていた。そして安堵する。
良かったスティングさんはまだ生きている。
ノゾミの行動は馬車から降り立ち、直剣を構え、男を迎え撃つ。
それと同時にノゾミは決意する。
何度も諦めると同時に諦めきれなかったもの。それは私の夢。
本来たった一度しかない人生。その多くの時間を私は病院のベッドの上で過ごした。
誰もが当たり前の様に訪れる青春。それが私の元に訪れることはなかった。
過ぎた時間はもう取り返すことが出来ない。でも今の私はそんなことで落ち込んだりしない。
私の憧れ。大切な人を好きになる、そして好きになって貰える。
それはこの世界で叶えられる。そしてその夢はたった今叶ったんだ。
だからお願い!!私に続けさせて、この幸せな気持ちを。
それは私のひとりよがりかもしれない。
だけど私の夢を叶え続ける。そのためにあなたを殺す!!
ノゾミと一定距離近づいた時ハヤトは下馬した。それは騎乗したままで戦える術をもう持たないからだ。
ハヤトはもう立ち止まることは出来ない。
俺はフロディを助けるために突き進む!!
故にノゾミの剣の間合いに踏み込む。
瞬間、目にも止まらぬ速さでハヤトの首が切り裂かれる。
その時その瞬間<無限の摩擦力>発動する!!
そうして切断されたハヤトの頭部と胴体は、分断と同時に繋ぎ止まる。
ハヤトの決意。
フロディと対峙した時俺は自身の能力を疑った。それが致命的な失敗繋がった。
だから同じ過ちは繰り返さない。
自分の能力は絶対に信頼する。それは授けてくれた神に対しても絶対に信頼することを意味する。
そしてその神から授けられた転移者の能力。それもまた絶対に信頼する。
だから俺は確信していたよ。おまえが俺の首を綺麗に切断してくれることを。
そうして発生した僅かな隙。それは隔絶した技量の差を埋めるには十分な時間。
ハヤトはノゾミの喉元をナイフで切り裂く。
ノゾミは自身の体が倒れて死に逝く間際、ただスティングだけを見つめていた。
ハヤトにとってその行為の代償は大きかった。
体が思うように動かない……
ハヤトの確固たる決意は死ぬべき運命をも繋ぎ止めた。しかしそれは後遺症という形でその後の行動に制限が発生するものだった。
俺はこんなところで諦めなければならないのか……クソ。
ハヤトは雑木林の中へと姿を隠して行く。それと同時に思う。
フロディはこの一週間なんとか偉業を成す義務を達成することが出来るだろう。それは殺人者という不名誉な形で有名になることで。
だから俺はまだ諦めない!!
時は遡り。スティングは見てしまう。
自身がロープに絡まれて動けない間に起きたノゾミとハヤトの戦闘を。
俺は理解出来なかった。
ノゾミが男の首を刎ねた。それにも関わらずどうしてノゾミが倒れている?
時間を置いてスティングは動ける様になる。そして近づく。
そこには喉元を切り裂かれ倒れているノゾミ。
俺の視界はぐにゃぐにゃ歪み、真っ赤に染まっていく。俺にとって、最愛の人、最後まで傍にいてくれた人。
「守れ、な、かっ、た……」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そこにはただ一人。男の泣きわめく叫び声だけが木霊した。
第二章 完




