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20.臆病


 ノゾミには女剣士達の住む宿舎、その一室を貸し与えられた。

 こうして彼女の剣修院での生活が始まった。



 俺は今周囲が暗闇にも関わらず歩いている。剣修院その修練場に向かっているのだ。


 俺は時々誰もいない夜に一人で練習することがある。今俺がそこに向かっている理由はノゾミという存在を見てしまったからだ。

 彼女のあの戦闘風景は人間の能力の限界を超えている。俺はそう判断している。

 だがそんな簡単な言葉で決め付けてしまっていいのか!?俺は自身にそう疑問を投げかけた。

 俺の答えは、剣士とは死ぬまで技術を高める努力を辞めるべきではない。そしてその頂にある答えを、俺は体験し見てしまったのだ。

 俺がノゾミの様になることは出来ない。だが限りなく近づくことは出来る。

 


 いつもの修練場に着いた時、他に人がいることに気づく。

 俺以外にも夜な夜な練習をする剣士も存在する。だからおかしいことではない。

 ただそこに居たのは黒髪の清楚な女だった。ノゾミだ。

 なぜこんなところにいる?そう疑問に思って俺は陰から観察する。


 彼女の周りには多種多様な武器が転がっている。槍や斧や弓……

 おそらくそれは武器庫から持ち出しのだろう。そしてその全てを練習している様子だった。

 俺にはその行為が何を目的としているのか理解出来なかった。そして負けた相手の前で必死に努力する姿を見せたくもなかった。

 だから俺は引き返す。自身の宿舎へと。



 その翌日。

 今俺は修練場で修練を積んでいる。そして気づく。

 母上がこちらを見ている。そして次に目線を移した先はノゾミ。

 

 それは母上が俺に対しノゾミの元へ向かへとの意思表示だ。

 

 剣修院の剣士の多くはまだ彼女のことを快く思っていない。だから一人なのだ。

 それにも関わらずノゾミはただ目を閉じ礼儀正しく座っている。

 他の剣士は彼女が瞑想していると思い込んでいるだろう。

 しかし俺は知っている。彼女のその行為の理由を。

 彼女はただ眠っているだけなのだ。おそらく昨日は朝まで練習していたのだろう。


 ノゾミの元へと向かう。俺は自身が最大まで緊張していると自覚する。

 そうして彼女へと話しかける。

「六代目剣聖、お時間よろしいでしょうか?」


 彼女はきょとんとした表情でこちらを振り向く。

「は、はい、大丈夫です」


 俺は覚悟を持って話し出す。

「よければ明日、俺と一緒に外へ出掛けませんか?」


「はい」

 彼女はただ微笑んで、そう返事をした。




 剣修院の近くで外へと出掛ける場所。俺はそれを一か所しか知らない。

 それは父上と母上と俺の思い出の場所。


 今俺とノゾミは剣修院から北東に向かって雑木林の中を歩いている。

 そこにあるのは、ただ沈黙……



 その道中。

 一羽の雛鳥が木の上の巣から落ちたのだろう。ピヨピヨと弱弱しい鳴き声を上げている。

 その周りには親鳥が我が子を必死に守ろうと、たった一羽で俺達に向かって威嚇していた。


 それを見て俺は連想してしまう。どうしようもなく情けない俺自身とそれを必死に守ろうとする母上の姿が。

 俺は思う。今この場で助けてあげることが本当そいつにとっていいことなのか?

 そうして悩んでしまった。


 その時ノゾミが親鳥を恐れるでもなく、そいつを優しく包み上げ、木に登り雛鳥を巣に戻してあげたのだ。

 そうして彼女は俺に向かって言う。

「意外と慎重なんですね」


 俺は内心で自嘲する。

 その言葉は裏を返せば“臆病”とも捉えることが出来る。

 そう正解なのだ。俺は自覚している自身が臆病だということを。


 だが……それを今まで誰にも言われなかった。

 それはなぜ?

 それは誰もが、俺の中身を、その本質を見ようとしないからに他ならない。

 もしかしたら彼女は見ようとしているのかもしれない……



 それからだろうか、彼女の心境に変化があったのか、俺自身が纏う緊張が取れたのか。

 ノゾミは多くのことに対し無知だった。そしてそれを俺に質問した。

 俺はただそれを分かり易く答えあげた。


 心の中で俺の記憶が甦る。

 父上と母上と一緒に歩いている時、俺もまた同様に多くのことを質問したのだ。

 俺にとってそれは幸せで大切な思い出。それなのに忘れていた。


 彼女は大事なもの思い出させてくれた存在になった。



 そうして到着する。俺と家族の思い出の場所。

 そこは今までの雑木林と違って開けた場所。

 木々の葉の隙間から木漏れ陽が射し込む幻想的な風景。地面いっぱいに咲き誇る花々。


 彼女はその光景を見た瞬間ゆっくりと走り出す。そしてその真ん中でぐるりと一回転する。

 それはまるでお城に閉じ込められていたお姫様が、初めて大自然に触れ合う様な純粋さで自然な行動だった。


 彼女は本当に嬉しそうな笑顔で言う。

「ありがとう、こんな美しい場所に連れて来ていただけて」


「俺も六代目剣聖の喜ぶ姿が見ることが出来て幸いです」


 彼女はぷっくりと頬を膨らませる

「私のことノゾミって言って頂けませんか?

 それと私の方が年下なのだから敬語も辞めて欲しいな、スティングさん」


 俺はただ頷いた。


 彼女はそのまま目線を動かし目に付いた一輪の花に近づく

「わー、この花綺麗ですね」

「それはトリカブト、花は綺麗だけど毒を持つ毒草なんだ」

「えっ!!持って帰って部屋に飾ろうと思ったんだけど。残念だなぁ」


 彼女は残念そうにしていた。だから俺は一枚の葉っぱを手に取り口に当てる。

「ピュ~」

 草笛の音が澄み渡る。


 彼女は俺の方を見て驚いた表情をする。

「すごい、すごい、とても綺麗な音色でした」

 彼女は飛び跳ねて喜ぶ。まるで子供の様に。


「これはユーカリの葉、薬草として有名で回復薬の原材料にもなっている。

 そして草笛としてもいい音色がするんだ」


 俺は彼女に草笛のやり方を教える。

 彼女はいとも簡単に草笛が出来るようになった。


 そうしてその場にピュ~ピュ~と二人の草笛の音が木霊する。


 俺はただ何となく彼女に秘密を教えることにした。

 もう一度ユーカリの葉を口に当て、息を吹く。

 そこから出るのは無音。彼女は俺が草笛に失敗したと思ったのだろうポカンとした表情をしていた。

「実は俺すごく耳が良いんだ。だからさっきの草笛もちゃんと音を聞き取ることが出来るんだ」


「すごい、すごーい」

 彼女はそれにもまた驚いてくれた。

 

 こうして俺とノゾミの二人だけの時間が終わる。




 その数日後ブラウニーが行方不明になった。

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