18.剣聖
俺の名前はスティング=ブラッド。この国で『六代目剣聖』という呼ばれ方もしている。
母上の名はリスト=ブラッド。俺と同様に『五代目剣聖』だ。
剣聖とは剣修院で最も技量の高い剣士に与えられる称号。
そして剣聖という称号は引継がれる。当代の剣聖が認めた剣士に対し、次代の称号を与える権利を持つ。
つまり俺は母上に認められたのだ。だから『六代目剣聖』という称号を得ている。
父上と母上は幼馴染で幼い頃から剣聖を目指して剣修院で切磋琢磨し合っていたという。
二人が大人になり今は亡き四代目剣聖の前で真剣勝負をした。
技巧派の父上と力技の母上。接戦の結果、母上が勝利した。
その試合で何が見えたのか分からない。だがお互いを尊重し理解し合ったのだろう。
二人は結ばれ結婚した。
そうして生まれたのが俺だ。
父上は既に病気で他界している。
母上は父を愛していたのだろう。父上が寝込んでいる際、傍を絶対に離れなかった。
亡くなった時、何日も死者と決別出来ずに部屋にこもり泣いていた。
幼い頃の俺は剣士になりたくなかった。
一流の剣士同士を親に持つ俺は周りから上手くて当たり前という見方をされていた。
そして仮に俺が剣聖になることが出来たとしても、それは生まれ持った才能や血統とせいだと陰口を言われるのが嫌だった。
それにも関わらず、俺は今『六代目剣聖』としてここに存在している。
それは俺の臆病や思い切りのなさのせいだ。
片親である母上は俺を剣士として育て上げると強く心に思っていた。
俺が剣士の道から外れるとは、俺が剣修院から離れるということ。それは唯一の家族である母上を孤独させることを意味する。
俺は母上の、願いを叶え、支える。そう答えを出した。
そうして今の俺は幼い頃思っていた通りに周りから陰口を言われている。
誰も俺のことを理解しないのだ。俺が剣聖になるまでの道のり、その全てにおいて才能や血統に甘んじて楽をしていた訳じゃない。
俺はそれに必要な努力をした。肉体を酷使し、技術を高める方法を追求した。
その結果今の俺がいる。
ここからは俺が毎日通う剣修院の修練場での出来事。
「どなたか私と戦って頂けませんか?」
剣士達の武器がかち合う音や掛け声が飛び交う雑音の最中、女性の声が澄み渡る様に響き渡った。
俺は声の聞こえた方向を見る。そこには女性が立っていた。
黒髪長髪で平均より少し高い身長、そして清楚な町娘。それが俺の受ける印象。
白けた雰囲気の中、母上が彼女に返答する。
「おいおい、嬢ちゃんよ、ここが何処だが分かって言っているのかい?
その見た目からは誰一人としてあんたに負ける奴はこの中にいないと思うぞ」
彼女の見た目から年齢を推測することは出来る。そして彼女の年齢と近しい女剣士は存在する。
だが今この剣修院の場で修練を積めるのは、一種の剣術試験に合格した者達だけなのだ。つまり個人によって技量の差はあるけれど精鋭揃いなのだ。
「お願いします」
彼女は頭を下げてお願いする。
その姿勢や動作があまりに洗練されている。俺はそう感じた。
母上もまた俺と同様なものを感じ取ったのだろう。本来であれば成立しえない交渉に許可を出した。
「ブラウニーおまえが相手をしてあげろ」
年齢の近く、そしてこの中で最も技量の低いブラウニーが相手をするのは当然のことだろう。
汚れ仕事は彼女に押し付けられる。その理由は彼女の姿勢や態度にある。
剣修院この場で修練が積めるそれだけで彼女は満足してしまっているのだ。
剣修院の剣士は万が一、他国との戦争や国民の反乱があった場合。国王の兵士となることを約束している。
その対価として資金の援助を受けている。それは剣修院の剣士にとって最低限生活を保障するもとなる。
そうしてそれは現状に満足し、成長や努力をする気のない彼女の様な剣士を生む。そんな奴らは他にも数名存在する。
そればかりかブラウニーには疑惑がある。
黒髪の彼女を観察していれば分かる。この場所を何も知らないということが。
武装が小剣。この剣修院は両手持ちの剣を主として扱うのだ。
だから木剣を貸し与える。彼女はその木剣を手に取り困惑している様に見えた。
「少し練習する時間を下さい」
はぁ~、その彼女の返答にため息が出る。
何を今さら練習する必要がある?一つの武器を実践で使えるまで上達させるには長い時間と労力を費やす研鑽が必要なのだ!!
彼女はその場で素振りをしだした。
一度目、それを見て一目で分かる。彼女がその木剣に相当する武器を初めて扱うことが。子供が木の棒を振るようなぎごちなさ。
二度目、素人の大人が木剣を振るうような力強さが加わった。
三度目、剣士にとって最も求められていること、中心軸を正す。それが実現されていた。
四度目、そこには俺が長い年月を掛けて追及して導き出した剣振り方。それが再現されていた。
五度目、才能ある剣士が何十年と研鑽を重ね、絶頂期に人生に一度振れるか振れないかの一振りがそこにあった。
俺は驚愕する。
それと同時に思う。怪物、化け物、人ならざる存在だと。
最後の一振りそれを目で追えた者は何人いる?おそらく十人もいない筈だ。
こいつは危険。
「よろしくお願いします」
彼女は何食わぬ顔でブラウニー対して勝負を申し込む。
「ブラウニー下がっていい、私が相手をする」
それもその筈。ブラウニーが勝負して勝てる相手じゃない。
彼女に勝てる可能性があるのは剣聖しかいない。
その時会場がどよめいた。
俺は呆れる。こんなにも多くいるのか彼女の危険度を理解出来ない奴らが。
そうして始まる母上と彼女の勝負が。




