16.叶えたい夢
私の名前は葉賀望
日本で生まれ、父と母と私の三人家族。
私は高校に入学して間もなかった。
部活も勉強も頑張る。そして好きな人を見つけて恋人を作る。
それが私の夢。
その夢が叶わないものへと変わるのはそれから直ぐだった。
交通事故。私は通学中に居眠り運転の車にはねられた。
私は一命を取り留めた。でもそれは幸いなのか……
目を覚ました時、私は病院のベッドの上にいた。視界に映るのは天井。
不思議に思って体を動かそうとした。
動かなかった……
全身麻痺に言語障害。それが私の後遺症。
私はそれが受け入れられなくて必死に体を動かそうとした。
受け入れることが出来なくても、それが事実。
私はベッドの上で長い年月を過ごした。それは本来、青春という掛け替えのないものである筈の時間。
そしてこれからの未来もまた同様に、本来あった筈のものを上書きしてベッドの上で過ごして行く。
それは私の夢や希望、生きる意味を失わせていった。
そしてここからは悪夢の様な出来事、誰も想定することが出来なかった未来。
両親は私の回復のために数多くの治療法や専門知識を探ってくれていた。
その中にあったのだ。希望と絶望が……
私が回復する可能性が最も高いもの。その筈だった。
それは異物、害、醜き存在。ああ、なぜそんなものを植え付けたの!?
私は喜んだ。まったく回復の見込みのなかった症状が回復していった。
私はその存在に心から感謝した。
ありがとう、私の運命を変えてくれた。私はまた動ける様になった。
誰もが出来る当たり前のこと、それが私も出来るようになった。
もう一度取り戻せばいいじゃない“夢”を今の私はそれが出来るのだから。
始まりの訪れは小さなものだった。蚊に刺された様な……ニキビの様な……
気づいたとしても誰も何とも思わないもの。
そしてそれは私が交通事故に合った時の様に突然だった。
朝起き、鏡で私の顔を見た時……
それからは数えきれない程の異常が私の体に起きた。
私が私でなくなった時、誰もが私を人として見なくなった時。それこそが私の本当の絶望。
私の理性は狂気と冷静を繰り返した。それは信号機が赤から青へ、それがまた赤に戻る様に機械的に。
私は毎日の様に思っていた。
なんで私の運命はこんなにも残酷なの?教えてよ!答えてよ!神さまぁぁ!!
それは恋愛小説の1ページを捲り場面が切り替わる様に訪れた。
「生物に等しく訪れる死よりも更に“過酷な苦痛”を肉体に刻まれる者達よ」
美しく明瞭な声が響き渡った。
今私は前世とは異なる世界にいる。
そして体を見る。本来の私の体がそこにある。
その体が歪んで行く。
それは私の体に異常が起きたからじゃない。当たり前のこと誰もがすること。
涙が溢れている。嬉しいんだ。
取り戻すことが出来た。自分の体を。
私は神が言っていた様に目を閉じ深く瞑想する。すると瞼の奥から文字が浮かび上がって来る。
・第一週:1日目
・Transcendent ability:<完全身体感覚>
・称号:なし
<以降は初回のみ表示する>
1.あなたは1週間毎に偉業を成す義務がある。
2.この義務の期限はあなた以外の転移者全てがこの世界から消えるまでとする。
3.一週間に複数の偉業を達成したとしても、翌週の偉業を成す義務へ繰り越すことは出来ない。
4.偉業を成すことに成功した場合<称号>が与えられ、以降ここで確認することが出来る。
5.偉業の獲得方法として、他の転移者を殺せば無条件で<転移者殺し(Name)>が与えられる。
6.その他獲得方法として、有名になること、生物を殺すこと、発明すること、etcで与えられる。
上記の裁量として、百の運命に変化を与えたか、又はこの世界で未だ成されていない出来事を実現したかを基準とする。
私は難しいことはよく分からない。ただ私に出来ることをするだけでいい。
そしてTranscendent ability:<完全身体感覚>この意味を考える。
私は既に感じ取っていた。私の肉体、その感覚が普通で無いと。
敏感というよりは精密。動かすというよりは作動。
一見機械のように思える。そう機械的なんだ。
私はこの体を完全に掌握し機械の如く完璧に動かすことが出来る。そう実感していた。
私は身に着けている物を確認する。そして左腰にある小剣を引き抜く。
私にとって初めて扱う物。だからこれで試してみよう。
右手で小剣を振り下ろす。
それを五回ほど繰り返した時、私はその動作を止めた。
もうこんなことする必要ない。私はこの小剣をもう完璧に扱えるのだから。
おそらくこの能力の本質。
それは肉体の感覚、筋肉よりも更に細い筋繊維の一つ一つでさえも掌握出来るということ。
たとえプロゴルファーでさえ、どんなに練習をしたとしても同じスイングを微塵の変化も無くも繰り返すことは不可能だろう。
だが私はそれが出来る、その自信がある。それがこの能力。
なら話は簡単だ。強い人と出会おう。
そうして私は何気なく道を走った。走るのが楽しくなった。
それはいつしか突風の様に。




