友好と敵意
車イスで入場し、セコンドの鈴本と高梨の助けを借りて、転がり込む様にリングインした工藤。
リングに座した状態で相手の入場を待った。
年齢の割にキャリアの短い工藤は、やはり青コーナーであり相手より格下扱いである。
工藤が見据えるその先から、同じく車イスで入場して来た対戦相手。
名は浦上修斗
23歳と若いのに、キャリアはなんと13年にもなる。
つまり10才から格闘技をやっている計算だ。
総合格闘技「修斗」をやっていた親の影響で、幼い頃から同じジムに通い始めた。
その名も親が愛する競技の名で、そのまま修斗と名付けたらしい。
しかし幼き頃よりの過度の運動は、彼の身体にダメージを蓄積させていた。
腰骨分離により「すべり症」を発症し、馬尾神経を損傷する事になってしまった。
今は車イスラグビーの選手として活動しているが、心のどこかで格闘技への想いを引き摺っていた。
それも未練と表現して差し支え無いレベルで、、、
そんな時、ネットでラグナロク開催の事を知った。しかも車イス使用者でも参加が可能だと言うではないか。
浦上は1も2も無く応募を決めた。
そしてもう1つ決めた事がある。
障害者の為の格闘技イベント、、、そんな素敵な場所を作った団体に興味を持った浦上は、グングニルについて色々と調べた。
そして今大会のような打ち上げ花火だけで無く、日常的に障害者が練習出来る環境が整っている事を知る。
そして決めたのである。
この試合、勝っても敗けてもグングニルに入団する、、、と。
工藤と同じく2人のセコンドに助けられながら、リングに転がり込んだ浦上。
先に入場していた工藤と目が合うと、ニコリと微笑んで見せた。勿論そこに他意は無かった。
ただ単に今後は仲間となるであろう男を見て、自然と浮き出た笑みだった。
しかし、そんな事とは知らぬ工藤は、勘違いをしてしまう、、、
(なんやコイツ、、、俺見て笑いやがった、、、ひょっとして俺、舐められてる?)
元々、自信も自意識も過剰。
その上プライド迄が高く、思春期をこじらせた様なこの男、、、こんな受け取り方をしたのも致し方無い。
浦上の放った友好の笑顔は、無残にも敵意と嘲笑へと変換されてしまった。
工藤が尖った視線の先を、容赦なくブスリ・ブスリと浦上へ突き刺す。それこそ敵意を素裸のままに晒して。
親愛を込めて笑みを投げ掛けたはずが、返って来たのは剥き出しの敵意、、、
浦上には意味が解らなかった。
確かに意味は解らない、、、しかしやる事は決まっている。
目の前のこの男を倒すのみっ!、、、である。
良い奴だろうが、悪い奴だろうが関係無い。
あの場所では強い奴か、弱い奴か、それだけがリアルなのだ。
レフリーが両者にスタンバイを指示した。
この試合からレフリーが代わり、大作父の下で働いている柔道整体師、三島岳人 が務める。
三島の指示に従い、工藤と浦上が背中合わせに座った。
三島がかぶった手を振り下ろし宙を切る。
ゴングが透明な響きを奏で、闘いは始まった。
友好と敵意、それぞれの想いを背負って、、、