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格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
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野次

時間の体感とは不思議な物だ。


例えばAとB、2人の人物がバスに乗り遅れたとしよう。時刻表を見ると次のバスは3分後。

Aは早朝に会議がある為に

「次のバスまで3分もあるのか」

と苛立ちと焦りを感じた。

しかしBは気紛れでいつもより早く家を出ていた為に

「次のバスまで、たったの3分か」

と余裕すら感じていた。


時間は全ての人に平等などとよく言われるが、その時の心理や置かれた状況によってこんなにも差が出る物である。

そしてこの時、鳥居と蛮は2人共に与えられた3分をこう感じていた。

「3分しかねぇっ!」

と。


限られた時間に加え、先にポイントを取らねばならないというサドンデスルールである。

焦燥感、、、2人にはそれしか無かった。


(当たれっ!!)

強く念じながら鳥居が打撃を繰り出す。

が、大振りのパンチやいきなりのハイキック、、、ポイントを焦るがあまり雑な攻撃が目立つ。だがそれは蛮も似た様なものだった。


(喰ろたらんかいっ!!)

蛮も念じながら打撃を繰り出していたのだ。

ブンと音が鳴りそうな程の大振り、、、

確かに当たれば倒れそうではあるが、それを望むにはあまりにスローモーだった。


互いに大振りの打撃を単発で交換する。

そんな泥試合的な展開に、観客にも苛立ちが募り始める。

「しょっぱいぞ~っ!」


「やめてまえっ!!」

と、野次が飛び、、、



「鳥居~っ!何とかしてポイント取りぃ~!」


「蛮~っ!次はお前が打撃を出す番っ!」

と、ダジャレが飛び、、、



「おもんないんじゃっ!!」


「お前もなっ!!」

と、野次で客同士が弄り合う始末、、、


そんな関西ならではの光景だが、声援では無く野次しか飛ばぬこの状況では、闘う当人達も面白いはずなどある訳も無く、リング上も客席もフラストレーションとストレスだけが充満していた。


これといった動きも無く悪戯に時間だけが過ぎ、嫌な空気のままで既に1分が経とうとしている。

しかしこういった空気に敏感なのがプロレスラーという生き物であり、そしてその生き物は空気を変える天才でもあった。

(イカンのぅ、、、ほな、いっちょやりますか)


ふいに蛮の足が縺れ、後方へと下がる。

そして背後にはコーナーポスト、、、

しかし勿論、これは蛮の自演である。

そしてまんまとそれに引っかかった鳥居。

(よっしゃ!コーナーに詰めればイケるっ!!)

と、小刻みにジャブを出しながら対角線を追ってゆく。

すると突然笑みを浮かべた蛮。

踵を反して鳥居へと背を向けると、自らコーナーポストの方を向いてしまったでは無いか!


(!?)

その真意が読めない鳥居だが、あまりに突然の事で心身の対処が出来ず、止まる事無く距離を詰めてゆく。

すると背を向けたばかりの蛮が、一気にコーナーポストを駆け上がり、その巨体でバク宙をして見せた。

これによりリングに着地した時には、追って来た鳥居の背後を取る事に成功していた蛮。

あのゴツいがたいで、まさかのルチャ・リブレばりの動き、、、その予想外の展開で客席が久々に湧く。


その瞬間、鳥居は本能的に危険を感じ取っていた。全身がざわつき、全ての産毛が逆立つ。

そんな鳥居の腰に、背後から蛮の左腕が絡みついた!

またもブッコ抜いて投げる腹づもりだろうが、そんな事は百も承知の鳥居。

自らの足を蛮の足に絡ませてそれを阻止する!


それでも強引に持って行こうとする蛮が腰を落とすっ!!

太き腿が更に太さを増し、鳥居に絡めた左腕などは、まるで別の生き物かの様に隆起して締め付けている。

そしてついに、僅かながら鳥居の身体が浮いた。


(ヤバッ!!)

リングから離れてしまった足をバタつかせ、鳥居は頭を下げて重心を前方下方へと向ける。

そして右手で蛮の足を取ろうという動きを見せていた。

もしも取れたならば、そのまま前転し膝十字固めを狙えるからである。


「ぬうぅぅ~っ!!」

それでも持ち上げようと蛮が声を絞る。


「んがぁぁ~っ!!」

締め付けの苦痛に堪えながら、鳥居が逆転の技を狙う。

そんな攻防から、鳥居の身体が浮いては沈みを繰り返している。残り時間は約1分、、、

浮き切ってしまえば投げられて鳥居がピンチ。

沈み切ってしまえば関節を取られ蛮がピンチ。

そんな解りやすい鬩ぎ合いに、客席も熱を取り戻し始めた。

綱引きや腕相撲を見ている時の様に、皆が自らも力を込めてその成り行きを見守っていた。


残り30秒、、、

鳥居の手が届きそうになる!

蛮の足まであと2㎝!!

「うぉ~っ!」


「行けぇ~っ!」

鳥居の応援組から声が上がる!

しかし頬と鼻孔を脹らませた蛮が、渾身でそれを引き離すと、その声援は落胆の声へと変わった。


そして今度は蛮の応援組から声が飛ぶ!

「よっしゃ!いったれっ!!」


「ブッコ抜けっ!!」


残り15秒、、、

駄々っ子の様に足を暴れさせ鳥居が再び凌ぐと、蛮のファンは落胆の声では無く、怒りの野次を叩き付けた。


「んやねんっ!!」


「なんしとんじゃいっ!!」


そしてタイムアップ、、、

蛮が背後から鳥居を抱えた体勢のままで、ついに試合は終わりを迎えた、、、



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