足なんて、、、
控室に戻った山下を迎えたのは、皆の歓迎ムードだった。
その空気の中で照れてはにかむ山下が居る。
もちろん先鋒の役割を果たせた事は何より嬉しい。
何が何でも勝ちたかった、、、その想いはブレてはいない。
しかし、やはり何かが引っ掛かっている。
とはいえ、それを表に出してしまうと、折角の祝勝ムードに水を差す。それでは先鋒の役割を果たした意味まで無くなってしまう。
複雑な想いをぐっと呑み込み、胸を張って過ごす事に専念した。
ラグナロクでの総合格闘技の試合は、グングニル勢の試合と、グングニル勢が絡まない試合が交互に組まれている。
今リング上では朝倉が長を務める烏合衆の選手と、一般公募の選手が闘っている。
それが終われば次は、膝立ちすら難しいレベルの障害を抱えた選手達の試合が数試合組まれており、グングニルでは松井と工藤がそこに出場する。
これらの試合は、互いがリングに背中合わせで座した状態からスタートし、打撃の使用は一切認められない。
純粋に組技のみで競い合う為、プログラム上「グラップル・オンリー」と銘打たれていた。
他の試合と違い打撃が無い為に、持ちポイントも3ポイントでのスタートとなる。
3度のエスケープ、ギブアップ、30秒の抑え込みでの決着という特殊なルールとなっている。
グラップル・オンリーの先陣を切るのは工藤である。
出番が近いというのに、工藤は良くも悪くも普段通りだった。
「さぁて、いよいよ俺様の出番やね♪チャッチャと勝って戻るから、楽しみしといてや松ちゃん♪」
相変わらずの自信家。
他のスポーツでも結果を残している故の自信だろう。しかし危うい、、、
ここはリーダーらしく、鳥居がそれを嗜めた。
「リラックスしてるんはええ事やけど、甘くは見るなよ。お前はグングニルの人間以外と手合わせするん初めてやろ?嘗めてかかったら足元掬われるで」
フフンと鼻を鳴らして工藤が答える。
「掬われるも何も、俺達ゃあ立てねぇから足を掬われる心配はねぇよ。なぁ、松ちゃん!?」
突然話を振られて、松井が苦笑いを浮かべた。
「、、、誰が上手い事言えと、、、」
鳥居は呆れ顔を作りそう言ったものの、その実、不覚にも吹き出しそうになっていた。
「さて、軽くアップしとこかな、、、山ちゃん、鳥やん、悪いけど車イスから降ろしてくれへん?」
2人の助けを得て、控室のマットに座った工藤が柔軟を始めた。
自然と皆が視線をそちらに向ける。
すると静かに工藤が口を開いた。
誰にという訳では無いが、独り言の様に皆へ向けて。
「俺さぁ、ガンダムが好きでさぁ、、、」
皆、口には出さないが「はぁ?」という困惑は顔に出ていた。
「最終決戦の地、アバオ・ア・クーって所があってな、そこでシャアに新しいモビルスーツが与えられるんよ。それがジオングってモビルスーツやねんけどな、これが高性能機のはずやのに足が無いねん。
で、当然シャアも言う訳、、、足が無いなって。そこで言われたメカニック担当の兵士が返した言葉がふるってて大好きやねん。
山ちゃんや鳥やんなら知っとるんちゃう?」
問われた2人が笑顔で互いを見合う。
そして工藤へと視線を戻した2人が口を揃えてこう答えた。
「足なんて飾りです。偉い人にはそれが解らんのです、、、やろ?」
それを聞いて嬉しそうに2人へと指を向けた工藤。
「ザッツライト!だからさ俺と松ちゃんはグングニルのジオングという事で、、、皆も心配せんと見といてぇな」
同類で括られた松井からすれば、とんだ捲き込み事故である。困惑の表情しか浮かばない、、、そこへ山下がとどめの一言を突き刺した。
「でもさ、、、ジオングって最後はズタボロになったよな?」
その言葉に工藤は押し黙り、鳥居が大きく頷いている。
そして、皆が笑いを堪える微妙な空気の中、最悪のタイミングで係の人間が控室を訪れた。
「工藤選手、そろそろスタンバって下さい」
(えぇ、、このタイミングで?、、、萎えるわぁ)