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格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
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由来

絶好のチャンスをモノに出来なかった鳥居。

ギブアップは取れずとも、せめてエスケープポイントだけでも奪っておきたかった場面である。

逆に凌ぎ切った蛮は、このまま勢いに乗りかねない。

お互いに持ちポイントは4。

ポイントだけ見ればイーブンな様だが、「互角」というのは少しの事で崩れてしまう、危ういバランスの上に成り立つ頼り無い物である。


極端な話をすれば、1人声援を飛ばす人数が、視線を送る人数が変わっただけでも、そのシーソーは均衡を崩しかねないのだ。

ましてや流れを手にした時のプロレスラーというのは、非常に厄介な存在である。

その流れと共に観客を煽り味方につける、、、

人心掌握という点において、他の格闘家の追随を許さない。


己を強く見せ、共感・興奮・怒り・感動、、、観客にあらゆる感情を植え付ける。

脚本家であり演出家、そしてそれを演じる役者でもある、、、それがプロレスラー。

蛮の言い放った「唯一無二のジャンル」それはまさに的を射ていると言えよう。

そして蛮も例に洩れず、この後の展開を既に頭に描いていた。と言っても1つの決め事を自分に課しているだけなのだが、、、


その決め事、それはフィニッシュはラリアットで!という物である。

と言うのも、蛮はラリアットに特別な思い入れがあった。

かつて大学でプロレス同好会に入る前、高校時代の蛮は一時期レスリング部に所属していた。

勿論プロレスでは無く、オリンピック種目でもある あのレスリングである。

そして未だレギュラーなど程遠い1年生だった蛮に、突然白羽の矢が立つ事となった。


ある高校と5対5での練習試合が組まれたのだが、蛮の高校側に1人の欠員が出た。

蛮の所属するレスリング部は元々人数が少なく、計8人しか部員が居ない。

そんなキチキチの状況の中、怪我による欠員が出てしまった、、、そんな事情から、残る3人の中で一番身体の出来ていた蛮が、1年生ながらに選ばれたという訳である。


そして次鋒で出場した彼は、その名の如く蛮勇を奮ってしまう。

、、、まぁ、ビッグ・蛮というのは、プロレスラーになってからのリングネームなのだが、その経緯は後述するとして、、、

とにもかくにも初めてレスリングのマット上に立った蛮。

しかし、、、恐ろしい事にこの時の蛮は、アマチュアレスリングのルールを全くと言って良い程に把握していなかったのである。


プロのレスリング=プロレス、、、

先ずこの段階で間違った解釈なのだが、蛮は更なる勘違いをしていた。

「せやからアマレスもルールは似たようなもんやろ、、、」

と。

そしてあろう事か、試合が始まると同時に突進し、相手へとラリアットを喰らわせたのである。

不意をつかれた相手はモロにそれを受け、白目を剥いて大の字となっている。

そりゃそうだわな、、、まさかアマレスの試合でラリアットなんて警戒しないもの、、、


そしてそんな状態の相手を前にして蛮は、この時はまだ動いていた右手でロングホーンを作り、スタン・ハンセンよろしく雄叫びを上げた。「ウィ~~ッ!!」

(厳密にはハンセンの上げる雄叫びは、若さを意味するユースなのだが、ここでは一般的に浸透しているウィ~で表記してます)


そう、、、

鳥居との試合開始直後に見せた光景を、過去にアマレスの試合でも見せていたのである。

当然ながら蛮は即刻反則敗け、、、それどころか、所属チームそのものがこの1試合の為に反則敗けとなり、以降当面の試合への参加も断られる事となる。

その結果、この年をもってレスリング部は廃部、、、


つまり、蛮の蛮勇が廃部へと追いやったと言っても過言では無いのだ。

その後、あまりにも周囲の大人達が

「お前の蛮勇のせいで、、、」

だとか

「誰が蛮勇を奮えと、、、」

などと言うので、それまで知りもしなかった蛮勇という言葉が、彼の頭にインプットされる事となる。

そしてその響きが気に入った蛮は、大学でプロレス同好会に入ると「ビッグバン・(ゆう)

というリングネームを名乗るのだが、先輩の薦めで「ビッグ・蛮」と改名し今に到る。


そんな彼が今、鳥居を前にしてあるパフォーマンスを始めた。

陸上選手がよく行う、頭上で手を叩いて見せるアレである。

とはいっても蛮の右腕は動かない為、左手が頭上を大きくスルーして、胸元の右手を叩くという形になっている。

それでも客を煽るには十分な動きであり、客席に手拍子が拡がり始めた。

そう、、、プロレスラーお得意の、客の煽動が始まったのだ。

これにより蛮は客を味方に、場の空気をモノにしたと言える。


今や会場全体に鳴り響く手拍子、、、

その光景に鳥居は思わず構えを解き、不愉快そうに会場を見渡した。

右手を腰に当て

「なんやねんっ!」

と言わんばかりに顔をしかめている。

しかし恐ろしいのは、鳥居が取ったこの行動すらも蛮の術中であった事、、、


鳥居は会場を見渡す際、無防備にも蛮へと背中を晒してしまったのだ。

その背後へと暗殺者の様に忍び寄った蛮。

太き左腕を鳥居の腰へと巻き付けると、睦言の様に耳元で囁く。


「そういう所が甘いんよ、、、兄さん」


そしてそのまま左腕1本で、鳥居の身体をマットからぶっこ抜いて見せた。

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