嫉妬
左手で作ったロングホーンを高々と突き上げ、雄々しく雄叫びを上げる蛮。
それを新木が手で押し、ニュートラルコーナーへと追いやる。
蛮がコーナーに収まってようやくダウンカウントが始まった。
一方、ラリアットにより一回転のオマケ付きでマットに叩きつけられた鳥居だが、致命的ダメージとまでは行かず、今はマットに胡座をかいて回復を計っている。
どうやらカウントアウトぎりぎりまで休む腹づもりのようだ。
そんな両者の視線がぶつかった。
かたやコーナーに凭れ、見下ろしながら口角を上げ、、、
(どや?効いたやろ?)
無言でそう問う。
かたやマットに座し、見上げながら口角を上げ、、、
(まだまだこれからやで)
無言でそう答える。
そうしてきっちりカウントが9を数えられた時、鳥居がすっくと立ち上がった。
新木に手招きされ、蛮がリング中央へと歩み出る。
再び対峙した両者に目配せし、新木の手刀が空間を斬った。
「ファイッ!!」
試合再開。
すると先とはうって変わり、蛮がアップライトに構えを取った。
その意外な姿に客席がどよめく。
(へへへ、、、さっきはプロレスに付き合ってもろたからな、今度は俺が格闘技に付き合う番や。ほら、アンタのターンやで!)
そんな蛮の心中を察したのか、鳥居も同じくアップライトに構えを取る。
勿論、両者共に不自由な片腕は動かぬままだが、それでも2人共なかなか堂に入った構えとなっていた。
お前から来い、、、そう言うかの様に蛮が左掌をクイクイと曲げる。
だが、これがミスとなる、、、
蛮のその動作が終わらぬ内に鳥居が動いたのだ。
左サイド、つまり蛮の右方向へとサイドステップで間合いを詰め、いきなりの左ハイキックを放ったのである。
手招く動作中だった蛮は、反応が遅れた上にガードもままならない右方向からの攻撃。
「のわっ!!」
思わず声を上げ上体を屈める蛮。
ブンッと唸りを上げながら、その上を掠める様に鳥居の左足が走り抜ける。
「こ、このっ!!」
反撃に打って出るつもりで上体を起こした蛮だったが、、、その直後、視界が歪んで溶けた。
(??)
鳥居は左ハイが空振ったのち身体を回転させると、そのまま右後ろ回し蹴りで追撃したのだ。
ガクンと腰の落ちた蛮の頭部を、更に鳥居が右腕で抱え込む。
本来ならば両腕で包み込み、首相撲に捕らえるのだろうが、左腕の動かぬ鳥居には、文字通りこれが手いっぱい、、、
しかしそれでも蛮の動きを封じる事には成功している。
そして抱えた頭部へ、がら空きの右ボディへと執拗に膝を突き立てて行った。
「オ~イッ!!」「オ~イッ!!」
鳥居が膝を出す動きに合わせ、客席から合いの手の様な掛け声が飛ぶ。
そんな喧騒の中、蛮がギリリと歯を噛んでいた。
しかし、、、それは連撃に耐えての事では無く、、、
(何がオ~イオ~イッ!や、、、見事に客を惹き付けやがって、、、妬けるでぇ)
この期に及んで蛮は、客を味方につけた鳥居にジェラシーを燃やしていたのである。
そして突然、受けるのが面倒になったかの様に左手で鳥居を突き飛ばした。
あまりの勢いに鳥居が尻もちをつくが、これはスリップと見なされダウンは取られない。
リングに尻を預け、唖然と蛮を見上げた鳥居。
そんな鳥居を見下ろし、深い息を吐き出すと蛮は
「チッチッチッ」
と舌を鳴らしながら人差し指を振って見せる。
そして
「ちぃ~っと打撃が軽いんちゃうか?兄さん」
嗤いながらそう言い放った。




