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格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
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逆上がり

無防備、、、そうとしか言えない。

これは総合格闘技。断じてプロレスでは無い。

なのに今、蛮がリング上で見せている姿は、常識的に考えられない物だった。


深く腰を落とし、左手を頭より高い位置で前へと突き出している。

麻痺の為に動かぬ右腕は胸元に畳まれたままだが、本来ならばそれも前へと出しているはず、、、そう、これはプロレスの試合開始時によく見られる「力比べ」の構え。

それを格闘技の試合で、格闘家相手に見せているのだ。

それは無防備、、、そうとしか言えなかった。


そもそも総合格闘家である相手が、プロレスの土俵に付き合うはずなど無いのである、、、本当ならば。

ところが鳥居は違っていた。

なんと蛮の構えを見て、愉しそうに笑みを浮かべているではないか。

そして己の右腕を掲げその掌を、翳された蛮の左手へ向けて近づけてゆく。

蛮のプロレスに応えたのである。


鳥居も左腕は麻痺の為に動かない。

折り畳まれた形で固まっている蛮に対し、鳥居のそれはぶら下がった棒の様に、ダラリと垂れたままとなっている。

同じ片腕の麻痺という障害を抱えながらも、その質はまるで別物の両者。

しかし右腕の麻痺と左腕の麻痺という差が、2人の闘いを噛み合う物としている。


もしも同じ腕が麻痺する者同士だったならば、

こうやって向き合った状態で手を組み合う事も出来ない。

打撃の応酬となった場合もそうである。

仮にどちらもが左腕の麻痺を抱えていたとしよう。

相手が出した右の打撃を、通常ならば左腕でカバーするところを右腕で捌かなくてはならなくなる。そうなると被弾率は高くなり、格闘技の試合として面白く無い。


よく「面白いくらいにパンチが当たる」と表現する者が居るが、あれはあくまで比喩である。ヒリついた状況の中でせめぎ合った末に技が決まるからこそ面白いのであって、当たり過ぎる試合は逆に面白く無い物だ。

そういった意味からも、互いに逆腕の麻痺というのは、格闘技的に相性が良いと言えた。


話をリング上に戻そう。

互いに差し出し合った手の指が、相手を捕食しようと触手の様にウネウネと動く。

しかしそれらは焦れったい程に組み合わない。

両者共、少しでも有利な形で組みたいが為、組みそうになっては離れ、離れてはまた近づくといった動きを繰り返している。

それはまるでN極とS極のようである。


その様子に客席は2つに割れた。

1つはアンチプロレスの多い、生粋の格闘技ファンからの

「プロレス観に来とるんちゃうどっ!」

という物。

もう1つはプロレスすらも格闘技として楽しむファンからの

「ええぞっ!もっとやれっ!!」

という物である。


そこかしこから飛び交う野次と歓声。

その中でついに蛮の手が鳥居の手を捕らえた。

まるで恋人同士の様に絡み合う指と指、、、

それはある種、官能的ですらある。

そして蛮は掴んだ手を、ジリジリと下方へと回し込もうとする。

鳥居もさせじと必死に堪えるが、いかんせんパワーの差は歴然としており、鳥居の手は呆気ない程に容易く持って行かれた。


腰の位置辺りで手首を裏返され、鳥居が顔をしかめる。

そして、力をそらし苦痛から逃れようと爪先立ちとなってしまった。

もはや「死に体」の鳥居に蛮のプロレス式キックが炸裂する。

と、言っても格闘技の蹴りとは違い、足の裏を腹部へと叩きつけただけのそれは、見た目ほどのダメージは無い。

しかし、、、これは次の攻撃へ繋げる為の伏線に過ぎなかった。


キックを放った蛮は、鳥居の手を握ったままである。

その為、鳥居の身体は一旦後方へと弾けたが、楔の様に繋がれた手で引き戻される事となる。

そしてこのタイミングで手を離した蛮、その丸太の様な左腕をブンッと振り、戻って来た鳥居の胸元へと渾身の力で叩きつけた!!


蛮は手を掴んだままキックを放つ事で、ロープに振らずして振ったのと同じ状況を作り、そこへカウンターのラリアットを繰り出したのだった。

超至近距離だった事に加え、右腕の自由は寸前まで奪われていた、、、、

左腕の動かぬ鳥居には防ぐ術など無い。

まともにそれを喰らってしまった鳥居は、まるで蛮の腕を鉄棒に見立て、逆上がりをしたかの様に宙で身体を一回転させる。


回転したお陰で後頭部からマットに落ちる事は免れたが、それでもダメージは大きいらしく、四つ這いとなったまま茫然と動かない。

暫し声を掛けながら様子を見ていたレフリーの新木だが、そのダメージの程を見極めると、ついにダウンを宣告した。

「ダウ~ンッ!!」


すると蛮、、、

左手の人差し指と小指を立て、天へと突き上げると、悦に入った顔でスタン・ハンセンよろしく雄叫びを上げたっ!

「ウィ~~~ッ!!!」

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