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格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
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念と意地

1秒が長く感じられる、、、永遠とも思える一瞬。日常とは違う速度で流れる時間の中、山下の拳がコマ送りで東郷に迫る。

歯を喰い縛り、目を見開いて衝撃に備えた東郷。その開かれた目が山下の左拳を凝視する。


ところが当たると思われた瞬間、その拳は視界から消えた。

「!?」

浮いた疑問符は意識と共にかき消される。

山下はストレートに見せかけ、前に突き出した左拳をそのまま下方へと振り下ろし、その反動を利用して左の蹴りにスイッチしたのだ。


ガードが間に合わない事を悟り、己を襲う衝撃に覚悟を持っていた東郷、、、当然その攻撃を遮る物など何も無く、山下の左脚は容易く東郷の首筋へと絡みついた。

たまらないのは東郷である。

人間というのは、どの部位にどれ位の衝撃が来ると予想していれば、案外耐える事が出来る物である。

ところが、その予想を遥かに上回る衝撃や、予想とは違う部位を襲われた時は、呆気ないほどに脆い、、、今回はまさにそのパターンである。

頭部を鈍器で殴られる覚悟をしていたのに、実際は首筋を鞭で打たれたのだ、、、

東郷に残された道はもはや崩れ落ちるのみだった。


ダウンカウントが進む中、ニュートラルコーナーに凭れた山下が想う。

(そのまま寝てろ、、、)

と。

この試合、山下は何が何でも勝ちたかった。

自分はラグナロクに於けるグングニル勢の先鋒である。

勿論、今大会は団体戦では無いのだが、役割的な意味合いではそうなる。

そして先鋒の最も重要な仕事は、、、勝つ事。

勝って、後に続く者達へと良い流れを作る事である。


ましてオープニングファイトでは師である崇の敗れる姿を皆が見ているのだ、沈んだ皆の気を高める為にも自分までが敗れる訳にはいかなかった。

(勝ちたいっ!!)

それは邪心かもしれない、、、しかしそれは、もはや想いを超えて「念」に近い物と呼べた。


カウントが5まで進み、リングでは東郷が殺虫剤をかけられた虫の様にモゾモゾと動いている。

山下が再び念を送る。

(寝てろっ!)

カウント7、東郷が膝立ちとなった。

(チッ、、、)

山下が舌を鳴らす。

カウント8、子羊の様に頼りない足取りで東郷が立ち上がった。

必死の形相でファイティングポーズを取っている。


「やれるかっ!?」

レフリー朝倉の問い掛けに歯を噛み頷く東郷。

己の念が通じなかった事を知り、山下も気持ちを入れ替えた。

まだまだダメージは抜け切っていないはず。

再開されると同時に攻め込む算段で山下が構えた。

東郷が山下を睨む!

山下も東郷を睨む!

朝倉が再開の声を張ろうと腕を振り上げた!

その時である、、、


山下を睨めつけていた東郷の眼球が、上方を向きそのまま裏返った。

マウスピースを吐き、糸が切れた様に力無く崩れ落ちる、、、

それを見た朝倉が振り上げていた腕を左右に振った。

同時にゴングが打ち鳴らされる。


東郷は未だ動かない、、、意地だろう、、、

ただ意地だけで立ち上がったのだろう、、、

立ち上がる、ただそれだけの為に残された自分の全てを使い切ったのだ。

根こそぎ使い果たし、空っぽになった男には、もはや闘う事など出来はしない、、、

5分14秒、山下のTKO勝ちである。


勝ったとは言え、武人の意地を見せ付けられた山下、何やら複雑な面持ちで勝ち名乗りを受けている。

担架で運び出される東郷へ深々と頭を垂れた山下。

再び上げられたその顔には、先鋒の重責を果たした安堵と、気の差を見せ付けられた事への敗北感、そして僅かばかりの誇らしさが入り雑じっていた。

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