話は変わった
崇は鳥居の様子を見る為、控え室へと向かっていた。
いよいよ次の試合が鳥居の出番であり、ラグナロク全体を締め括るメインイベントとなる。
空手や柔道など、他の競技は既に全ての行程を終えており、鳥居が本当の意味で最後を託された形となった。
最終試合、、、つまりは観客に加え、全参加者の目がプラスされるという事、、、
人目が多ければ多い程に、力を発揮する者と緊張で身を固くする者の2種類が居るが、鳥居は間違い無く後者である。
逆にプロレスラーだった蛮は前者であろう。
崇はその点が特に心配で様子を見に来たのだ。
見ると丁度アップを終えた所らしく、セコンドを務める鈴本と笑顔で談笑していた。
思いの外リラックスしている様である。
それを見て崇は胸を撫で下ろした。
「よっ!調子はどない?」
「あっ!福さんっ!!」
仄かに汗ばみ、赤みがかった顔で大股歩きに近付くと鳥居は、詰め入る様にして崇に言う。
「このカードって、組んだの福さんっ!?」
崇は答えに迷った、、、
いや、実際、質問の答えはYESである。
名実共に皆のリーダーへと成長した鳥居。
しかし慢心せず、格闘家としてまだまだ伸びて貰いたい、、、そんな想いから、少し意地悪な相手を選んだ。
無差別級でやっていく以上、避けられない体格差のある相手、、、
しかも対峙した事の無い、プロレスラーという未知でトリッキーな相手、、、
それを相手にどんな闘いをみせるのかという興味と、今後を占う試金石のつもりで組んだカードである。しかし、、、
今、問い掛けて来ている鳥居の様子を見る限り、このカードについて良い印象を持ってはいないようである。だからこそ崇は一瞬答える事を躊躇ったのだ。
だがつまらぬ嘘をついても仕方が無い、、、
崇は覚悟を決め正直に答えた。
「ああ、、、俺が組んだ」
それを聞くとas soon asで予想外の態度に出た鳥居。
「いやぁ~、やっぱそうかぁ~!ありがとなっ福さんっ♪」
満面の笑みで握手を求めて来る。
差し出されたその右手を、反射的に握り返した崇。しかし、予想に反したそのフレンドリーな反応に戸惑いを隠せない。
「おぅ、、、え? うん、、、あれ?」
そんな崇など気にも留めず、上機嫌で話し始める鳥居。
「いやさぁ~、この試合決まった時から楽しみで楽しみで!、、、ましてやメインイベントやん?弥が上にも血がたぎるってもんよっ!!」
、、、人目が多ければ多い程に力を発揮する者と、緊張で身を固くする者の2種類が居るが、鳥居は間違い無く後者で、、、
(あれ?、、かなり話は変わってきたぞ、、、)
戸惑いを上塗りする覚悟で訊いてみる。
「楽しみやった?この試合が?」
「せやでっ!実は俺さぁ、昔からプロレスファンやってさ!本物のプロレスラーと闘れる機会なんてなかなか無いやん?
だからこのカード組んでくれた人にはお礼言っときたかってん。
いやぁ~、やっぱ福さんやったか、、、そっかそっか♪」
背を向け立ち去る鳥居を、呆気に取られて見送る崇。しかし我に返ると、一言だけその背にぶつけた。
「鳥やん!、、、気をつけろよ、、、」
振り向いた鳥居が不敵に嗤う。
「言うたやろ、俺はプロレスファンやって、、、プロレスラーの怖さは解っとるつもりやで」
鳥居はそう言うと、数瞬の間を置きこう付け足した。
「それと、、、弱点も、、、な」




