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格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
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またいつか

山岡の用いたその技、、、

それは高度な技で知られる。

「はさみ受け」

そう呼ばれる物だった。


山岡は己の太ももに乗せる形で藤井の蹴りを受けると、すかさずそこへと肘を落としたのだ。

つまり足と肘に挟まれる格好となった藤井の左足、、、そしてそれは軋む様な悲鳴をあげた。


解放されたその足をリングについた途端、脳天まで突き抜ける様な激痛が藤井を襲う。

藤井は、まるでリングから電流が昇って来たかの様な錯覚を覚えた。

左足に力が入らず、糸の切れた傀儡(かいらい)の如くリングへとへたり込んだ藤井。

ここで新木がダウンを宣告し、今はカウント3まで進んでいる。


「慌てんと少し休んでから立てっ!」


「大丈夫!大丈夫やから一彦っ!!」


セコンドの高梨と吉川が声を飛ばす。

しかし事態はそんな生易しい物では無かった。

ダウンカウントを聞きながら、藤井が患部のダメージを探る、、、指先でそっと脛に触れてみた。

身体の芯を駆け抜けてゆく痛み、、、

更に深刻なのは、触れた部分が圧すとペコリと凹むのだ。


(あ、ヤバい、、、ヤバい、ヤバい、、、、)


藤井の脳裏を掠めるのは、その言葉だけだった。

しかしそれは折れている事を確信したからでは無い。

このダメージでは、絶対立つのに時間がかかる。悠長に休んでは居られない。

早く立たねば間に合わなくなる、、、

そんな焦りから発した物であった。


直ぐ様ロープに手を掛ける、、、しかし1度は崩れ落ちてしまった。

しかしカウントが7を刻んだ時、終わってしまう恐怖心が藤井の左足に力を与えた。

生まれたての草食動物の様にプルプルと震えながらも、ようやく立ち上がった藤井。

カウント9ギリギリでファイティングポーズを取る。


「やれるか?」


レフリー新木の問いに無言で頷く。

しかし尋常では無いその汗に、新木も異変を感じていた。

(こいつまさか?止めるべきか?、、、いや、1分だけ、、、1分だけ様子を見よう。それでアカンようやったら、、、)


決断した新木が手で空を斬る。

「ファイッ!!」


再開され、山岡がニュートラルコーナーから歩み出る。

対する藤井は止められてなるかと、歯を噛みながら平静を装おっていた。

しかし今の状態ではローキック1発、それもガードしただけで倒れてしまう。

後手に回る訳にはいかなかった。

かと言って左足での蹴りはもう出す事は出来ない。

それこそ当たるにせよ、ガードされるにせよ、こちらのダメージの方が遥かに大きい。


しかし右足での蹴りも出せそうには無い。

この左足が軸足となる負荷に耐えられる訳など無いからである。

つまり藤井に残されたのは手技、もしくは強引に寝技へと引き込む事となるが、先手としてタックルを仕掛ける余力など、左足にはもう残されてはいない、、、

結局は手技という選択肢しか残っていない事になる。


そんな考えを巡らせている間に、山岡が構えてしまった。

一気に攻め込まれる前に自分から行かねば、、、

藤井は十分な踏み込みも出来ぬまま、手打ちのジャブを2発繰り出す。

しかし、そんな児戯にも等しき技など、たとえ当たったとしても、、、


(コイツ、嘗めとんのか?)

山岡の顔色が変わった。

そして飛んで来たその左拳を、円を描く「回し受け」で軽く外へと流した。

しかしである、そんななんでも無い衝撃にすら、今の藤井は耐えられない。

外へ弾かれた衝撃に身体が流され、思わず左足で踏ん張ってしまった。

数回、踊る様に(たたら)を踏み、藤井がその場に崩れ落ちる。


2度目のダウン、、、しかし3度目のダウンは無かった。

新木が先程決断した事を実行したからである。

交差される新木の両腕と、鳴り響く鐘の音、、、11分24秒、レフリーストップで藤井は敗れた。


高梨と吉川がリング内に雪崩れ込む。

そして吉川の顔を見た藤井、安堵と悔しさから涙が溢れそうになるが、顔をくしゃくしゃにしながら必死にそれを堪えている。


「ごめん、、、ママ、、、ボク、ま、敗けちゃった、、、」

そう言う声は震えている。


「見事に敗けたね。でも全力出したんやろ?なら泣くなっ!胸張って顔上げろっ!!」

吉川はあえて厳しく接したが、その顔もやはり涙を堪えていた。

それを見て藤井も、手で拭ったその顔を誇らしげに上げる。


そこへ新木が呼び込んだドクターがやって来た。そして1度触れただけで首を振る。


「折れとる、、、ちゅうか砕けとるわ。粉砕骨折やな、、、」


担架を待っている間に、勝ち名乗りを終えた山岡が藤井の前に立つ。

そして両手の人差し指を立てながら


「これで1勝1敗や。次がほんまの決着、、、だからまた()ろうや」


そう言うと、清しい笑顔を残しリングを去って行った。

それを見送った藤井、ようやくやって来た担架に乗せられながらこう呟いた。


「うん、、、またいつか、、、」

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