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格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
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鉄壁

決死の反撃を試みた藤井だったが、ダウンを奪った訳でも無く、山岡の動きを数瞬止めただけで試合は未だ続いている。

しかし一連の流れの中、藤井の疲弊していた両腕は、徐々にではあるが確実に回復してきていた。


そんな藤井が改めて構えを取る。

スタンダードなアップライトだが、その両腕は高々と上げられ、ちゃんと顔面をガードしている。

ゆらゆらと両肩を揺らし、前足を上下させながらリズムを取る。

そして時折ステップを踏んで間合いを計り、ムエタイ選手さながらのその動きは、なかなか堂にいった物である。


それを見た山岡は苦い顔をした。

つい先刻までは確かに追い詰めていた。

しかし今、目にしている藤井はこんなにも堂々と、こんなにもリズミカルに構えている。

大いなる勝機を逃してしまった、、、

それを悟ったからこその苦い表情である。

しかし、しかめられていた顔は直ぐに闘士のそれへと戻っていた。


(それならそれでええ、、、もっぺん追い詰めるまでや)


気持ちを入れ替えた山岡が構え直す。

すると会場内は大きく揺れた。

それは総合格闘技の試合では見慣れない構え、、、

両の掌を前方に突き出し、猫足立ちとなったそれは極めて空手らしい物だった。


前羽(まえば)の構え、、、そう呼ばれる物である。

これは空手において、非常に防御力の高いと言われる完全迎撃の構え。

構えた藤井を見て、回復したと判断した山岡は、やはり己が一番信頼を置く「空手」の構えを選んだのである。

とはいえ、昨今では空手の試合ですら、なかなかお目にかかれないこの構え、、、

それを投げや関節技の認められたルールで用いるとは、かなりの胆力が必要な事。

それとも自信に裏付けされた行動か、、、


見慣れぬ、そして対峙した事無き構えに、戸惑いを見せる藤井。

フットワークを使い、山岡の周囲を回りながら様子を窺う。

一方、猫足立ちの山岡はフットワークを使う事無く、跳び跳ねる藤井をただ正面に捕らえる様に、身体の向きだけを変えている。

1分程もそんな展開が続いたであろうか、、、最初に焦れたのは山岡でも藤井でも無く、レフリーの新木だった。

試合を止めてまで注意を与える事はしなかったが、両者を促す様に少々尖った声を飛ばした。


「ほらっ!どっちも攻めろっ!ファイッ!!」


それに煽られたのか、先に藤井が仕掛けた。

いや、正確には仕掛けたと言うよりも、反応を見る為に繰り出した技であった。

上下させていた左足での前蹴り。

スナップを効かせた物では無く、槍の様に前へと突き出す前蹴りである。

それは山岡の腹部目掛けて、一直線に伸びて行く。


当たるにせよ、捌かれるにせよ、それでいい、、、藤井はそう考えていた。

ただ、あのような古式の構えでどう反応するのか?それさえ見る事が出来れば、、、と。

しかしその目論みは、手痛いしっぺ返しとなって己に戻って来た。


山岡は身体を捌くと、瞬時に左半身(ひだりはんみ)となり自らの左足を上げ、迫り来る藤井の蹴り足を己の太ももに乗せる形でそれを受けた。

これにより蹴り足を引けなくなった藤井は、ケンケン立ちでバランスを保つ羽目となってしまった。

あまりに無防備で危険な状態、、、


(あ、、ヤバ、、、)


藤井は右足でケンケンしながらも、咄嗟に両腕で頭部を包み隠す。

しかし、、、

次の瞬間、藤井を襲ったのは頭部への衝撃などでは無く、、、、


「ダウ~ンッ!!」


リング上ではダウンを宣告する新木の声が響いていた。

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