表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
50/76

山岡 太一

幼い頃からバカにされて来た。

障害を理由にイジメも受けた。

しかし悲しくは無かった。

強がりでは無い。

本当に1度たりとも悲しいという感情は生まれなかった。


ただ悔しかった。

ただただ悔しかった。


小人症、、、当然、背は低く手足も短い。

確かに一般の人とは違うのかも知れない。

しかし、自分自身はそれを個性としか捉えていない。

目が大きい、小さい。

睫毛が長い、短い。

鼻が高い、低い。

それらと何ら変わらぬ物と考えて来た。


目が小さかろうが、睫毛が短かろうが、鼻が低かろうが、弄られる事はあってもイジメられる事は無いだろう、、、しかし、、、

自分はイジメられた。

そんな理不尽にも、自分をバカにした健常者にも負けたくは無かった。


そうして選んだ物が空手だった。


良くも悪くも他の事には目もくれず打ち込んだ。

そうするとその内、不思議な事にイジメは無くなって行った。

それどころか周囲に人が集まるようにさえなった。


山岡は拳を奮いながらも、心で藤井に問うていた。

「お前もそうだったんだろ?」

と。

「俺とお前は似た者同士じゃないか?」

と。


しかしこうも思っている。

発達障害を抱えていようと、お前は身体的には健常者と変わらない。

ならば、、、

だからこそ敗けたく無い。

今度は敗けられ無い、、、と。


山岡は前の試合が決まった時、総合格闘技初挑戦だったにも拘わらず、組技は一切練習しなかった。

何故なら自分が心酔し、信じて来た物、、、

空手でいいと思ったからである。

他の技術を習得し、たとえそれで勝ったとしても、それは空手で勝った事にはならない。

むしろ空手への冒涜とすら考えていた。


薄紙を重ね合わせてゆく様に、少しずつ鍛え上げていった己の技。

それが決まったならば、相手が誰であろうと倒せる。そう考えていた。

ましてやキャリアの浅いポッと出が、何をして来ようが自分には通じない。そう思っていた。

しかし、、、そのポッと出に自分は敗れてしまった、、、


それでも自らの考えが驕りだとは思わなかった。

自分が未熟故、藤井に敗れたのであり、空手が総合格闘技に敗れた訳では無い。

だから今後も空手でいい、、、

空手だけでいい、、、

その想いが変わる事は無かった。

そして直ぐに再戦を望んだ。

それを目標に

藤井に勝つ為に

より一層、稽古に励んだ。

空手の稽古に。

他の技には目もくれず。

しかしそんな山岡に、師である柴田が掛けたのは意外な言葉であった。


「お前、、、また敗けるで」


「なっ!?」

問い返そうとする山岡だが、それを制する様にして柴田が続ける。


「なんで組技を覚えようとせんのや?お前はまるで、それを覚えようとする事を恥と感じてる様に見える、、、」


「押忍!思ってます。自分は空手だけでいい、、、だから空手だけで勝ってみせますっ!!」

真っ直ぐ見据える様に言う山岡。


「なんや勘違いしとるみたいやな、、、お前」


「?」

山岡は言葉の意味が解らず、黙って次の言葉を待っている。


「あんな、、、殴る蹴るだけが空手や無い。

本来の空手は投げも極めも備えた総合武術や。確かにそれらは、うち(勇神館)の試合で勝つには不要な物やけど、お前が今後も空手家としての矜持を抱えて行くんやったら、知っといた方がええ、、、いや、知っとくべき物や」


恥ずかしい事に初めて知った事実だった。

しかしそれを知れた事で、己の中で永久凍土の様に凍りついていた物が、ようやく溶け始めた。

そこへ、とどめを刺す様に柴田が言う。


「お前知ってるか?講道館のトップクラスの連中、試合では使えへん足への関節技や、立ち関節、人によっては打撃すらも練習しとるんやで、、、何でか解るか?」


「それが、、、本来の柔道の姿、、、だから」


「せや。その通りやっ!」

迷う事無く返した山岡の答えに、柴田は強く優しい眼差しで満足そうに頷いてくれた。


この一件以降、山岡は柴田に教えを乞い、組技の習得へと動き出した。

そして今、本来の空手家の姿で藤井と闘っている。


以前敗れた事、、、それによる藤井への恨みなどは当然持ち合わせていない。

しかし今回勝利する事への執念は、両腕で抱えきれぬ程に持っている。

そしてその執念が、ついに藤井のガードを突き破った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ