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格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
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投石とアバラ家

藤井の眼前に山岡が迫り来る!

大きく振り上げられた右拳、、、

言うなればテレフォンパンチであり、カウンターを狙う絶好のチャンスなのだが、その迫力に藤井は思わずガードを固めてしまった。


次の瞬間、左側からの衝撃が藤井を襲った。

それは衝撃というよりも単純な痛みに近い。

しっかりと防御はしているが、疲労の溜まったその腕に空手家の硬い拳はやはり(こた)える。

更に右から、、、又もや左から、、、

と、回転力の増した拳の連打が容赦無く藤井に降り注ぐ。

そして積もる様に熱と痺れが藤井の腕を包んでいった。


基本的に空手家は拳を鍛えている。

空手=「(から)の手」つまりは無手。

道具を持たぬ状態で闘いとなったなら?

その問いに空手の出した答えはいたってシンプルだった、、、

「己の五体を凶器と化せば良い」

巻藁を打ち、拳立て伏せを行い、時に石で拳を叩き、時にビール瓶で脛を叩く。

まるで刀鍛冶が鋼を鍛えるが如く、少しずつ時間を掛けて己の肉体を作り変えてゆく。

そうして作り上げられた拳は石にも等しい。


対して、、、

今の藤井の腕は、くたびれたアバラ家のドア、、、立て続けに叩きつけられる石を防ぐにはあまりにも頼り無く、破られるのは時間の問題と言えた。

セコンドの高梨と吉川が必死に叫ぶ。


「足使って回れっ!」


「一彦っ!止まらんと動いて動いてっ!!」


その声は藤井の耳にも届いている。

届いてはいるのだが、逃げられないのである。

ロープを背にしてしまった今、逃げ道は左右のどちらかに絞られている。

しかし連打の回転があまりにも速く、左からの打撃をガードして、右に逃げようとした時にはもう右からの打撃が来ている。

それすらもガードして左に逃げようとすれば、又もや左から、、、と、完全に封じ込まれてしまっているのだ。


暫く距離を取り、様子を見ながら腕の回復を計る、、、そのつもりだった藤井からすれば今の状況はとんだ誤算である。

その腕は回復するどころか、ますます疲労を蓄積させてゆく、それも痛みを伴いながら。


半年前の両者の闘い、藤井はデビュー戦であり、まだまだ自分に自信も持ってはいなかった。

しかしあの試合に勝利した事で自信が芽生え、今ではグングニル障害者の部でも鳥居と並ぶ選手にまで成長している。

それも打撃に関してはトップクラスであり、皆が認める打撃の名手、山下と肩を並べる程だ。

しかし、その藤井が圧倒されている、、、


「ちょっとヤバいな、、、これ」

大作が言う。


「ああ、、、せやな、、、」

崇が頷く。


「以前ならいざ知らず、今の藤井ちゃんがこないなるとはなぁ、、、ちょっと驚いたわ」


「藤井が成長したように、山岡も成長した、、、そういう事やろ。それに間合いの差ってのもあるやろな、、、」


「間合いの差って、、、リーチで言うなら藤井ちゃんの方が有利やのにか?」

キョトンとした顔で大作が問う。


「いや、そういう意味やなくてな、、、

普通ほとんどの格闘技は、一定の距離を取ってジャブやらローで様子を見ながら機を作ってラッシュを仕掛けるやろ?でもな空手の試合は違う。終始ラッシュの応酬になるんや、なんでか解るか?」


問い掛けたはずが逆に問い返された大作。

両手を拡げるジェスチャーでそれに答えて見せた。考える素振りさえ見せぬその様子に、呆れながらも崇が答えを口にする。


「一部の団体を除いて、空手の試合には顔面パンチが無いからや。

顔面パンチが無い事で、怖がらずに相手の懐に飛び込める。そんで互いに密着した状態で正拳と下段廻し蹴りのラッシュを応酬し合う、、、つまり今の状況は空手の得意な間合いであり、山岡のターンって事や」


「でもさ、この試合、、、顔面あり、、よな?」


「先の攻防で藤井の腕は消耗しとる。

それを見切ったからこそ、山岡は躊躇わんと飛び込めたんやろな。藤井も慣れへん空手独特の間合いやから対処出来てへん、、、でもや、考えてみたら前ん時もこんな流れやったよな?」

言われた大作が、視線を一瞬宙へと向ける。


「そういやぁそうやったな!その上で藤井ちゃんが逆転した訳やし、今回も、、、」

そう言って安心した様に顔を(ほころ)ばせる大作だが、崇の表情は固いままである。


「あん時と同じ流れやからって、結果までが同じとは限らへん。こっからはどっちの成長の幅が大きかったか、、、その勝負や」


(今回も解説ありがとう、、、雷電)

そう言おうかと思ったが、真顔の崇を見た大作は何も言わずにリングへと視線を張り付かせた。



打たれながら

それを何とかしのぎながら

藤井自身もあの時の事を思い出していた。

(あぁ、、、前もこんな展開やったっけ、、、逆転で勝ったには勝ったけど、、、あの時もボコボコにされたなぁ、、、)


打ちながら

隙を探しながら

山岡自身もあの時の事を思い出していた。

(あん時は逆転を許したけど、今回はそうはさせへんっ!!)


藤井のダメージを見計らいながら

スタンディングダウンを取るべきか迷いながら

レフリーの新木もあの時の事を思い出していた。

(あの時も止めるかどうか迷ったなぁ、、、でもあの時はこっから藤井が、、、)


三者三様に思い出を脳内再生していたが、その直後ついにアバラ家のドアが破られた。

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