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格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
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策士策に溺れる

リングに座り込んで闘う、、、

その島上の戦法をよしとしなかった三島レフリー。

その裁定に従った2人が、再び中央にて対峙する。

両者、両足でしっかりとリングを踏みしめての試合再開である。


三島が手を振り下ろし、同時に声を張り上げた。

「ファイッ!!」

すると又も現れた異質な光景に、観客席が再び大きくどよめいた。

新たなる島上の奇策、、、それは片膝立ち。

リングに片膝だけをつき、両の手で頭部をガードして少し前傾姿勢に構えている。


「なるほど、、、な」

3割の感心と7割の呆れを含ませ崇が呟いた。


「フフン、、、」

吉川などは全力の呆れ顔で鼻を鳴らしている。


そして勿論この男、、、

レフリーの三島も例に漏れず、誰よりも太い息を吐き出していた。


とはいえ今回の場合、ルール的には何の問題も無い。

ラグナロクにおける総合格闘技ルールでは、

両手・両膝のうち3点以上がリングに接している時、もしくは両足裏がリングに接していない状態を「寝技」と判断する。

つまり片膝しかついておらず、片方の足裏がリングに接している島上の現状は、ルールの上では「立ち技」に該当するという訳だ。

そうなると三島としても、勿論ダウンを取る訳にはいかない、、、

そして当然だが、島上が寝技にもダウンにも該当しない以上は、花山が打撃を仕掛ける事が認められる。


ルールの網目をすり抜けた様な印象ではあるが、実は中々に理にかなった島上のこの「構え」、、、

手こそついていないが、言うなれば陸上競技のクラウチングスタートに近く、瞬間的なスピードと突進力はかなりの物となる。

そうなると低い前傾姿勢も手伝って、非常にタックルを狙いやすいと言う事だ。

相手からすれば、ルール上は許されるとは言え、組まれるリスクが高く、逆に打撃を出しにくくなったとも言える。

だがそれは、あくまで一般的には、、、という話であり、花山はその一般という枠組みに収まってはいなかった。



勝ち誇った顔で島上がにじり寄る。

ジリジリ、、、ジリジリ、、、と。

(さあどうする?貴女には打撃を出すしか手は無いはず。そして貴女が動いた瞬間、、、フフフ、、、)


しかし対する花山は動じる様子も臆する様子も無く、詰め寄り来る島上を下がる事すらせずに睨めている。

そして島上が間合いに入った刹那、何の躊躇いも無く鞭の様にしなる左ミドルキックを放った!


通常の状態ならミドルだが、姿勢が低くなっている島上に対してはハイキックに該当する。

しかし実はこれすらも島上の策の1つであった。

蹴り易い位置に頭部があると、そこを蹴りたくなるのが格闘家の(さが)

つまり低い姿勢は、花山の蹴りを引き出す為の呼び水でもあったのだ。

そしてまんまと思惑通りに事が運び、島上が狡猾な笑みを携える。


(かかった♪)

蹴りを出し、片足立ちとなった今の花山ならば、容易く転がす事が出来る!

そう考え、意気揚々とその軸足へと組みに出た島上。しかし、、、


(??、、、アレ?)

片足立ちとなっているはずの花山なのに、今、島上の視界にはしっかりと2本の足が見えているではないか。

その為、せっかく右足へと組み付いたのに、左足で踏ん張られて狙い通りに倒す事が出来ない、、、島上の脳内では無数の「?」が乱舞していた。


立ち技格闘技、特にキックボクシングやムエタイ、シュートボクシングに於いて、左ミドルというのは極めて重要な技術である。

ポイントが高い事も勿論だが、何より試合を組み立てる基盤であり、そこを起点に他の技へと繋いでゆく。いわばボクシングのジャブに近い役割を担っているとも言える。

その為、蹴り終わりの引き足が非常に速いのだ。

打撃に関しては素人に近い島上、残念な事にこの引き足の速さを見誤った、、、そこまでは計算に入れていなかったのだ。


己の右足に組み付いた島上を、バランスを保ちながら冷ややかに見下ろす花山。

そして氷の様な笑顔を浮かべると、静かに言い放った。


「言ったよね?、、、立たせて殺す、、って」




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