不如帰(ほととぎす)
泣き言ばかりが先行する三島だったが、突然頭の中に神の訓示の如き言葉が降り注いだ。
「レフリーこそが試合の番人である」
そうなのだ、、、今この試合において全権を握っているのは自分。本部席にお伺いを立てる必要など微塵も無い。
自分の判断で裁定を下せば良いだけの事である。
そんな当たり前の事にようやく気付いた三島。
自分を取り戻したのが一目で判る程、凛とした佇まいとなっている。
(やっぱ島上の行動はおかしい、、、黙認は出来へんな、、、)
そう決断した三島が一先ず試合を止めた。
会場隅の崇も本部席に戻っていた大作も、お手並み拝見とばかり、あえて口出しせず傍観者を決め込んでいる。
「島上選手、、、やっぱこのルールでそれはずっこいわ。立たへんのやったらダウン取らせて貰うけど、、、どないする?」
三島の警告に唇を尖らせた島上、不服そうにダラダラと立ち上がろうとするが、なんとそこへ花山がストップをかけたではないかっ!
「ちょい待ちっ!!レフリーさん、、、
言いたい事も貴方の立場も解るんやけど、この試合に限り彼女のアレを認めてやってくれへんかな?、、、勿論アレをデフォにする訳に行かへんのは重々承知やけど、この試合に関しては当事者の私がOKって言ってるんやからさ、、、ねっ!?」
言われた三島。
訳がわからず、もはやちょっとしたパニックである。
(え~っと、、、花山を守る為に島上に警告を与えたけど、、、今度はそれを取り消せと花山本人から頼まれた、、、と。アハ、アハ、アハハハハ、、、)
考えを纏める為の脳内ですら、最後は笑うしか出来ない有り様、、、
すると人間とは勝手なもので、今度は花山の言動が気に入らないらしく、島上があからさまに不快感を示した。
自分の行動を咎められても不服、かといって施しの様に認められても不服という事なのだろう、、、まるっきし子供の言い分である。
それでも一先ずは立ち上がった島上、敵意剥き出しの目を向け花山に問う。
「どういうつもり?施して優越感に浸ってる、、、とか?」
「不如帰、、、」
ボソリと溢した花山に、島上が思わず訊き返す。
「はぁっ!?」
「ほら、あるじゃん!鳴かぬなら、、、ってやつ。アンタはどのタイプ?待つ?鳴かせる?それとも殺しちゃう?」
「ちょ、、、貴女、何言って、、、」
「わかんない?今のアンタは私にとっての不如帰だって言ってんのよ。
でね、私はこういうタイプ、、、
立たぬなら
立たせて殺せ
対戦者、、、ってね♪」
目を見開き、瞬き1つせぬまま言い放った花山。
島上の背を悪寒という蟲が、じんわりじんわり這い上がった、、、
このやり取りを見ていて、ようやく己を取り戻したレフリー三島。
両者に確認の意を込めた視線を送る。
笑顔で力強く頷いた花山、、、
戸惑いと躊躇いを見せながら力無く頷いた島上、、、意を決した三島も小さく数回頷く。
そしてマイクを手に取った三島がリング中央へと向かい、先と同じ凛とした佇まいのその身を衆目へと晒した、、、




