表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
37/76

新変人

見事にワルキューレファイトの初戦を勝利で飾った吉川。

デビュー戦の身で格上を圧倒し、尚且つ勝利をおさめる、、、上出来である。

控え室ではそんな彼女を皆で囲んで談笑していた。


そこへ1人の男が現れた。

ドアを中途半端に開き、首だけを室内に覗かせているのは、先の試合でレフリーを務めた朝倉である。

「お疲れっス!ちょっとええかな?」

その目は崇と吉川に向けられていた。


2人が訝しげに自分の顔を指差し、無言で確認を取る。

「そうそう。ちょっと、こっちゃこう」

手招きする朝倉に誘われるまま、2人は控え室を出た。


「どした、急に?」

崇が問うと、頭を掻きながら朝倉が答える。


「いや、大した事や無いんやけど、、、時間あるなら次の試合、見といた方がいいっスよ」


「ん?どういう事や?」


「次の試合は有田道場の柔道家が、総合格闘技に初挑戦するんやけど、その相手がウチのジムの子なんスわ、、、で、その子がちょっと変わった子でね、、、」


「変わった子?」

興味を示した吉川が初めて口を開いた。


「ああ、元々はシュートボクシングをやってた子やねんけどな、いきなりウチのジムに訪ねて来て、こんな事言うたんや

(立ち技で寝技に勝つ方法を勉強させて欲しい)

ってな、、、」



シュートボクシング、、、

元々キックボクシングのチャンピオンだったシーザー武志氏が、立ち技最強を目指して創始した格闘技。

キックボクシングの技術をベースに、投げ技と立ち状態での関節技を認めており、徹底した立ち技へのこだわりを見せる。



「へぇ、、、それで私達に見といた方がいいってのは?」


「さっきも言うたように変わった子でな。総合のジムに来ておきながら、寝技は一切やらへん。総合格闘家にシュートボクシングの技だけで如何にして勝つか、、、その事にしか興味が無いみたいでな。

当然、最初は話にならんで、こてんぱんにされとったわ

難儀な子やなぁ、、、と思っててんけど、スパーを重ねる度に勝つ頻度が上がってな、今ではウチのジムでも5本の指に入る強者や。それも立ち技しか使わずに、、、や。

実際勿体無い話やで、、、本格的に寝技も覚えたらプロでもイケそうやのに、、、」


「それは確かに変わった子やな、、、因みに障害部位はどこやったっけ?」

選考時の書類を思い出そうと、崇が頭を人差し指でトントンと叩いている。


「右膝下欠損。義足を着用しての打撃は相手にも了承もろてる。前にネットワークの会議で出たコポリマーって素材、覚えてます?

カーボンより軟らかいから安全って勇神館の柴田館長が言ってたやつ、、、あれっスわ」


「ああ!そうやったな、、、有田道場の子は障害なんやったっけ?、、、」

バツが悪そうに崇が顎を掻く。


「アンタ、選考委員長やったのに覚えてへんのかいな?、、、まぁ、こんだけ出場者おったら無理ないけども、、、左目が義眼で、更に左手の指が2本しか無いみたい。なんか昔に事故でって聞いたけど、詳しい事は知らんスわ」

崇に対しては、一貫してタメ口寄りの敬語で答える朝倉。その口調はB系の見た目によく合っている。


そんな朝倉が爪のささくれを剥がしながら吉川に言う。

「さっきの試合を裁きながら思った。

アンタの立ち技のセンスはかなりのもんや。

だから次の試合を見る事は、アンタの今後に必ずプラスになる」

ささくれを取り終え爪に息を吹き掛けると、途端に鋭い目を向け更にこう続けた。


「それに、こうも思った。

そのウチの子、花山(はなやま)香織(かおり)って言うんやけど、いずれアンタとやらせてみたいっ、、、てな」


その言葉を受け、吉川が無言で不敵な笑みだけを返す。


「おもろそうやな。つまりは自分とこの選手の売り込み営業も兼ねて、俺達に見せたいって訳やな?」

未だ無言で怖い笑顔の吉川。その横から崇が代わりに言葉を返した。


「ま、そう取って貰って構いませんわ。

とにかく損はさせへんから、見といて下さいな」

普段の調子に戻った朝倉が飄々と語る。


「わかった。新しい変人の闘い方、ちゃんとウチの変人にも見せとくわ」

そう言った崇の鳩尾(みぞおち)へと吉川の肘鉄がめり込んだ。


「ンゴッ!、、、あのぅ、、、結構ガチで苦しいんスけど、、、」

軽く上半身を折る崇の横では、先とはまた違った類の怖い顔をした吉川が立っている。


それを見て朝倉は

「ハハハッ仲ええなぁ!夫婦漫才ごっそさん♪ほな俺そろそろ行きますわ」

そう言って歩き出したが、2、3歩で振り返ると思い出した様にこう付け加えた。


「そうそうっ!グングニル勢、ちぃ~と私語が酷いでっ!今度から俺がレフリーの時は、警告与えるからそのつもりでっ!!、、、ほんじゃまた後で」

足早に去る朝倉を2人が見送る。

崇はまだ上半身を折ったままで。

そしてその原因を作った吉川はと言えば、、、笑顔で手をグッパーさせていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ