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格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
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大義名分の下(もと)に

先にリングに上がった山下が対戦相手を待っている。

一般的には格下が先に入場するしきたりだが、この大会に於いては、単純にキャリアが短い方が先に入場となっている。


忙しなくシャドーを繰り返す山下。

その姿は落ち着く為に足掻いている様にも見える。

崇の試合が終わった後、リングの隣に設置されている畳の試合場では、空手と柔道の試合が行われており、階下の第二試合場でも型の試合が始まっていた。

その為、観客の視線は分散しており、その全てがリングに向いている訳では無かった。

その事は山下の気を楽にすると同時に、少々の落胆ももたらしていた。


(気は楽なったけど、、ギャラリー減ったんはテンション下がるなぁ、、、)

元来、目立ちたがりの山下がそんな事を思っていると、対戦相手の入場が始まった。


その男は一般公募により決められた。


現れたその男は柔道着を着込んでいた。


そしてその男も山下と同じく右手が無かった。

、、、いや、厳密に言うならば山下と同じでは無い。

山下は右手首から先の欠損だが、その男は肘から先が失われていた。

その男は名を東郷 克己(かつみ)といった。


鋭い眼光と共にリングへと上がる。着込んだ柔道着も腰に巻かれた黒帯も、擦れてボロボロとなっている。その事からもこの男のキャリアが窺い知れる。

しかしである、、、その道着を脱ぎ捨てた時、改めてその実力を連想させられた。


それはミシリと軋む音が聞こえて来そうな肉体だった。

太いワイヤーを編んで人型に組み上げた、、、

そんな印象を受ける。

その半分を失った右腕も普通よりは太いが、左腕は木の幹の様に更なる太さを誇っている。

それは失われた腕部を長年補って来たのだと想像させられた。


スキンヘッドに鋭い眼光、その上この肉体である。山下は気後れしそうになる己を必死に奮い立たせていた。

キャリアのある柔道家、、、隻腕とはいえ寝技はかなりのものだろう、、、、

山下はかつて崇に言われた言葉を思い出していた。

(お前、、、寝技嫌いやろ?)


その通りだった。

反復練習を強いられる地味な組み技が嫌いだった。だからこそ崇の使うコマンド・サンボ、その特殊な技術に惹かれたのだ。

しかし、その事すらも崇には見透かされていた。

(基本の出来てないお前がコマンド・サンボを使うなんて、、、型無しやな)

そう言われた。


基本が出来ていてこそ、それを打ち破るのを「型破り」と呼べるのだ。

基本が成っていない者がそれを試みる、お前がやっているのは「型無し」と言う、、、

そう皆の前で指摘されたのだ。

悔しさと恥ずかしさが己を染めた。


しかし同時に悦びも与えてもらった。

打撃ならばグングニルでもトップクラス、皆がそう認めている事を知らされたのだ。

この言葉は大きかった。

悔いや恥というのは、ともすればマイナスのベクトルとなりがちだが、この言葉のお陰でプラス方向を向く事が出来たのだ。


(最大の武器である打撃を活かす為)

この大義名分の下、組み技の練習から逃げずに立ち向かえた。

ふと、本部席に目をやってみると、がっつり崇と目が合った。

拳で心臓を叩き頷いている。

(自信を持て!)

そう言っているのだろう。

会場を見渡すと、メンバー皆が見てくれている。それだけで力を貰えた様な気がした。


レフリーがリング中央へと呼んでいる。

そうして再び目を向けた東郷の姿だが、それは先ほどまでに大きくは感じられなかった。

(よしっ、、イケるっ!!)

山下の内部で戦意が高まる!と、同時にレフリーの声が響き渡った。

「ファイッ!!」

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