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格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
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睦なる刻

「ワンツーッ!!」

崇の構えるミットへと、指示通りの打撃を繰り出す吉川。

ババンッ!と小気味良い破裂音が周囲に響き渡る。

そして崇が胸元へとミットを構え直すと、吉川が直ぐ様そこへと膝を突き刺す。

リズムも反応もいい。

それらを受けながら崇は、吉川の仕上がりの良さを感じ取っていた。


対戦相手は保科(ほしな) (しずか)

年齢は32歳。

顔面パンチはおろか、投げや関節技をも認める実戦空手「大極塾(たいきょくじゅく)」に所属していた強豪である。

27歳の時、家族の死をきっかけに吉川と同じく心の病を発症し、それを理由に大極塾を退団。

それ以降は格闘技を諦めていたが、ラグナロクの事を知り、燻っていた想いにけじめをつけようと応募してきた。

5年のブランクがあるとは言え、やはり吉川より数段格上と言える、、、決して楽な相手では無い。


(ただの空手家やったら、、、)

そう崇は思っていた。

打撃しか使えぬ空手家ならば対策も練りやすい。

打撃に対する防御を徹底し、隙あらば組技に持ち込む、、、これがセオリーと言えるが、最早空手家というより総合格闘家と呼べる保科が相手では、それも通用するとは思えない。


ただし吉川には、他の者よりずば抜けて優れた武器があった。

それは勘の良さである。

センスと言い変えても良い。

教えた事の吸収が早く、1度見た技をそれなりの形で使いこなせる。

更にはアレンジも上手く、場面場面に適した技のセレクトも的確と言える。

これは一種の天賦の才である。


もちろん才だけで、保科が積み重ねた物をどうこう出来るとは言わないが、キャリアの差を埋めるのはそれだと、崇はそこに賭けていた。

試合の中で彼女なりに成長し、その都度閃きで対処してくれる、、、

淡い期待と人は嗤うかも知れない。

シビアな闘いという場で何を甘い事を、、と。

だが何故か崇の中では確信として、それが存在していた。


「よしっ!ええ感じやっ!とりあえず組技も少しやっとくか、、、パートナー、優ちゃんに頼んでみるから、少し待っといてな」

そう言いながらミットを外した崇に、吉川がぼそりと言う。


「いいよ、、、福さんで、、、」


「え、、、?」


予想しなかった言葉に、思わず崇がたじろぐ。

組技のスパーリングは全身に触れ合う事となる。

その為、異性だと互いにどうしても遠慮が出る

という事で、基本的に女性のパートナーは女性が務める暗黙の了解が出来上がっている。

崇が行った、コマンドサンボ特別講習の時でさえ、吉川のパートナーは優子に頼んだ程だ。


「呼びに行く時間も勿体無いしさ、福さんが相手してよ、、、嫌じゃなけりゃ、、、やけど」


窺うように見つめる吉川の顔は、仄かに紅く染まっており、どこか羞じらって見えた。

対する崇も、もじもじと身体を揺らしながら答える。


「嫌なわけ、、、わかった、、、俺で良けりゃ相手する、、、よ、、、」



いい歳をした男女が照れ合う様子は滑稽で、見てる方まで恥ずかしくなる物だが、藤井だけは少し離れた場所から、笑顔で微笑ましくその光景を眺めていた。


バンバンッ!と両手で顔を叩いた崇が、意を決した様子で言う。

「よっしゃっ!!んなら、、、やろかっ!?好きに攻めといでっ!!」


その言葉に頷いた吉川、その顔はもう戦士のそれとなっている。

低く重心を落として構える崇に、吉川が前後左右へとステップを踏みながら機を窺う。

そして崇が左足を踏み出し、1歩間合いを詰めたその瞬間、吉川が低い姿勢で大きく右へとサイドステップを踏んだ。

一瞬、崇の視界から吉川が消える。


「!!」

崇が気付いた時には、左足を吉川の両腕に抱え込まれていた。

吉川は崇の踏み出す側の足を見極め、一旦その方向へサイドステップする事で、反応しづらい状況を作ってからタックルに入ったのだ。

(う、上手いな、、、)


更に吉川は、抱えた崇の左足を崇の方へ押すのでは無く、自らの方へと強く引き寄せた。

初心者は相手の足を取った時、とかく前へと押しがちだが、その行為、実はあまり効果は無い。

テイクダウンが目的ならば、手前に引く方が相手は対処しにくいのだ。


前のめりに倒れ込んだ崇の背後を取り、おぶさる形で吉川が乗り掛かるっ!!

しかし崇も簡単にそうはさせない。

背後からガッチリとホールドされる前に、身体を半転させて仰向けとなり、すかさず両足を吉川の胴へと絡めた。所謂(いわゆる)ガードポジションである。

吉川が更にそこからパスガードを狙った所で崇がストップをかけた。


「ここまでやっ!試合前に体力使い過ぎるんはアカン、、、」

事実、吉川の息は切れている。止めたのは賢明な判断と言えた。

しかし崇を攻め込んでいた吉川は、どこか未練を残したらしく、唇を噛みながら悔しそうに小さく頷いた。


「そんな顔すんなって、、、引退した俺はもうジムには行かへんけど、望むなら後日改めて相手するからさ、そん時はジムに呼んでくれ。

ひょっとしたら吉川さんが俺から1本を取る1番乗りになるかもな、、、」


そう言ってウインクして見せた崇。

ジムの面々が誰1人、1本を取る事の出来なかった崇である。そんな男から自分が1本取れる訳は無い。それは吉川も解っていたが、それでもこの言葉は嬉しかった。

笑顔を返す吉川に、崇が更なるサプライズを告げる。


「御守りのお礼と、折角の御守りを敗けて無駄にしてもうたお詫びや、、、この試合、俺がセコンドに就く!」

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