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格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
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「えっと、、、俺はどうすりゃいい?」

レフリーの三島が大作の顔を覗き込む。


「ん?あぁ、、、とりあえずリングに戻ってええよ」

あっけらかんと答える大作。そしてその言葉は三島を更に不安にさせた。


「え?いや、でも、、、審議結果の発表は?」


「それは今、福さんに頼んだ。福さんの考えは正しいと思う。だからそれは福さん自身の口から説明して貰おうと思ってな♪」


長い息を吐きながら、恨めしそうに大作を見た崇。

「別に俺が言う必要無くね?本来なら主催者のお前か、レフリーの三島さんがするべき事やろが?」


「俺も三島さんも、福さんの考えに納得させられた訳やけど、その考えを俺達の口から伝えようとしたら、どうしても少しニュアンスのずれが出来るやん?だから俺達を納得させたように、福さん自身が皆を納得させてぇな」


「あぁ、なるほど確かにそれは言えとるね。

福さんのお手並み、隣から拝見させて貰うわ」

いとも簡単に職場放棄した三島に半ば呆れながらも


「へいへい、、、やりゃあええんやろ?やりゃあ、、、」

そう言って首を竦める崇。


「ほんじゃまぁ頼んだで♪」

手をグッパーと開閉し大作が崇を送り出すと、三島が一足先にリングへと向かい、自らの身体でロープを開いた。

それに続いた崇がそこを潜り抜け、数時間ぶりにリングインを果たすと、何事かと観客がどよめいた。


三島からマイクを手渡され、崇が四方へと頭を下げる。

「おかえりぃ~」

「もう復帰宣言かぁ?」

「お早いお帰りでっ!」


関西人らしい愛ある皮肉。

そのヤジに失笑しそうになるが、グッと堪えた崇がようやく口を切った。


「只今の試合における松井選手の行為について、その見解と審議結果をご報告させて頂きます。松井選手は指で身体の痛点を圧っしてダメージを与えた訳ですが、この行為を反則とするならば、同じく痛点を圧っするアキレス腱固めやフェイスロックも反則という事になります。よって、この行為を有効と判断し、このまま試合を再開いたしますっ!!」


拍手と歓声が渦巻く中、又も崇が四方へと頭を下げる。そしてリングを降りようとしたその背中に、刃物のような視線と底冷えする声がぶつけられた。

「オイ、、、ちょっと待てよ」


納得出来ない鈴鳴が崇を呼び止めたのである。

足を止めた崇が振り返りもせずに答える。

「、、、なんや?」


「これがアンタ等グングニルのやり方か?

自分の所の選手を庇って、守って、、、

えらい過保護やのぅ!」

最初こそ静かだった口調は、言い終える頃には興奮から尖った物へと変わっていた。

リング上の異変に気付いた観客も拍手を止め、いつしか事の成り行きを見つめている。


「なんや、羨ましいんか?」

未だ背を向けたままで崇が言う。


「あぁっ!?」


「いや、、、俺にはそんな風に聞こえたもんでな、、、まあええ。

よっしゃ解った、どうしても言うんやったら松井にペナルティを与えたるわ。但し、、、

お前も同罪でペナルティやけどな」


「な?、、、なんで俺まで?」


「よう思い出してみぃ。

試合の序盤、お前は松井のガードポジションを崩す為に何をした?

松井の腿の痛点を肘と膝で圧っして、劇痛を与えた上でパスガードに成功したよな?

松井のあれが反則なら、お前にもペナルティ与えるんが筋やろが?」


「ん、ぐっ、、、」

何も言い返せない鈴鳴。

ここでようやく崇が振り返った。


「見苦しいど茶坊主っ!!

アレは反則ちゃうかとレフリーに泣きついて、それが通らんかったら今度は、えこ贔屓やと言い出す。

いざ言い分を聞き入れて、両成敗を言い渡しても文句を垂れる、、、

ワレッ、格闘家やろがぃっ!情けない思わんのか、オオッ!?」


気を吐く様な恫喝とその迫力ある表情に、思わず身が竦んでしまった鈴鳴。

思い返せば怒鳴りつけられたのなど、師が逝って以降は無かった事である。

鈴鳴は畏れと共にどこか懐かしさすら感じていた。

そして己の所業を恥じるように俯くと、数回鼻先を掻き

「せやな、、、アンタの言う通りやな、、、

俺、めっちゃ格好悪いわ。

水を差して悪かった。いや、すいませんでした」


そう言って崇とレフリー、そして松井に一礼をし、最後に観客に向け四方へと頭を垂れた。


「解りゃええねん、解りゃあ」

それだけ言うと、初めて鈴鳴へ笑顔を見せた崇。しかしそれ以上の言葉は掛けずに、そそくさとリングを降りた。

数時間しか経っていないとは言え、自分は引退した身である。そんな自分が長くリングに立っていてはいけない気がしたのだ、、、

それは幽世(かくりよ)に行かずに現世(うつよ)にしがみついている様で、それこそ物哀しく、そして見苦しい。


それはさて置き、ようやく落ち着いたリング上を再び拍手と歓声が包んだ

再開を前に又も鈴鳴から差し出された右手。

そしてそれを松井が強く握り返す、、、それは試合開始時に見たのと同じ光景だが、その意味合いは違っているのだろう。

その証に2人の顔には僅かながらも笑顔が浮かんでいた。


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