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格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
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甦った記憶

不自由ながらも両足を鈴鳴の胴に絡め、ガードポジションを取る松井。

しかしそれは直ぐに解除される事となる。

「ッ!!、、、?」

松井の右足を不意に劇痛が襲った。


鈴鳴が松井の大腿部にある痛点に左肘を圧し付け、そのままリングへと固定したのである。

肘の鋭角で大腿部を串刺しにされた松井、、、

電流の走る様な痛みに抵抗すら出来ない。

そこへ今度は肘に代え、己の右膝を乗せた鈴鳴。松井の右足に更なる劇痛が跳ね上がる。


鈴鳴も足が不自由な為、素早い動きこそ出来ないが、それでも固定した松井の右足を余裕をもって軽々と乗り越えた。

パスガードに成功した鈴鳴が、そのまま横四方固めへと移行する。

そうである、、、先程鈴鳴が浮かべた不敵な笑み、その意味はここにあった。

自分がグラウンドの攻防は出来ない、そう思い込んでいるらしい松井を嘲笑ったのである。


そして、上を取りながら直ぐに攻めなかった事にも意味があった。

1つは寝技が出来ないと見せかける為のプラフ。

もう1つは先の攻防がロープに近い位置だった為である。

寝技が出来ないふりをして松井の反撃を誘い、十分にロープとの距離が出来た所で満を持して技術を曝したのである。

そしてそれらの作戦は見事に型にはまった。


右サイドから抑え込みながら、舌舐めずりをする鈴鳴、松井の耳元に顔を寄せるとこう囁いた。


「残念やったな。ウチは実戦合気道を謳っとってな、、、打撃も寝技も使えるんよ」


対する松井の表情は焦りが色濃くなっていた。

先まで右側の視界に入っていたロープ、少し移動すれば手の届く位置にそれはあった。

しかし今、視界に入るのは細長い鈴鳴の肉体である、、、

抑え込みからの脱出を試みながら、四方へと視線を走らせてみる。


(頭側、、、ダメや、左手側、、、絶望的に遠い、足方向、、、やっぱ無理かぁ、、、)


全ての方向、ロープへは逃げれそうに無い。

やはりこの抑え込みから、自力で脱出するしか手は無いようだった。

抑え込まれてから約10秒が経過している、、、

もう時間もあまり残されてはいない。

しかしその時、ある技術が松井の脳裏を(よぎ)った。

それを知ったのはラグナロク直前に行われた、崇のコマンドサンボ特別講習での事である。


何度目かのスパーリングで、鳥居が崇を抑え込んだ事があった。

その技、上四方固めはガッチリと決まっており、誰の目にも返す事は不可能に見えた。


(ついに鳥居が崇から1本取るかも、、、)

皆の中にそんな空気が流れたその時、鳥居が奇声を張り上げた。


「イッ!ギギゴッ、、ゴグガァッ~~ッ!」


見ると鳥居のエラの辺り、その顎骨に崇の人差し指が第2関節付近まで挿し込まれていた。

その指を顎骨にフックさせ、手前へと引っ張る崇。鳥居はあまりの劇痛に、思わず抑え込みを解いてしまった。


「~~ッ!!いってぇ、、、福さん、それ狡く無いかぁっ!?」


顎に手を当てた鳥居が、苦痛と悔しさを滲ませながらボヤく。


「鍛えた指で身体の痛点を攻めただけや。

これが反則なら、手首の骨で痛点を攻めるアキレス腱固めもフェイスロックも反則って事になる。これで鍛えた指はいざという時、強力な武器になるんが解ったやろ?

しかしこれが路上やったら、一切躊躇わんと目かケツの穴に突っ込んでた所やで、、、スポーツマンシップに溢れる俺に感謝する事っちゃな」


崇は表情1つ変えずに、怖い事をサラリと言ってのけたのだった。

ここに来てその時の記憶が甦った松井。

長年空手を続け、貫手で鍛えた指先である。

右手の人差し指ならば、薄いベニヤ板程度なら穴を穿つ事が出来る、、、その強さには自信があった。


しかし右手は鈴鳴の胴の下に入り込んでしまっている。顎骨を狙う事は出来ない。

ならば左手で、、、いや、駄目だ、、、

鈴鳴の顔までは距離があり過ぎる、こちらが何かを仕掛けるのがバレバレだ、、、

そこで松井は閃いた。

(何も顎に拘る必要あらへんやん)、、、と。


鈴鳴が呻き声をあげ、身体を跳ね上げたのはその直後の事だった。



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