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格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
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脱力

ゴングが鳴ると、鈴鳴の方から右手を差し出した。

松井がそれを強く握り返す事で、本当の試合開始の合図となった。

座したままで前傾姿勢となり、顔前に出した両手を動かしながら間合いを計る松井。

対して鈴鳴は、胡座(あぐら)をかいたまま両手をダラリと垂らし、見るからに脱力をしている。

一見すると隙だらけに見えるその構え、しかしそうで無い事を松井は知っていた。


武道において脱力するというのは、勇気の要る事であり、ある意味極意とも言える。

人間の肉体は、緊張下においては筋肉に力が入り、自然と硬化してしまうものである。

しかし目の前のこの男は、、、


闘い、、、それは平和な現代では非日常の事態といえる。

その緊張状態にあって脱力出来るというのは、並みの精神力と自信では無い。

この事からも鈴鳴の度量と技術が伺い知れる。


(不用意に仕掛けられんな、、、)

そう思いながらも松井は、色々とフェイントを仕掛けてみる。

伸ばした手で首を取りに行く仕種をしてみたり、頭を下げてタックルに行くふりをしてみたり、、、しかしその動きのどれにも鈴鳴が反応する事は無かった。

冷静な視線で松井の動きを追うだけで、脱力状態のまま動きはしない。


(やりにくい、、、)

僅かばかりの焦りを感じる松井。

護身術である合気道の特性だろうか、鈴鳴の方から仕掛けてくる気配は無い。

かといって、こちらから仕掛けてしまえば、敵の力を利用するのが得意な合気道、、、相手の思うつぼである。


「厄介な相手やなぁ、、、」

セコンドの鈴本が呟いた。


「せやなぁ、、、」

隣で高梨が同意する。


鈴本はどう指示すれば良いのか判断しかねていた、そして助けを求めるように高梨を見やった。

元々、高梨は少林寺拳法の使い手である。

合気道と似た性質を持つ少林寺拳法、それを知る高梨なら或るいは、、、そう考えての事だった。

それを理解してか、直後に高梨が叫んだ。


「焦るなよっ!相手からは攻めて来んはずや、そのまま暫くは隙を探れっ!!」


その指示に頷いた松井が、首を取るふりをして右手を伸ばす。

そしてその時、ついに鈴鳴が動いた。

伸びて来た松井の右手、それを左手で掴むと身体を半身に捻りながら、自らの左下後方へと強く引き落とした。


「隅落とし」、、、そう呼ばれる技の応用である。

咄嗟の事に反応出来なかった松井は、重心を崩され容易くリングに転がされていた。その上に鈴鳴が覆い被さる。


「あちゃぁ、、、俺のせいやろか?」

自分が指示を出した直後のこの流れ、責任を感じたのか高梨がボソリと溢す。


「せやろなぁ、、、お前の言葉は相手にも聞こえとったやろしな、、、」

不用心な高梨の指示を、軽くディスってから鈴本が声を飛ばす。


「ロープ届くぞ!無理せんと逃げろっ!!」


幸いにもリングに倒されただけで、関節は極められてはいない。鈴鳴は松井の上に体重を預けてはいるが、攻めあぐねている様子である。

基本的に合気道の固め技は、受け・投げ・極めが一連の流れとなっている。

つまり投げ終えた時には極めも完了している技が多い。


しかし鈴鳴の用いたのは基本となる投げ技であり、極めまでが連動していない物だった。

こうなると合気道の技術だけでは攻め手に欠けてしまう。

というのも、総合格闘技における寝技の攻防は柔道やレスリング、柔術やサンボの技術がベースとなる事が多い。

しかし合気道には寝技に入ってからのグラウンド・コントロールの技術は、ほとんど無いと言ってもいい。


つまりカウンターで投げと極めを終えてしまわねば、寝技の攻防に入ってしまえば不利となってしまう、、、そして、それこそが松井のつけいる隙とも言える。

上を取りながらろくに仕掛けても来ず、攻めあぐねている鈴鳴を見て、松井自身もそれを確信していた。

その安心感からか直ぐにロープへは逃げず、松井は反撃を試みる。


下からの三角締めや腕十字を狙って行くが、逃げるのが上手く鈴鳴にはなかなか極らなかった。

焦れて攻めが荒くなり、それによる攻め疲れも目に見えて来た松井、、、

そしてその時、それまで凌ぐだけだった鈴鳴が不敵に嗤った。

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