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格パラ外伝 意志を継ぐ者達  作者: 福島崇史
19/76

過去 1

試合開始直前、鈴鳴はリング中央で松井と目が合うと軽く頭を下げた。

その意外な行動につられて、思わず松井も頭を下げる。

しかし両者共に目付きは鋭いままである。

だが、2人のそれはまるで性質の違う物だった。

松井の視線が闘志の表れならば、鈴鳴のそれは憎悪。

しかも松井に対してでは無く、世の中全てを憎んでいるかの様な、、、ある種、世捨て人の如き暗き双眸。

そのゾッとする眸を生んだのは、これまで歩んで来た辛き人生だと言えよう。



派手な遊び人だった鈴鳴の母親は、飲みに出た先で知り合ったブラジル人の男と、意気投合し一夜を共にした。

そうして鈴鳴を身籠る事となる。

しかしそのブラジル人の男とは所謂ワンナイトの関係、、、それっきり会う事すら無かった。

それでも彼女は産む決心をする。

いや、決心と言うのは少し違うかも知れない、不思議な事に、産むという選択肢以外は彼女の中に無かったのだから。


そして産まれて来た男児に父親と同じ名、鈴鳴(ベルナルド)と名付ける。

小学生ともなると、鈴鳴はどんどん父親に似てきた。

最早日本人とのハーフというより、純粋なブラジリアンと言われても納得出来る程に、、、

そしてここから彼の地獄は始まる事となる。


母親は酒に溺れ、父親に似てきた鈴鳴を罵り、八つ当たりの様に虐待を始めたのだ。

そして更なる不幸は、学校すらも彼の逃げ場とはならなかった事である。

その風貌と鈴鳴という名前でありながら、戸籍上は純粋な日本人、、、その事は残酷な生き物である子供にとって、いじめの対象とするに十分な理由となった。


やがて母親の虐待が発覚し、施設に引き取られる事となるのだが、ここも彼にとって安息の地とはなり得なかった。

施設の他のメンバーは、学校の連中と同じく鈴鳴をいじめの対象とし、蓄積された己の鬱憤を晴らしていた。

そして施設の職員すら、それを見て見ぬふりをしている、、、

数年は堪えて来たが、ついに鈴鳴は施設を飛び出し、学校へも行かなくなった。小学校中退である。


それからの鈴鳴は荒れた。

街の不良グループに入り、少年ギャングさながらの毎日を過ごす。

街を徘徊し、サラリーマンや老人を襲って金を奪っては遊びに費やす、、、そんな繰り返しの日々が過ぎて行った。

そして14才になったある日、運命の出会いをする事となる。


その日も鈴鳴は仲間2人と共に、いつもと同じく獲物を探して街をさまよっていた。

時刻は深夜2時を少し回った頃、人通りの少ない生田神社の西側裏通り。

そこで1人で歩いている老人を見つけた。

足取りは軽くしっかりしているが、その手にはステッキを持っており、和装に雪駄そして頭には縁あり帽子を被っている。

体格も小柄で手頃な獲物に思えた。


鈴鳴ら3人はいやらしい笑顔で頷き合うと、その老人に駆け寄り、直ぐ様囲んで見せた。


「オイッ!爺さんよっ!ちぃ~と人助けしてくれんかぁ?」

仲間の1人が威圧的に言う。


「人助け?ハテ、、、何んの事や?」

老人は首筋を掻きながら、飄々とどぼけて見せた。


「知らばっくれとんとちゃうどジジイッ!ええ歳こいて怪我しとぅ無いやろがワレッ!」

もう1人の仲間が派手に脅しをかけながらにじり寄り、キスでもするのでは?と思う程にその顔を近付けている。


鈴鳴は腕を組みニヤニヤしながら、ただその様子を見ていた。

いつもの連中と同じく、直ぐに半ベソをかきながら金を出すだろう、そうタカを括っていた。

だがしかし、その想像は砂上の楼閣よりも脆くボロボロと崩れ去る事となった、、、



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