ハシビロコウさん
3月27日の日曜日
隣りにハシビロコウさんが越してきた
ハシビロコウさんは日の出とともに出かけていく
僕は夢の中でハシビロコウさんの大きな羽がはばたく音を聞く
ハシビロコウさんは夜遅くに帰ってくる
僕はシャワーを浴びながら大きなくちばしがドアノブを咥える音を聞く
土曜日の午後に駅に行くとバス乗り場とタクシー乗り場のちょうど真ん中にハシビロコウさんが立っていた
身動きもせずに改札に吸い込まれていく人々をにらんでいた
じいっと改札から吐き出されてきた人々をみつめていた
だれもハシビロコウさんには気がつかない
その視線を感じることもなく足早に改札に吸い込まれ吐き出される
4月3日の日曜日
ハシビロコウさんは越していった
隣りの部屋はまた空き室になった
月曜日になり僕は改札に吸い込まれる
夜には改札から吐き出されるのだろう
ハシビロコウさんがいない駅の改札を
明日も明後日も吸い込まれ吐き出されるのだろう