裸の王様のあの服は欠陥商品
裸の王様のあの服は欠陥商品だと思います。
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「とても珍しい品をもってまいりました。」という異国から来たという商人がやってきた。
頼み込み、なんとか、国王に会ってもらえることになった。
はじめに、宝石や異国の壺、置物などを見せた。
そして、
「これが、今回の目玉の品です。」
そう言って、大きい木の箱を取り出してきた。
蓋を開けて盆を取り出して、こう言った。
「これは、『バカには見えない服』でございます。
とても素晴らしいでしょう。陛下は、バカではございませんから、よく見えますでしょう。」
商人は自慢げだった。
『こいつ、正気か!?』
国王は思わず商人の正気を疑った。見たところ、きちがいではない。正気のようだ。自慢げだった。
国王は、従者に何かをとりにいかせた。
「それは、バカには見えないのだな。」
「はい。」
「そのような、欠陥商品はいらないぞ。」
「まさかこの服が、見えないのですか?
陛下はバカではないのですから、この素晴らしい服が、よく見えるでしょう?」
「そういうことではないのだが・・・。そもそも」
そこに従者が、粉の入った器を持ってもどってきた。粉は小麦粉だった。
国王は、それを『バカには見えない服』に振りかけた。
服についても払えば落ちるだろう。
盆の上に小麦粉が積もった。
「・・・。」
「・・・。」
見つめあう国王と商人。
しばしの静寂。
「・・・。なにも無いように見えるが?」
「・・・。こっ、小麦粉はバカですので、『バカには見えない服』には付かないのです。」
「それはすごい。汚れが付かない服なのか?」
「そっ、その通りでございます。考えることがないバカな汚れなど付きません。」
『どっ、どうだろう。ごまかせたか?』と商人は動揺した。
『おお、この状況でまだ『バカには見えない服』とやらを売るのをあきらめないとは度胸があるな。それともバカなのか。』と国王は思った。
「その服を着ているところを見てみたいな。着て見せてくれ。」
「えっ。買ってもらう服を私がきるのは。」
「着て見せてくれ。」
「わかりました。」
しかたなく商人は、用意された衝立の後ろで着替えた。
国王の従者が見張っていたので、別の服に着替えることも出来なかった。
パンツ1枚に見える姿で国王の前にでた。
「いかがですか?すばらしい服でございましょう。」
自慢げに商人が言う。
「(度胸が)すごいな。」 感心した表情で言う国王。
「そうでございましょう。」 自慢げなに商人。
「ところで、『バカ』というのは何をもって『バカ」とするのか?
漠然としていて、基準がよく判らんな。
読み書きが出来るかか?
計算がどの程度できるかか?
知識の量がどの程度あるかか?
トラブルに対処する能力か?
どうなのだ?」
「そっそれは・・・。知識の量です。一般常識程度の知識の量があれば見えます。よく見えますでしょう?」
「なるほど、一般常識程度の知識の量のない者には見えないのだな。」
「その通りです。」
「それこそが、欠陥だ。」
「えっ。へっ陛下には見えますでしょう?バカではないでしょう?」
「俺に見えるかどうかではない。『見えない者がいる』ということが欠陥なのだ。
もしその服を着ていて『バカ』に該当する者に見られたら、その者からは裸に見えるだろうが!今のお前の様に。」
「・・・。えっ。」
「俺は、見えない者がいるかもしれない服など恥ずかしくてとても着れないな。
見ることが出来ない者がいるような服は欠陥商品だ。
そのような物を王に売りつけようとするとは、とんでもないやつだ。
この者を捕えて牢にいれろ。」
「そんな!」
「牢の中では、その服を着ているといい。いい服を着ていられてよかったな。」
「そんなっ。」
「ところで、残念ながら俺にはその服が、見えないのだが、誰か見える者はいるか?」
見えるという者は、いなかった。
「見えるのがお前だけでは、無いのと同じだな。存在しない物を売ろうとするとは、ますます許せん。覚悟しておけ。」
「そんな!あの、私にも見えません。同僚の商人に、この国の王様になら見えるといわれてきただけです。勘弁してください。」
「だめだ。当分の間、その服を着て牢の中に入っていてもらう。反省しろ。」
そして商人は投獄された。
同僚の商人も捕まった。
「あの商人は同僚に騙されて来たのだと思うか?」
国王は大臣に尋ねた。
「持ってきた品も質が悪かったですし、目利きではなかったでしょう。可能性は高いでしょう。」
大臣は答えた。
「しかし、『バカには見えない服』というのは、まるで『バカにしか見えない、バカだけに見える服』のようだったな。」
「そうですね。あの商人が持ってきたのはまるで『バカにしか見えない服』のようでしたね。」
あの商人。バカだけど、度胸はあったなあ。最後は情けなかったけど。と、二人は思うのだった。
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後日
「なあ、大臣。この間の、あの服、本物だったら『バカには見えない』じゃなくて、別の効果だったらよかったのにと思うんだ。」
「と、言いますと?」
「『男には見えない服』だ!」
「男?」
「そして、侍女たちに着せる!すると俺たち男には、侍女たちが裸にみえる!!」
「なるほど!」
「早速、研究させるか!」
「そうですね。では予算を」
「ダメですよ。」
侍女長が聞いていた。目が笑ってない、怖い笑顔で止められた。
「ちょっとぐらい。」
「ダメですよ。」
侍女長に説教された。
『男の夢がー』国王はがっくりするのだった。
裸の王様のあの服は欠陥商品だと思います。
『バカ』に該当する人から見られたら、裸に見えてしまいます。
見えない人がいるかもしれない服なんて恥ずかしくて着れません。
そして衝撃の事実、!! 裸の王様のあの服は本当は、『バカには見えない服』ではなく
『バカにしか見えない、バカだけに見える服』だったかもしれない。などと途中から思った。